ろくでもない未来を回避する為に準備を始めてから1ヶ月程経った頃、ウルクの空に雷を纏った2頭の牡牛が現れた。
「なるほど、あれがイシュタルの言っていた、ただではおかないという事か。」
そう言いながらギルガメッシュは忌々し気に牡牛を見ている。
すると、2頭の牡牛内の1頭が咆哮をした。
「雑種が!誰の許可を得て我の頭上を飛んでいる!」
そう言うとギルガメッシュは、黄金の波紋から宝貝を1つ撃ち出した。
だが、宝貝は牡牛の雷で迎撃されてしまった。
「ふん!メソポタミアの最高神アヌが造り出しただけの事はあるようだな。」
「ギル、このままあの牡牛と戦えばウルクの民に被害が出るよ?」
「エルキドゥ、言われずともわかっておるわ。」
そう言うとギルガメッシュは俺に目を向ける。
「二郎よ、あの雷を防ぐ結界をウルク全体に張るのにどれだけの時間が必要だ?」
「川から水を持ってくるから5分ってところかな。」
俺が応えるとギルガメッシュは黄金の波紋から空を飛ぶ船を取り出した。
「哮天犬、エルキドゥを乗せてあげて。」
「ワンッ!」
「二郎、いいの?」
「あれを2頭同時に相手するのに足場が1つだとキツいでしょ?」
俺がそう言うとギルガメッシュは不快そうに顔を歪めた。
「フンッ!早くせねば貴様の出番は無いぞ、二郎。」
そう言うとギルガメッシュは空を飛ぶ船に乗り込んで牡牛の元に向かった。
俺とエルキドゥは目を合わせて肩をすくめると、それぞれ行動を開始したのだった。
◆
俺は瞬動を駆使して川にたどり着くと、権能を使って川の水を神水に変えた。
そして神水を操ってウルクに持ち帰ると、その神水を結界としてウルク全体を覆った。
その間にもギルガメッシュとエルキドゥは2頭の牡牛と戦っていたが、その様子は苦戦と表現出来るものだった。
牡牛の放つ雷をウルクに落とされぬ様に細心の注意をはらいながら戦っていた2人は、その動きを制限されて少なくない負傷をしていた。
空を蹴って2人の元にたどり着いた俺は、腰に括っていた竹の水筒から神水を取り出して2人の傷を癒す。
「お待たせ、2人共。」
「フンッ!待ってなどおらぬわ!」
ギルガメッシュは手にしていた剣の力を開放して光を2頭の牡牛に放つと、戦いに間を作って俺達に指示を出す。
「エルキドゥ、我と合流せよ。二郎、貴様は哮天犬と共に牡牛の1頭を相手せよ。」
ギルガメッシュの指示に従い、哮天犬に乗っていたエルキドゥは空を飛ぶ船の上に下りる。
「俺に1頭を任せてくれるのかな?」
「我とエルキドゥが1頭を倒すまで持ちこたえればいい。」
「わかったよ、ギルガメッシュ。でも、倒しても構わないよね?」
「フハハハハ!ならば我とエルキドゥ、そして二郎と哮天犬でどちらが早く狩るか競争だ!」
こうして俺達の反撃が始まった。
俺は三尖刀を片手に哮天犬に跨がり、空を駆けて牡牛を攻撃して少しずつ削っていった。
対してギルガメッシュとエルキドゥは、2人の戦いを再現する様に物量で牡牛を圧していった。
2頭の牡牛との戦いは一昼夜に及んだ。
朝日が昇り始めた頃、哮天犬が牡牛の喉元に噛み付き動きを止めた瞬間に、崩拳を頭に叩き込んで牡牛を倒した。
もう一方ではエルキドゥの権能で作り出した鎖で牡牛を拘束した所で、ギルガメッシュが天地開闢の力で牡牛を屠りさった。
牡牛との戦いが終わると、ウルクの民は俺達の栄光を称える声を上げた。
2頭の牡牛はウルクを襲った傍迷惑な存在だったが、物言わぬ骸になればその毛一本に至るまで貴重な宝となる。
毛皮や角はギルガメッシュが持つ数々の財にも劣らぬ逸品となり、その肉はこの世の何物にも勝る美味になるのだ。
そういう事で2頭の牡牛を解体していた時、今回の一件を引き起こした張本人である女神イシュタルが、再びギルガメッシュの前に姿を現したのだった。
本日は5話投稿します
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