side:言峰 綺礼
ギルガメッシュが召喚された翌日、時臣氏が桜を奥方の元へ送り届けて戻ってきた後に、私もサーヴァントを召喚する事になった。
召喚するサーヴァントのクラスはアサシン。
今回の聖杯戦争を時臣氏に勝たせる為に、父がサポートに適したクラスをと選択した結果だ。
父と師が見守る中で召喚陣の前に立つ。
アサシンの召喚には触媒を必要としないのが利点だろう。
時臣氏はギルガメッシュの触媒を用意するのに、遠坂家の蓄財のほとんどを消費したと聞いている。
遠坂家の財力が回復するには相応の時を必要とするだろう。
聖杯戦争が60年周期で行われるのも、そういった事情からなのかもしれん。
呪文を唱えるに従って召喚陣が光を放って輝いていく。
魔術師としては二流のこの身で、サーヴァントを無事に呼び出せるのだろうか?
父の期待に応えるべく召喚は成功させたいが、失敗して時臣氏の落胆する顔をと考えると…。
魔力が抜ける感覚で雑念に気付く。
代行者としての修行を思い出し雑念を払う。
すると召喚陣が一際強く輝いた。
次の瞬間、召喚陣の上には一人の老人の姿があった。
その老人の姿に首を傾げる。
聞いた話だが、アサシンのクラスで喚び出すサーヴァントは決まっている筈だ。
だが、私が喚び出したサーヴァントは一見、アサシンには見えない。
功夫着を着ているので、おそらくは中華の者なのだろう。
「ほう…これが現世か。儂が生きていた時代と大きくは変わらぬようだ。」
老人が私に目を向けてくる。
すると小柄な老人の身体が、突如大きくなった様に見えた。
背中を冷や汗が流れる。
「どうやらお主が儂のマスターの様だな。」
正中線が一切揺れぬ歩みで老人が近付いてくる。
その歩みはアサシンというよりは武術家に見える。
「ほう?お主も少しは使える様だのう。」
不敵な笑みを見せる老人は包拳礼をした。
「儂は李書文。しがない武術家よ。」
老人の名乗りに私だけでなく、父や師も目を見開いたのだった。
◆
side:ギルガメッシュ
「ほう?」
綺礼が喚び出したあのサーヴァント…二郎に関わりがある者か。
「渇きを知るが故に応えたか。」
アサシンから目を離し、世界を『観る』。
「気付いたか、流石は我が友よ。早く来い、宴を始めるぞ。」
◆
side:アルトリア
「どうかしましたか、二郎?」
「『観られて』いたんだ。」
「『観られて』?」
「あぁ、なるほど。この気配は彼が宴に喚ばれたのか。これはあまり待たせると拗ねられそうだね。」
二郎が楽しそうに笑っています。
言葉から察するに旧知の者が召喚されているようですね。
「それじゃ、俺達も喚ぼうか。」
二郎が触媒を置いて地を踏み締めると、触媒を中心に光の奔流が渦巻き出しました。
召喚陣を用いずに英霊を召喚する。
魔術師がこれを聞いたらどう思うでしょうか?
