第223話
side:二郎
中華が蜀漢により統一されてから早百年が過ぎようかという頃、中華に新たな乱世の兆しが現れた。
それは中華の外からやって来た異民族が原因だ。
俺は異民族が住んでいた土地の神に、中華の神々と戦をするつもりなのかと問い掛けたが、異民族が住んでいた土地の神は平身低頭の態度でそのつもりは無いと言った。
神の意思が介在していないのであれば、軽々に中華の神々が介入するわけにもいかない。
伯父上がそう決めたので、俺も静観を続けた。
異民族に襲撃をうけた者達の中には領地を売り渡したりする者もいたので、中華は異民族により新たな国を造られるかもしれないと伯父上は嘆いた。
こういった異民族の侵攻により国の支配民族が代わるのは、世界を見渡せばそう珍しいものではない。
なので伯父上は覚悟をしていたのだが、そうはならなかった。
劉備の子孫が旗頭となって中華の民をまとめ、異民族を打ち払ってみせたのだ。
この劉備の子孫の武功に惜しみない称賛を送ると共に、伯父上は一つの権限を与えた。
それは、伯父上と直接話をする事が出来るというものだ。
天帝である伯父上と直接話を出来る機会は、道士はおろか仙人でもそうあるものではない。
故に、劉備の子孫は平伏しながらもこの権限を大いに喜んだ。
この後に伯父上と話を出来る権限は代々の中華の帝に受け継がれ、『天子』と呼ばれる様になった。
こうして異民族による危機を中華の民が乗り越えたのを見届けると、俺はいつも通りに中華の外へと旅に出掛けた。
その折りにケルトに寄ると、一人のケルトの戦士が死に瀕していたので神水を与えて助けた。
ついでに魅了の呪いが顔の黒子に掛けられていたので解呪すると、ケルトの戦士は名を名乗って感謝を捧げてきた。
ディルムッド・オディナと名乗った戦士は俺が放浪の神ゼンと知ると、生まれ変わってもこの恩を忘れないとゲッシュを立てた。
そう言えばコンラも同じゲッシュを立てていたのを思い出す。
そんな事を考えながらケルトから中華に帰ると、武術の鍛練をしながらのんびり過ごしていく。
そして数百年程経った頃、伯父上から呼び出しを受けたのだった。
◆
side:二郎
「伯父上、御呼びですか?」
伯父上は常の柔らかな笑みではなく、真剣な表情をしている。
「二郎。いよいよ神秘が神が世界の内に居られぬ程に薄まってきた。」
「世界の神々が姿を見せなくなったのもそのせいなのですね。」
俺の言葉に伯父上が頷く。
「うむ。だが、その薄まりつつある神秘が思わぬ動きを見せておるのだ。」
「思わぬ動きですか?」
「そうだ。世界中の神秘はとある二つの地に集束しつつある。一つは中華の東より海を渡った地である『日出ずる国』。そしてもう1つは中華から西の果てに行き、北の海を渡った所にある地だ。」
西の果てから北の海を渡った所の地?
「たしかケルトの影響を受けた地ですよね?」
「うむ。小さな地なれど幾つもの国が混在しておるのだが、その中でも大きな影響を持つ国が『ブリテン』と呼ばれている。」
伯父上は神水を一口飲んでから話を続ける。
「そこで二郎よ、そのブリテンに行ってくれぬか?」
「それは構いませんが、日出ずる国は大丈夫なのですか?中華に程近いので影響があっても不思議ではありませんが?」
「日出ずる国には八百万の神々がおる故、それほど混乱は起こらぬだろう。だが、ブリテンには集束する神秘をどうにか出来る存在がおらぬ。混乱は酷いものになるであろう。」
俺は伯父上の言葉に頷く。
「わかりました。ブリテンに行きます。ところで伯父上、自由にやってよいのですよね?」
「構わぬ。だが出来れば、かの地に生きる神秘の存在を、かの地の約束の地である『アヴァロン』へと導いてやって欲しい。」
「承りました。」
こうして俺は神秘の集束する地であるブリテンへと向かうのだった。
◆
side:ブリテンの少女
私はアルトリア・ペンドラゴン。
ブリテンの王であるウーサーの娘…らしい。
らしいというのは、私が父の顔を知らぬからだ。
私は物心つく前に養父のエクターの元に、花の魔術師マーリンによって預けられたそうだ。
その事も養父と、義兄であるケイから聞いただけなので本当なのかはわからない。
養父と義兄は家族でありながら、私を家族ではなく次代の王として扱う。
そんな日々に私は幼いながらもどこか疑問を感じていた。
ウーサーの後を継ぐべく、日々の勉強や剣の修練に追われて疲れ果て泥の様に眠る毎日。
時折だが息抜きの為に町に出る事もある。
だがそこで町娘の姿を目にするとマーリンから、『君は王となる人間だ』と町娘達の様に着飾る事を許されない。
そんな私が自由になれるのは剣を振っている時だけだった。
まるで呪詛の様に毎日言われるマーリンの『王』という言葉から感じる重圧。
それから逃れられるのはこの剣を振っている時だけ。
そうやって剣を振っていくと豆が潰れ、この手は騎士の手になっていく。
まだ10にも満たない私と同じ年頃の少女は服を着飾り、花を愛でて笑顔になっているというのに、私はそれを許されず剣を振るう日々。
気が付けば、私は剣を振るいながら涙を流していた。
「なんで剣を振りながら泣いているんだい?」
突如掛けられた優しげな声に、私は涙も拭わずに振り返る。
すると、先程まで誰もいなかった筈のそこに青髪の男性の姿があった。
私はその青髪の男性の暖かい笑顔に、涙を拭うのも忘れて見惚れてしまったのだった。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。