二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第232話

side:アルトリア

 

 

王としての諸々を学び、甥達と遊び、家族と語らい、そして己を磨いていく日々はあっという間に過ぎていきました。

 

そんな日々で私は成長しました。

 

今では私も15歳の大人です。

 

姉上の様に背は伸びませんでしたが、男装をしていても男と間違われる事はなくなりました。

 

剣を振るうと揺れるのです!

 

重みを感じるのです!

 

これは正に勝者の重みというやつでしょう。

 

15歳となった私は今、ブリテンのとある丘に来ています。

 

この丘には王の選定の剣が突き刺さっているのです。

 

1年前、ウーサーは亡くなる前に後継者の事を言い残しました。

 

『選定の剣を抜いた者が次の王である』と。

 

私達がマーリンと決別したと知らぬ故に、ウーサーは事前に決められていた通りに言い残したのですが、少しだけ哀れに思います。

 

この選定の儀はブリテンをより良い滅びに導く為に利用されるのですから。

 

ブリテンに住むあらゆる者が選定の儀に挑戦しましたが、誰も選定の剣を抜けませんでした。

 

それもそうでしょう。

 

何故なら選定の剣にはマーリンの手で、『赤き竜の因子を持つ者のみが所持者となれる』という呪いがかけられているのですから。

 

赤き竜の因子を持つ者…それはブリテンだけでなく、この地全てを含めても私しかいません。

 

この事を知らねば選定の剣を抜いた者に人々が何かを感じるかもしれませんが、知る身としてはただのやらせでしかありませんね。

 

今も屈強な身体を誇る男性が選定の剣を抜こうと奮闘しています。

 

周囲には彼の挑戦を見届けようと人々が集まっていますね。

 

彼が選定の剣の引き抜きを諦めたのを見届けた私は、人々の囲みに向かって歩みを進めようとします。

 

すると…。

 

「アルトリア、本当にいいのかい?」

 

その言葉を耳にして振り返ります。

 

そこにはゼンとケイの姿がありました。

 

「あの剣を抜けば君は不老の存在になる。今ならその呪いも消すことが出来るよ。」

 

選定の剣『カリバーン』には3つの呪いがかけられていました。

 

1つ目は『赤き竜の因子を持つ者しか所持者になれぬ』というもの。

 

2つ目は『術者が任意で剣を自壊させられる』というもの。

 

そして3つ目が『所持者となった者を不老にする』というものです。

 

この3つの呪いの内、2つ目はゼンが消しています。

 

マーリンが2つ目の呪いをかけた理由はおそらく、私が彼の思惑とは違う行動をした時に戒めるためのものだったのでしょう。

 

…もしまた出会う機会があったら全力でカリバーンを叩き込みましょう。

 

3つ目の呪いもゼンが消そうかと言ったのですが、私はそれを拒みました。

 

理由は譲れぬ思いがあるからです。

 

「構いません。」

「不老の存在になれば、いずれは親しい者達と別れる事になる。それでもいいのかい?」

「…はい。」

 

姉上や養父、義兄に甥達と別れるのを想像すると本当に寂しいと思います。

 

ですが、それでも譲れぬ思いがあるのです。

 

「わかったよ。では、これを君に贈ろう。」

 

ゼンが何かを差し出してきます。

 

これは…。

 

「鞘ですか?」

「選定の剣はアルトリアの物になる。抜き身では格好がつかないだろう?だから鞘を造ったんだ。この地に集束している神秘を使ってね。真名は『アヴァロン』。この地に存在する約束の地の名を冠させてもらったよ。」

 

この鞘は所持者の魔力が尽きぬ限り不死に近い再生を与えるそうです。

 

「『真名』を解放すれば、その鞘は盾にもなる。以前に見た幻想種をも滅ぼす槍の一撃も防げるし、アルトリア次第では天地を乖離する一撃でも生き残れるだろうね。」

 

それほどの逸品を当然の様に造ったと言わないでもらいたいものです。

 

でも…それがゼンですからね。

 

「ゼン、ありがとうございます。」

「女の子に贈る物としては不粋かもしれないけどね。」

「ふふ、では1つ願いを聞いていただけますか?」

「なんだい?」

 

私の願い。

 

それは…。

 

「何十年、何百年掛かるかわかりません。ですが、ブリテンをより良い滅びに導いたら、私を貴方の女にしていただけますか?」

 

ゼンが驚いた表情をしています。

 

こんな表情の彼も愛しいですね。

 

「…あぁ、いいよ。」

 

暖かな笑みを浮かべながら、そう言ってくれます。

 

私の心を救ってくれたあの笑みです。

 

「もしかして、不老になる呪いを解くのを拒んだのはこれが狙いだったのかい?」

「えぇ、そうです。」

「出会った時はまだまだ子供だったのに、いつの間にか強かな女になっていたなんてね。」

 

少し困った様に笑うと、ゼンは右拳を左手で包み込みました。

 

「これは俺が住む地での礼でね。『包拳礼』って言うんだ。」

 

そう言ったゼンはこれまで見た事が無い真剣な表情になりました。

 

そして…。

 

「姓は楊、名は二郎、字はゼン。君の想いを受け入れる証しとして、俺の名を預けよう。」

 

胸が暖かい想いで包み込まれます。

 

彼に認められた。

 

想いを受け入れてくれた。

 

その嬉しさが、私に涙を流させます。

 

ゼンの…いえ、二郎の胸を借りてしばらく涙を流しました。

 

いつまでもこうして彼の胸に抱かれていたいですが、涙を拭って顔を上げました。

 

そして彼から一歩離れた私は胸に手を当て、彼の目を見て想いを告げます。

 

「二郎、貴方を愛しています。」

 

その後、丘を登り選定の剣を抜いた私は、ブリテンの後継者となったのでした。

 

 

 

 

『アーサー王伝説』

 

ブリテンに伝わる英雄の物語である。

 

アルトリア・ペンドラゴンことアーサー王は、動乱渦巻く当時では珍しい女性の王だった。

 

先代の王であるウーサーが亡くなり選定の儀が行われると、彼女は丘に刺さった剣を引き抜きブリテンの王の後継者たる証を手にした。

 

そして選定の儀を見守っていた民衆を前に高らかに宣言したのだ。

 

『私の名はアルトリア・ペンドラゴン!女である私に仕えるに値しないと思う者はブリテンを去るがいい!だが、ブリテンのみならずこの地を救いたいと思う者は私の下に馳せ参じよ!さすれば動乱渦巻くこの地に安寧をもたらす栄誉と共に、騎士の誇りは未来へと受け継がれるであろう!』




本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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