side:アルトリア
二郎のおかげでギャラハッドと姉上のお腹の子が健やかに生きられる様になってから数年、ブリテンは以前に比べて豊かな暮らしが出来る様になりました。
何年も掛けて農業を改善していった結果、秋には実りに喜ぶ事が出来ています。
これも二郎のおかげですね。
代わりに…といってはなんですが、その実りを狙うサクソン人やピクト人が増えました。
私達が頑張って育てた小麦を奪おうとする賊共です。
情け容赦なく討伐しています。
この討伐にランスロットが特に張り切っていますね。
その張り切っている理由なのですが…これは身を固めたからでしょう。
そう、あのランスロットが身を固めたのです!
トリスタンと共に浮き名を流していたあのランスロットがです!
ブリテンに住む全ての人が驚きました!
相手はギャラハッドの母親であるエレインです。
子が出来た以上は責任を…と言えればまだよかったのでしょうが、そう上手くはいきませんでした。
経緯はこんな感じです。
二郎が対処をして連れて帰ってきたギャラハッドは聖人になっていました。
そんなギャラハッドを教会に預けたら大騒ぎです。
なので教会に預けずに養育する必要があるのですが、それでもランスロットは教会に預けようとしました。
理由は彼自身が湖の乙女に養育された身であるため、家庭というものを知らなかったからです。
なので己以上に親身になって養育してくれるであろう教会に預けようというのです。
そこで二郎はこう言いました。
『ランスロット、君は戦場で未知の敵に遭遇したら臆して逃げるのかい?』
これにランスロットは否と答えます。
そして…。
『なら同じく未知の家庭や子育てからも逃げるべきじゃない。未知の家庭や子育てにも挑んで、騎士として手にした栄光を自ら誇るのではなく、人々に誇られる様な人になりなよ。』
自ら誇るのではなく、誰かに誇られる。
正に騎士としての本懐です。
この言葉でランスロットも覚悟を決め、身を固めたのです。
それからの彼は人が変わった様でした。
愛妻家で子煩悩。
されど誰もが模範とする様な騎士となったのです。
今のランスロットは『騎士の中の騎士』と言えるでしょう。
元気に走り回る程に育ったギャラハッドも、そんな父を心から尊敬しています。
そんなギャラハッドはたまに井戸から汲んだ水をワインに変えてしまったりしますが、お酒はあっても困るものではないので、この程度の奇跡を起こしてしまうのは目を瞑りましょう。
なので二郎、あの子が軽々に奇跡を起こさぬ様にする修練をもっと緩めてもらえませんか?
騎士一同から懇願されているのです。
その…私もたまには飲みたいですし…ね?
そう頼むと二郎は川を酒に変えてくれました。
騎士だけでなく、民も全身に浴びる様にして飲みます。
ピクト人やサクソン人の警戒の為に幾人かの騎士や兵は飲めませんでしたが、ブリテンに生きるほとんどの人々が、その日は大いに楽しみました。
こんな風に人々が笑いあえる日々を作る為にも、もっと頑張らなければいけませんね。
◆
side:アルトリア
ブリテンの王となって15年、国力が安定した事で漸くこの地の統一に動ける様になりました。
より良い滅びへと着実に歩を進めています。
一軍を率いて隣国を攻め落とすと、兼ねてからの予定通りにロット王とヴォーティガーンがブリテンへの従属を表明しました。
ロット王が治める国はこの地でも1、2を争う裕福な国です。
そしてヴォーティガーンが治める国はこの地でも1、2を争う武力を持っています。
そんな2つの国がブリテンに従属したと話が広まると、この地の統一はあっという間に進んでいきました。
動き出してから僅か5年でこの地の統一が成りました。
この5年の間に、成長したギャラハッドと双子の姪のガレスとモードレッドも私に仕えてくれています。
3人ともまだ若いので騎士として戦列に参加させるわけにはいきませんが、ブリテンをより良い滅びに導いた後のこの地を任せる為に、より多くの経験を積ませていきましょう。
他に変わった事と言えば、ロット王が隠居した事でしょうか。
ロット王も既に70を超える高齢です。
王位は私に仕えていた甥のガウェインに譲り、自身は姉上と共に悠々自適に暮らすそうですね。
羨ましいです。
なので姉上、ロット王との夫婦生活はまだまだ現役とか言ってこないでください。
さて、この地の統一が成った今、後はこの地全域に農の技術や知識を広め、ピクト人やサクソン人を根絶し、ローマに目をつけられる前にブリテンを解体するだけですね。
王となって20年…少しずつですが、終わりが見えてきました。
次の投稿は11:00の予定です