「エルキドゥ、君の髪の毛を一本くれないかな?」
「いきなりどうしたの、二郎?」
フンババ討伐を祝った宴の翌日、俺はエルキドゥにそう頼んだ。
「これから訪れるかもしれない、ろくでもない未来を回避する為の準備といったところかな。」
準備といったところかな。」
「ろくでもない未来?」
「そう。エルキドゥ、確認するけど君はエンリルの眷属なんだよね?」
俺の言葉にエルキドゥは頷く。
「あぁ、そういう事か…。二郎、何とかなるの?」
「神の楔を一朝一夕に何とかする事はまだ出来ないから、ちょっと準備が必要だけどね。」
「それでも何とか出来るんだ。凄いね、二郎。」
「魂の扱いに関しては、仙人に勝る者はいないというのが中華の自負だからね。」
おどける様にしてそう言うと、エルキドゥはクスクスと笑う。
「ねぇ、二郎。ギルは気づいていないのかな?」
「気づかない振りをしているんだろうね。」
「気づかない振り?」
「うん、もしくは気づきたくないとも言えるかな。」
エルキドゥは俺の言葉に首を傾げる。
「二郎、なんでギルは気づきたくないの?」
「怖いんだろうね。」
「怖い?」
「そう、友を失うのが怖いのさ。もっとも、ギルガメッシュ自身はその感情に気づいてないかもしれないけどね。」
俺は側にいる哮天犬の頭を撫でる。
哮天犬は嬉しそうに尻尾を振る。
「ギルガメッシュは生まれながらにして王となる者。そんなギルガメッシュにとって、身内といえるのはルガルバンダ殿だけだった。」
エルキドゥは俺の話に耳を傾けている。
「そのルガルバンダ殿が亡くなった事で、ギルガメッシュは死について考える様になった。でも無意識にあまり深く考えない様にしているみたいだね。」
「それはなんで?」
「人にとって死は避けられないものだからさ。」
俺は腰に括っていた竹の水筒の神水を一口飲んでから話を続ける。
「ギルガメッシュは人の王だ。だからギルガメッシュは、神々の様に不老不死になって死を避けるのは人の理に反すると考えたんだろうね。そしてルガルバンダ殿から死を学んだ事で、失う事を怖れる様になったんだと思う。」
「怖いのに避けられない、だから考えない?」
「たぶんね。」
俺はまた一口神水を飲む。
哮天犬が「く~ん。」と鳴いて神水をねだるので、手を受け皿にして神水をあげる。
「それは問題の先送りだよね?」
「そうだね。」
「あのギルがそんな事を?」
エルキドゥは不思議そうに首を傾げている。
「確かにギルガメッシュは凄い優秀だけど、まだまだ若いからね。感情を制御、理解出来ない事だってあるさ。」
俺が肩をすくめながらそう言うと、エルキドゥはクスクスと笑う。
「なら、僕達がギルを支えてあげないとね。」
「それを本人に言ってみたらどうかな?」
「間違いなく拗ねるだろうね。まぁ、そんなギルも可愛いんだけど。」
そう言ったエルキドゥと目を合わせると、2人揃って笑いだした。
「さて、お喋りはここまでにして髪の毛を一本くれるかな?」
「うん。いいよ、二郎。」
俺はエルキドゥから髪の毛を受け取るとその髪の毛が土に還る前に、腰に括っていたもう一本の竹の水筒の神水に漬け込んだ。
「それじゃ、ろくでもない未来を回避する為の準備をするから、しばらく1人にしてくれるかな?」
しばらく1人にしてくれるかな?」
「うん。行こう、哮天犬。」
「ワンッ!」
エルキドゥが哮天犬と共に出ていくのを見送ると、俺はとある仙術を使うための準備に取り掛かる。
その準備を始めてから1ヵ月後、ウルクの空に雷を纏った牡牛が現れたのだった。
これで本日の投稿は終わりです
また来週お会いしましょう