side:二郎
「二郎、行ってきます。」
新しきブリテンの王であるアルトリアが初陣に向かった。
今の時代に王が馬にも輿にも乗らないのでは格好がつかないので、彼女は哮天犬に乗らせた。
哮天犬の鼻なら敵がいる場所まで最短で行けるので、これからも彼女を哮天犬に乗せるのはいいかもしれないな。
「さて、俺も動こうかな。ケイ、後は頼んだよ。」
ブリテンの留守をケイに任せ、俺はサクソン人が溜め込んだ財の回収に向かう。
天を駆け、サクソン人の財の集積地についた。
「へぇ、思ったよりも溜め込んでいるね。」
幾人か見張りがいたけど、立ち向かってきたので殺し、鍵の宝貝(パオペエ)を使って財を回収する。
「この財の量ではブリテンの借財の一年分にも満たないか。」
サクソン人が海を渡ってこの地に雪崩れ込んでいるのには、草原の民が関わっているんだけど、その草原の民がサクソン人を西に追い払う理由がどうも中華にあるみたいなんだ。
草原の民はその支配域を中華にまで伸ばそうとしたんだけど、侵攻してきた草原の民の王を士郎が弓で射殺したんだ。
一人だけじゃなく、復讐にきた二人目、三人目の草原の民の王も弓で射殺している。
天子が伯父上に頼んだから士郎が向かったんだけど、士郎自身が草原の民を危険と判断したみたいだ。
何人も王を討たれた草原の民は東を諦め、西に進み始めた。
その過程でサクソン人が追われたんだが、追われたサクソン人は今度は草原の民とローマの板挟みになった。
そこでサクソン人は命懸けで海を渡り、この地にやって来ているというわけだ。
「うん、少し色をつけて渡そう。色をつけて渡す分は、数千年前にこの地で集めた財にしようか。」
さて、アルトリアの初陣を見物に行こう。
◆
side:アルトリア
「全軍、突撃!」
サクソン人の一団の元に辿り着くと哮天犬から下り、号令を降して先陣を駆けます。
隣ではランスロットが駆け、千人の兵が私の後に続く。
相手は同数近く。
出鼻を挫けば勝てる筈です。
サクソン人の一団とぶつかる直前、私とランスロットが一薙ぎし、数人のサクソン人を吹き飛ばしました。
吹き飛ばされたサクソン人が後方の者を巻き込んだので、サクソン人達の中央の勢いが緩みます。
そこに私とランスロットが切り込みました。
「私に続けぇ!」
「王に続けぇ!」
私とランスロットの檄で兵が高揚し、サクソン人達とぶつかっていく。
勢いを失い中央を崩されたサクソン人達は次々と討ち取られていく。
逃げ出そうとするサクソン人もいますが、逃がすわけにはいきません。
一人でも逃がせばブリテンの民が、この地の民がまた襲われるからです。
だから斬ります。
斬って、斬って、斬り捨てます。
そうして戦い続けて一時間、戦場には一人も生きているサクソン人がいなくなっていました。
「我等の勝ちだ!」
「「「オォォォォオオオ!」」」
兵達の咆哮が上がる
こうして私は初陣を勝利で飾ったのでした。
◆
side:アルトリア
初陣の勝利から数年の時が流れました。
今ではブリテンにも多くの騎士がいます。
甥っ子達を始めとして、小国の王族であるトリスタンも騎士として私に仕えてくれています。
このトリスタンなのですが、どうもランスロットと嗜好が合うようで、ブリテンの女性達との浮いた話が絶えません。
困ったものです。
そんなある時、とある女性が赤子を抱いてブリテンを訪ねて来ました。
赤子の父はランスロットだそうです。
その話を聞いたランスロットは凄く慌てています。
身に覚えが無いそうです。
…叩き斬ってやりましょうか?
女性から詳しく話を聞いたのですが、彼女はランスロットに一目惚れをして身体を重ねたそうです。
そして赤子はその時に身籠ったのだとか。
その話を聞いたランスロットは、その腕に抱いている己が子を教会に預けるとか言い出しました。
…やっぱり叩き斬りましょう。
そう思ってカリバーンに手を掛けた時、二郎が声を掛けてきたのでした。
◆
side:二郎
「ちょっといいかい?」
声を掛けると、明らかに不機嫌な様子のアルトリアが振り向く。
「二郎、少し待っていただけますか?そこにいる女の敵を叩き斬りますので。」
「王!?」
狼狽えているランスロットの姿は中々面白いけど、とりあえずアルトリアを止めないとね。
「ランスロットの手が早いのはわかっているけど、流石に子を孕ませて知らぬ振りはしないんじゃないかい?」
「ですが、今正にその証拠である赤子がいるのですよ?」
「その赤子が普通の子ならそうだろうね。でも、その赤子は魔術で弄られている。」
赤子が普通ではないと知ったアルトリアとランスロットは驚く。
「ゼン様、我が子は何をされたのですか!?」
「強い神の子の因子を感じるね。おそらくは聖遺物の一部を埋め込まれたのかな?」
「その通りですわ。」
赤子の母が陶酔した様子で話し出す。
そんな彼女からは『あれ』の魔力の気配を感じた。
「ランスロット様の御子に相応しい子となる様に、マーリン様が手を御貸しくださいました。」
「マーリンが!?」
アルトリアが驚きの声を上げる。
「そしてマーリン様はおっしゃられていました。ブリテン王の姉の子と結ばれ、その子はブリテンを継ぐ王になるのだと。」
彼女の言葉にアルトリアとランスロットは怒り心頭だ。
「おのれぇ!」
赤子を抱いたままランスロットが剣に手を掛ける。
その手を押さえると、ランスロットが驚く。
「止めないでいただきたい!」
「彼女も『あれ』に幻術を掛けられているだけだよ。」
「…くっ!」
悔しげに歯を噛むランスロットは、泣き出した赤子を何とかあやそうとする。
俺は赤子の母に触れて幻術を解いた。
「…ここは?あっ、ランスロット様!」
正気に戻った彼女はランスロットに駆け寄る。
ランスロットはそんな彼女を無下に出来ないようだ。
「関わってこなければ、捨て置いてもよかったのだけどね。」
「二郎、どうするのですか?」
「とりあえずその子とモルガンの子をどうにかしないとね。『あれ』は哮天犬に捕まえておいてもらうよ。処分するにしてもその後だね。」
哮天犬を行かせると、俺は女と赤子の板挟みになっているランスロットに近付く。
「ランスロット、その子を預けてくれるかい?」
「ゼン様、我が子はどうなるのですか?」
幻術に掛けられていた女もこの子を産んだのは覚えている様で、ランスロットと共に不安そうに目を向けてくる。
「その子はこのままだと30年も生きられない。強すぎる神の子の因子のせいでね。」
そう告げると、女は泣き崩れた。
ランスロットはそんな女を片手で抱き寄せている。
「心配しなくてもいいよ。なんとかするからさ。」
「二郎、どうやってその子を助けるのですか?」
「そうだね…。」
問い掛けてくるアルトリアに少し考えてから微笑む。
「神の子の因子が強すぎるのなら、神の子に頼んでみようか。」
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。