第241話
神秘の時代の終焉から千年以上の時が経つと、神秘は世の表舞台から姿を消した。
だが世の裏では確かに存在しているのだ。
時は二十世紀。
極東の島国である日本の冬木の地にて、魔術師達によるとある魔術儀式が行われようとしていた。
◆
side:二郎
「二郎よ、日ノ本に行ってくれ。」
「日ノ本ですか?」
「うむ、八百万の神々に頼まれてな。」
神秘の薄れた今の世では、神々は『世界』の内に存在する事はおろか、干渉する事すら難しい。
だけど俺は半神半人だから問題無く『世界』の内に在り続ける事が出来る。
だから時折、こうして他所の神々に何かを頼まれる事があるんだ。
「伯父上、俺は日ノ本に行って何をすればいいのですか?」
「日ノ本の冬木という地の龍脈が淀んでいるようなのだ。」
「龍脈が?」
「うむ、国一つが滅びかねない程にな。」
「それは穏やかではないですね。」
龍脈は土地の気の巡りを司る重要なものだ。
それが淀めば作物は実らず、木々は枯れてしまう。
だけど国一つが滅びかねない程に淀むなんて余程の事だ。
冬木という地で何が起こっているんだ?
「八百万の神々が言うには、冬木の龍脈に魔術師達が手を加えたそうだ。魔術儀式で聖杯を造る為にな。」
「それで龍脈が淀むとは、何か大きな失敗をしたのでしょうね。」
龍脈を巡る気は色を持たぬ故に何色にもなれる。
正しく用いれば、『世界』の内側に神の子の奇跡を再現する事も可能だ。
だが扱いを間違えれば、今回の八百万の神々が懸念する様に国一つを滅ぼす力にもなる。
「わかりました。日ノ本に行ってきます。」
「うむ、頼んだぞ。」
伯父上の命を受けた俺は、廓に戻ってアルトリアに事の詳細を話した。
「日ノ本ですか…初めて行きますね。」
「そうだね。そういえばアルトリアとは行った事がなかった。」
シッダールタとは一緒に出雲大社に行った事がある。
八百万の神々に宴に招かれてね。
「ところで、聖杯を造り出す魔術儀式とはどの様なものなのでしょうか?」
「俺も詳しくは知らないから、日ノ本に行く前に『魔法使い』に聞きにいこうか。」
その『魔法使い』と出会ったのは数百年前だ。
数百年前にその『魔法使い』が『真祖』に喧嘩を売っていたのだけど、面白そうだからアルトリアと見物に行ったんだ。
まぁ、『真祖』が『偽りの月』を落とそうとしたから、介入して『偽りの月』を崩拳で砕いたんだけど、あの時は何故か両者が呆けていたな。
その後は『真祖』の慢心をついて『魔法使い』が勝ったんだけど、『魔法使い』は最後に油断して滅びる寸前の『真祖』に噛まれて人ではなくなってしまった。
まぁ、そのおかげで彼は不老になったのだから、彼にとっても悪い事ではないだろう。
「では、ブリテンに行くのですね。」
「そうだね。今のブリテンには多くの魔術師が集まっているから、そこにあの『魔法使い』もいるだろう。さぁ、それじゃブリテンに行こうか。」
こうして俺とアルトリアは哮天犬に乗ってブリテンに向かったのだった。
◆
二郎達がブリテンに向かった頃、ウルクの天界にて愛妻と語らっていた一人の英雄が腰を上げた。
「どうしたの?」
「今、我に宴の誘いがきた。」
愛する夫の言葉に妻は首を傾げる。
「宴?」
「古今の英雄が集う宴よ。始まりの英雄たる我を誘うとは、弁えている者のようだな。」
そう言って口角をつりあげる夫を見て妻は微笑む。
「行くの?」
「現世で我等が友と会うのも一興よ。」
夫の言葉に妻は笑みを深める。
「行ってらっしゃい、ギル。」
「行ってくるぞ、エルキドゥ。」
こうして一人の英雄は召喚に応え、現世に顕れたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。