無事に曹操の追手を退けた公孫瓚達は、笑みを浮かべながら劉備の領地に向かう。
道中に旅の疲れから病になってしまった子供や老人がいたが、折よくとある道士夫婦が現れると病を癒して去っていった。
そうして旅を続けて劉備の領地に辿り着いた一行は、喜びの声を上げたのだった。
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「久し振りだなぁ、公孫瓚殿、趙雲殿。」
「世話になる、劉備殿。いや、これからは主君と呼んだ方がいいか?」
「殿と呼ぶのもありですなぁ。」
「よせやい。人前じゃともかく、普段はこれまで通りでいこうぜ。」
公孫瓚と趙雲のからかいに劉備が心底面倒そうな顔をすると、場は笑いに包まれた。
そんな笑いの場に一人の兵が文を持って現れる。
「おっとすまねぇな、公孫瓚殿、趙雲殿、先に文に目を通してもいいかい?」
「あぁ、我等の事は後でいい。」
公孫瓚の返事を聞いて劉備は文に目を通す。
すると、驚いた表情を浮かべた。
「どうしたのだ、劉備殿?」
「いやぁ…今日は千客万来だと思ってな。」
「その言い様だと、我等以外にも客が来たようですな。」
公孫瓚の問い掛けに劉備が答えると、趙雲は面白そうだと感じて笑みを浮かべる。
「重ねてすまねぇが、客人を呼んでもいいかい?」
公孫瓚達が頷いたのを確認した劉備は、兵に来客を案内してくる様に命ずる。
少しの間を置いて、一人の男が場に姿を現した。
「招き入れていただき感謝致します、劉備殿。」
美しさを感じさせる所作で包拳礼をしたこの者は張郃という男である。
張郃は元は袁紹に仕えていたのだが、袁紹が文醜と顔良を贔屓して用いていた為に武功を上げる場を得る事が出来ていなかった。
更に袁家の醜い内部争いに嫌気がさした張郃は、一族郎党を率いて縁のある劉備の元にやって来たのだ。
「久し振りだな、張郃殿。ところで、文に書いてあった一族郎党を受け入れてもらいたいってのは本気かい?」
「もちろんです。」
「はぁ…なんだって皆しておいらの所にくるのかねぇ?」
劉備が頭を掻きながら愚痴を溢す様に言う。
「劉備殿の人徳ですかな。」
「趙雲、おだてたって酒ぐらいしか出さねぇぞ。」
「それはおだてがいがありますなぁ。」
趙雲と劉備の会話を聞いていた者達は、大きな声で笑ったのだった。
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『十虎将』
三国志の時代の蜀漢に仕えた主な将達をさして、彼等は十虎将と呼ばれた。
十虎将には旗揚げ初期から劉備に仕えた関羽を始めとし、張飛、呂布、張遼、呂玲綺、公孫瓚、趙雲、張郃といった当時を代表する名将達が名を連ねている。
この十虎将の噂を聞いた曹操は己も同じ様に配下の将達に異名をつけようとしたのだが、どうしても十虎将と比べると見劣りをしてしまう為、苛立ちのあまりに机を叩き斬った。
そして曹操はこう言ったと伝えられている。
『劉備に過ぎ足る者達有り。何故に天は俺を彼の者達の主に選ばなかったのか?』
曹操と劉備の陣容の対比はかつての項羽と劉邦の様だと例える者もいる。
その例えが間違いではなかった事を証明する様に、曹操と劉備の戦いは中華の覇権を競う程に大きくなっていったのであった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。