side:二郎
涅槃にランスロットの子であるギャラハッドを連れていく。
そこでシッダールタと談笑していた神の子にギャラハッドを見せた。
「あ~、これは確かに昔の僕が造った聖遺物の一部が影響しちゃってますね。」
「あぁ、だからこの子が健やかに生きられる様に『祝福』を与えてくれるかい?」
そう頼むと彼はニコリと微笑む。
「わかりました!『全力』で祝福させていただきますね!」
「ちょっ!?イエス!」
シッダールタが止めようとするが、神の子は止まらない。
「『汝に祝福あれ!』」
涅槃が純白の光に包み込まれる。
しかしその光は目を焼くような事はなく、むしろ暖かさを感じさせる優しいものだ。
やがて光が収まると、そこには聖人となったギャラハッドがいた。
「うん、これでこの子は人並みの寿命を得られたね。」
「いやぁ、よかったですね。僕も頑張ったかいがありました。」
「…イエス?」
呼び掛けに振り返ると、神の子の顔がひきつった。
シッダールタが笑顔のまま怒っているからだ。
「その子、聖人になっちゃったよね?ゼン様が関わっている子なんだけど、どうするの?死後は君の所で召し上げるの?」
「…あっ。」
神の子が顔を青くする。
「えっと、ゼンさん、どうしましょうか?」
「その子の魂はアヴァロンに行くと思うけど、聖人になってしまったからね。このままなら、君の所の守護天使達が連れて行こうとするんじゃないかい?」
「連れて来ない様に言ってきます!」
そう言うと神の子は新たな聖人の誕生を祝福している守護天使達の所に走っていった。
「ゼン様、ギャラハッド君は大丈夫でしょうか?」
「神の子の様に『うっかり』奇跡を起こさない様に修練させるよ。」
「お願いします。」
◆
side:二郎
「そんな!?お腹の子がマーリンの手で!?」
モルガンの元を訪れ『あれ』のやった事を伝えると、彼女は悲壮な表情を浮かべた。
「一見したところ、アルトリアと同じ様に竜の因子を与えたみたいだね。ただ、アルトリアと違って後天的に与えられたから、因子に耐えられず命を削ってしまう。」
「ゼン様、何とかならないのですか?」
「とりあえず因子を封じておこうか。そして成長していくのに合わせて少しずつ解放し、その子の身体を因子に慣らしていけば問題ないよ。」
彼女に一言断って腹に触れる。
おや?どうやら双子の様だね。
『あれ』に因子を与えられた方の子に封印を施すと、彼女は安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、ゼン様。」
「今はまだ神秘が集束しているからこそ出来たと言えるね。後百年も遅かったら、別の身体を用意した方が楽だったよ。」
「ふふ、運が良かったのですね。」
「『あれ』に目をつけられて運が良かったと言えるのかな?」
そう言うと彼女は笑う。
「この子だけでなく、この地に生きる多くの者は運が良いでしょう。何故ならゼン様がおられなければ、マーリンに好き放題されていたのですから。」
さて、これで残るは『あれ』の事だけか。
◆
side:二郎
哮天犬に捕らえさせておいた『あれ』を連れて、湖の精の化身の元に訪れる。
処分してしまいたかったんだけど、シッダールタと神の子に慈悲を求められてしまったからね。
さて、『これ』は改心出来るかな?
「それじゃ湖の精の化身、『それ』を預ける。魔力袋にでも使ってくれ。」
そう言うと彼女は微笑み、『あれ』は殺意を込めて睨みつけてきた。
「放浪の神よ、何故私の邪魔をする?」
「理由が必要かい?君が嫌いだからだよ。」
「神らしい自分勝手な理由だ。」
「君が言える言葉ではないね。」
『あれ』は暴れようとするが、現状ではどうにも出来ないだろうね。
以前は魔力を魔術回路に通せない様に封じていたから、体液に溶けている魔力を利用すれば魔術の行使は可能だった。
だが今回施した封印は、誰かが封を破らなければ二度と魔術は使えない程度には強くしておいた。
「人はハッピーエンドを求めている筈だ!それを造ろうとして何が悪い!」
「今の君が理想の王を造り出すのは不可能だよ。」
人の王は人であるが故に王足りえる。
だが『これ』が造ろうとする理想の王は『人形』でしかない。
己が意思無き人形では、人の王足り得ないんだ。
「ブリテンがより良い滅びに至ったらまた来るよ。それまでは己を省みているといい。」
怒声が飛んでくるが意に介さず、俺は湖の精の化身の元を去ったのだった。
本日は5話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。