side:二郎
「聞き捨てならない。ブリテンを救えないとはどういう事かな?」
『あれ』が目を覚まして問い掛けてくる。
「ブリテンは滅びに向かっている。それはわかるだろう?」
「当然だね。だからこそ私はアルトリアを、ブリテンの王の後継者に運命的な形でならせるんだ。数多の挑戦者が抜けない選定の剣を抜かせる事でね。そうすればアルトリアは誰もが認めるブリテンの王になる。正に理想の王さ。後は理想の王の元に騎士を集め、この地を力で統べていけばいい。」
誰もが認める。力で統べる…か。
「力で統べた後はどうするんだい?」
「ハッピーエンドじゃないか。理想の王が統べれば理想の国となる。だから後は私が手を出さずともどうとでもなるだろう。」
…なるほど、『これ』は人をわかっていないんだ。
そんな『これ』の考えでもブリテンを延命させる事は出来る。
だけど行き着く先は、内部争いによる滅びってところだろうね。
その事を伝えると『これ』は憤りを見せた。
「内部争いで滅ぶ?馬鹿な。理想の王が統べる最高のハッピーエンドを迎えて、何故争う必要がある?そんな事はありえないだろう。私には君の言う事が理解出来ない。」
『これ』の言葉を聞いたエクターとケイは愕然とした顔だ。
まぁ、そうだろうね。
なにせ一番大切な国を治める方法を何も考えていないんだ。
画竜点睛を欠くどころじゃない。
『これ』が語るブリテンの未来は、無知な子供が夢を語るのと変わらないのだから。
まぁ、それはそれとして…。
「理想の王…か。」
俺の言葉に『あれ』が嬉しそうに反応する。
「そう、理想の王さ。民が望み、騎士が望む理想の王。『僕』は理想の王が造り出すハッピーエンドが見たいんだ。」
あぁ、そうか。
アルトリアの事が気になる理由がわかった。
彼女はエルキドゥや竜吉公主と同じなんだ。
何者かの我儘を叶える為に造られ、自由を奪われながらも懸命に生きようとする姿が。
アルトリアに目を向ける。
彼女を見ると、まるで迷子になった様な顔をしている。
己の存在理由を見失っているんだ。
ブリテンの為と信じて今日まで積み重ねてきた努力が、全ては『あれ』の道楽の為だったのだから。
助けよう。
全力で。
例えそれでこの地に滅びを招こうとも構わない。
そうなると『あれ』とは相容れない形になるが…まぁ、いいか。
俺はハッキリと『あれ』が嫌いだ。
なにより『あれ』が王を語るのが気に入らない。
ギルガメッシュが侮辱されている様に感じるんだ。
うん、そうと決めたら先ずは…『あれ』の力を封じるとしようか。
◆
side:アルトリア
ズンッとまるで地が揺れたかの様に感じた私は、呆然としていた気を取り戻しました。
そして音がした方に目を向けると、またもやマーリンが気を失っていました。
「えっと…ゼン?」
「あぁ、気にしなくていいよ。『これ』の力を封じただけだから。」
力を封じた?
「どういう事でしょうか?」
「魔術を使えない様に封じたのさ。これから邪魔になるし、なにより俺は『これ』が嫌いだからね。」
床に倒れているマーリンを指差しながら彼はそう言います。
私はどう反応を返したらいいのでしょうか?
「ゼン様、我々はどうすればいいのでしょうか?このままブリテンは滅びるしかないのでしょうか?」
養父の言葉で皆の目がゼンに向きます。
「この地の現状を詳しく見て回ったわけじゃないからなんとも言えないけど、少なくともブリテンが滅びるのは変えられないだろうね。」
その言葉で養父が気落ちしたのがわかります。
騎士として仕えた国が滅ぶのですから仕方ないでしょう。
「まぁ、滅ぶのが変えられないのなら、より良い滅び方を選ぶべきだろうね。」
「より良い滅び方ですか?」
首を傾げながら問うと、ゼンが頭を撫でてくれます。
それだけで先程までの沈んだ気持ちは上向いてきました。
「さっきも言ったけど、この地の現状を詳しく見てないからなんとも言えない。でもより良い形でこの地を次代に繋ぐ猶予は残っていると思うよ。上手くいけば、騎士の誇りも次代に残せるかもしれないね。」
騎士の誇りを次代に残す…。
私達は家族で顔を見合わせると、力強く頷いたのでした。
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