マーリンやゼルレッチなら苦笑いするぐらいでしょうが、士郎なら遠い目をするでしょうね。
一際光が強まってから収まると、そこには一人の男性の姿がありました。
「…っ!?ゼン様!?」
ディルムッド・オディナと思われる人物は、二郎を目にすると直ぐに地に膝を突きました。
「久しいね、ディルムッド。」
「お久し振りでございます、ゼン様。」
「君には何か聖杯への願いがあるかい?」
「なにもございません。私は古今の英雄達との戦いを求め、此度の召喚に応じました。」
「そうかい。なら、現世の酒も合わせて楽しんでいくといいよ。」
「はっ!」
ディルムッド殿の礼はランスロットに勝るとも劣らない見事なものです。
流石はケルトの伝説の騎士ですね。
「ところでゼン様、そちらの御令嬢は?」
「彼女はアルトリア・ペンドラゴン。俺の恋人だよ。」
二郎は恋人と紹介しましたが、現代の中華の王が用意した私の戸籍には二郎の『妻』と記されています。
『妻』です。
妲己と竜吉公主には悪いですが、これで名実ともに私が正妻ですね。
私は二郎の横に並び立ってディルムッド殿に挨拶をします。
「『妻』のアルトリア・ペンドラゴンです。ディルムッド殿、此度はよろしくお願いしますね。」
「赤枝の騎士が一人、ディルムッド・オディナです。ペンドラゴン卿、こちらこそよろしくお願いします。」
彼の伝説には呪いの黒子の話がありますが、それも生前に二郎が解呪しています。
しかも命も救われたとあって、彼は死後も二郎に恩を返す機会を待っていたようですね。
サーヴァントとして二郎に仕える事になった彼はとても嬉しそうです。
「さて、それじゃ日ノ本に行こうか。」
私達はのんびりと飛行機でブリテンから日本に向かう事にしました。
ファーストクラスでの旅は中々に快適です。
出入国に関しては幻術で誤魔化しました。
そして認識阻害の術も使っているので、ディルムッド殿も姿を現して共に酒を楽しんでいます。
そういえば、二郎は旧知の者を待たせている筈ですがいいのでしょうか?
「これが現代の酒ですか。美味い物ですね。」
「よければ神酒に変えようか?」
「畏れ多い事ですが、お願い出来ますか?」
私も二郎が神酒に変えた葡萄酒を楽しみます。
…うん、美味しいです。
神の子やギャラハッドが造った葡萄酒に勝るとも劣らぬ見事な味。
流石は二郎ですね。
その後も酒や食事をしながら空の旅を楽しむのでした。
◆
side:衛宮 切嗣
ドイツのアインツベルン城の地下、そこにある召喚陣に触媒を置く。
今回の聖杯戦争にアハト翁は二つの触媒を用意していた。
一つはギリシャ神話の大英雄アルケイデスの物。
そしてもう一つが僕に渡してきたアーサー王伝説の円卓に縁のある物だ。
婿養子に迎えたとはいえ、僕に本命の触媒を与えないのは本心では信用されていないからだろう。
アイリの命を賭ける以上、聖杯戦争に必ず勝つ為にはアルケイデスの触媒を使いたかった。
…これ以上不満を抱いても仕方ない。
ならば、円卓の騎士の中で聖杯戦争に適した者を考えよう。
理想は騎士の中の騎士と謳われているランスロット。
次点でギャラハッドか。
実力だけを考えればトリスタンも考えられるが…彼は弓兵だ。
前線で敵の注意を引かせるには不適だろう。
アーサー王やモードレッド、そしてガウェインは王である事を考えると、サーヴァントとして従えるには不安がある。
命令を聞かせるのに令呪を使わねばならない可能性が高いかもしれない。
戦力としては十分だろうが、リスクが高い。
やはりランスロットかギャラハッドを召喚するのが理想的だ。
召喚を始める前に明確に候補の二人をイメージしていく。
「切嗣…。」
心配そうな声を出すアイリに微笑む。
大丈夫。
必ず戦いを根絶し、世界に恒久的な平和を実現してみせるよ。
強い想いを胸に召喚を始める。
召喚陣から光の奔流が渦巻くと、急激な魔力消耗に意識が霞む。
パスを繋いでいるアイリの魔力も召喚陣に注ぐ。
…手応えありだ。
光が収まると、そこには紫の髪色をした成人男性の姿があった。
「召喚に応じ参上した。私はランスロット。美しいお嬢さん、貴女が私のマスターか?」
そう言いながらランスロットと名乗った男は、僕ではなくアイリの前で騎士の礼をとったのだった。
次の投稿は13:00の予定です。