二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第224話

side:アルトリア

 

 

青髪の男性の暖かい笑顔から目が離せない。

 

思い返せば、私は誰かにこんな表情を向けられた事がなかった。

 

そのせいなのか、先程から涙が止まらない。

 

青髪の男性が暖かい笑顔を浮かべたまま、ゆっくりと私に歩み寄ってくる。

 

そして私の前まで歩み寄ってきた青髪の男性は、指で私の涙を拭う。

 

顔が熱い。

 

この気持ちは何なのだろうか?

 

わからない。

 

でも…嫌だとは思わない。

 

「手から血が出ているね。ちょっと手を見せてくれるかい?」

 

青髪の男性に促されるままに、私は彼に手を見せた。

 

「うん、よく剣の鍛練をしている手だね。」

 

そう言いながら彼は腰に吊るしていた何かを手に取る。

 

その何かの蓋を取ると中には水らしきものが入っているのが見えた。

 

革袋と同じ様な水入れだろうか?

 

彼は水入れに入っていた水を私の手に掛ける。

 

少し痛みを感じたが、その次の瞬間には目を見開く程の驚きの光景が目に入った。

 

水を掛けられた私の手は、淡い光を放ちながらあっという間に傷が治ってしまったのだ。

 

「あ、あの、これは?」

「ん?この水は『神水』だけど、それがどうかしたかい?」

 

神水!?

 

子供の私でもわかる貴重なものだ。

 

それ程に貴重なものを、私の手を治す為に使うなんて!

 

言葉にならない声を上げていると、彼は優しく微笑んだ。

 

「気にしないでいいよ。俺にとっては君の手を治す方が大事だったからね。」

 

彼はそう言った後に『それに神水なんて…』と言葉を続けていたが、その後の彼の言葉は私の耳に入ってこなかった。

 

何故なら私の胸がうるさいぐらいに鳴っていたからだ。

 

先程からよくわからない気持ちが、私の心を揺さぶってくる。

 

それはともかく、この人にお礼を言わなくては。

 

「あ、あの!」

 

そこまで言うと、私の腹から盛大に音が鳴る。

 

場を包む沈黙が痛い。

 

き、聞こえてしまっただろうか?

 

彼の顔をチラリと見る。

 

すると、彼はプッと息を吹き出したのだった。

 

 

 

 

side:アルトリア

 

 

私の腹の音を聞いた彼は大声で笑った後に、笑った詫びに食事を振る舞うと言った。

 

まだ未熟者ですが、私は王や騎士となるべく教育を受けているのだ。

 

食事程度で懐柔出来ると思わないでいただきたい!

 

そう彼に言ってみたものの、空きっ腹では戦は出来ない。

 

ここは素直に彼に食事を振る舞ってもらう事にしよう。

 

しかし彼は食事を振る舞うと言ったが、特に何か荷物を持っているわけでもない。

 

これから調達するのだろうか?

 

そう思っていたら、彼は虚空に浮かんだ波紋から肉塊を取りだした。

 

彼もマーリンと同じく魔術師なのだろうか?

 

私はしばらく彼が料理をする姿を眺めていた。

 

これは万が一にも毒を盛られないかを見張る為で、決して一早く食事にありつくためじゃない。

 

肉塊には何やら鱗の様な物が見える。

 

「それは何の肉だろうか?」

「これかい?これは『蛟』の肉だよ。」

 

彼が言うには、『蛟』とは蛇から竜へと成りかけた存在らしい。

 

その様な存在は初耳だ。

 

マーリンからも聞いた覚えがない。

 

マーリンも知らなかったのだろうか?

 

どこか胡散臭い笑みを浮かべ、何でも見通しているかの様に振る舞うあのマーリンが知らない存在。

 

そう考えると、なんか可笑しくなってしまった。

 

蛟の皮を剥いだ彼は、塩以外にも何かを肉に振り掛けている。

 

料理とは塩を使って焼くか煮るのではなかっただろうか?

 

そう思ったものの、彼が塩以外の何かを振り掛けて肉を焼き始めると魅惑的な香りが私の鼻に届く。

 

いや、魅惑的なんてものではない。

 

もはやこの香りは暴力的だ!

 

お腹が鳴るのを止められない!

 

それに気付いたのか、彼が私の方に目を向ける。

 

私は恥ずかしくて彼から目を逸らすが、それでも腹の音は鳴り止まない。

 

うぅ…どうしてこんな辱しめを受けねばならないのだろうか?

 

そう思っていたら彼が焼き上がった肉を皿に盛って、ナイフとフォークと共に差し出してきた。

 

見事に焼き上がった肉を目にしその香りを嗅いだ私は、辱しめなど忘れてナイフとフォークを手にした。

 

そして肉を口に運ぶと、今までに経験をした事のない多くの味が口に広がった。

 

最初に感じたのは辛い味。

 

だがその辛さは肉を噛み締めていくと、肉の脂の甘さと一体となり、経験した事のない美味しさへと変わる。

 

気が付けば、口の中の肉は無くなっていた。

 

私は養父に躾られた作法を守りながらも、可能な限りの早さで肉を食していった。

 

彼が焼き上げた蛟の肉を1枚、2枚と手と口を止める事なく食べ続ける。

 

この時、私は確かにアヴァロンは存在するのだと感じたのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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