二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第246話

side:二郎

 

 

日ノ本に飛行機で到着すると、直ぐに竜脈の淀みに気が付いた。

 

「これは思っていたよりも酷いね。」

「そうなのですか?」

「このまま放っておいたら、二、三十年後には日ノ本が滅ぶよ。」

 

空の旅の途中にディルムッドにも俺達の本当の目的は話してある。

 

だからなのか、彼は神妙な顔になった。

 

「ゼン様、この国は大丈夫なのでしょうか?」

「このぐらいなら問題ないよ。三千年以上前にいた邪仙がやっていた事に比べればね。」

 

当時の邪仙の中には、妲己の名を騙って中華の民を傀儡にしようとした奴もいた。

 

まぁ、封神する際に二度と悪さを出来ない様に力を完全に封じたけどね。

 

「さて、冬木に着いたら二人は教会に行って宴の参加を告げてきてくれるかい。俺はその間に哮天犬と一緒に竜脈を調べてくるからさ。」

「わかりました。合流は中華の王が手配したホテルでいいですか?」

「うん、それでいいよ。」

 

 

 

 

side:アルトリア

 

 

冬木に着いた私はディルムッド殿と共に、聖杯戦争の監督を務めるという教会に向かいました。

 

こういった聖杯戦争の規則はゼルレッチに聞いています。

 

教会に向かいながら考えるのは、この聖杯戦争は正直に言って不正をやりたい放題だという事です。

 

その理由として一つ目、監督を務める教会が歴代のマスターが持っていた『令呪』を管理している事です。

 

令呪はサーヴァントを従える為の呪いですが、使い方によってはサーヴァントを強化する事も出来ます。

 

なのでその気になれば教会が贔屓するマスターに幾つも令呪を渡し、そのマスターが呼び出したサーヴァントを他のマスターが喚び出したサーヴァントよりもずっと強化する事が出来るのです。

 

二つ目、聖杯戦争という魔術儀式を造った御三家の存在です。

 

この御三家はマスターの証である令呪が優先して発現するそうです。

 

そして六十年という開催周期。

 

世代交代や触媒等を用意する為の財の貯蓄をするには十分な期間でしょう。

 

要するに外様のマスターに比べて入念に準備が出来るという事ですね。

 

まぁ、このぐらいは主催者なので仕方ないでしょうが、他にも問題があります。

 

それはこの御三家が談合していた場合です。

 

聖杯戦争は名目上、魔術師の栄誉ある戦いとの事ですが、その栄誉ある戦いに『奇跡』を成す『聖杯』という破格の報酬があるのです。

 

栄誉ある戦いと銘打って聖杯戦争に必要な頭数を揃える為に外様の魔術師を招き、影では御三家が談合して聖杯を手にする順番を決めていても不思議ではないでしょう。

 

そう話すとディルムッド殿が苦笑いをしました。

 

「よくお考えになられますね、ペンドラゴン卿。」

「かつては立場上、苦手でも考えねばなりませんでしたからね。この国の言葉で言えば、『昔とった杵柄』といったところでしょうか。」

 

そんな風に語らいながら歩いていると、丘の上にある教会の前に着きました。

 

たしか日ノ本ではシッダールタ殿の教えが中心だった筈ですが、イエス殿の教えを信仰している者も多いみたいです。

 

流石は世界『四大宗教』の一つですね。

 

扉を軽く叩き、来訪を報せてから中に入ります。

 

中に入り先ず目にしたのは十字架に磔にされたイエス殿の像でした。

 

御本人を知っている身としては内心で苦笑いをするしかありません。

 

私達が中に入ってから少しの間をおいて、イエス殿の像の前で膝をついて祈りを捧げていた人物が立ち上がりました。

 

「当教会にようこそ。主は貴方達の来訪を歓迎されるでしょう。それで、当教会に如何な御用でしょうか?」

 

壮年の男性が柔らかに微笑んで話し掛けてきます。

 

敬虔な信徒の様ですね。

 

イエス殿が知ったら喜びそうです。

 

「他に誰か祈りを捧げにきている方はいますか?」

「いえ、今は貴女達だけです。」

「では…私はアルトリア・ペンドラゴン。代理として『宴』への参加を告げに来ました。」

 

私の言葉に続いてディルムッド殿が現代の服装から、魔力で編んだ鎧に喚装します。

 

それでディルムッド殿がサーヴァントだとわかったのでしょう。

 

壮年の男性は一瞬だけ驚いた様に目を見開きますが、直ぐに穏やかな表情を浮かべました。

 

「…これも主の導きでしょう。貴女方の参加の旨、承りました。」

「はい、ではこれで失礼します。」

 

教会を後にすると、道すがらディルムッド殿と話します。

 

「あの御仁が卑怯な手を使うとは思いたくありませんな。」

「そうですね。ですが、必要とあればやるでしょう。己の罪に苦しみながらも。」

 

暖かな慈愛を感じる人でした。

 

ですが、それ故に罪に苦しみながらも、隣人の為に罪を犯すのを躊躇わないでしょう。

 

「それより、気付きましたか?」

「えぇ、彼は顔見知りですから。」

 

そう答えるとディルムッド殿は僅かに驚いた顔をします。

 

「彼の槍は二郎も認めた程の腕前です。」

「ほう?それは楽しみです。」

 

出来れば私も戦いたいですが、英霊達の宴ですからね。

 

今回はディルムッド殿に譲りましょう。

 

「さて、ホテルに行く前に少し寄り道をしていきましょうか。現地の食を楽しむのも、旅の醍醐味です。」

 

 

 

 

side:言峰 綺礼

 

 

『騎士王』と同じ名を名乗った少女が去ると、私は父の横に立った。

 

アサシン…李書文も姿を現す。

 

「これは面白くなってきたわい。」

「李老師、それはどういう事でしょうか?」

 

父の問いに李書文が笑いながら答える。

 

「彼女とは生前に会っておってのう。一度手合わせをし、敗れている。」

「生前に?では、彼女の名は…?」

「偽名ではなく本物であろうよ。」

 

アルトリア・ペンドラゴン。

 

この名が騙りでないのならば、彼女は本物の『騎士王』という事か。

 

「…時臣君を勝たせるのは難しくなったか。」

「なに、心配せずとも、そう悪い事にはならぬであろうよ。」

 

そう言って彼は不敵に笑う。

 

そして父が疑問に思って首を傾げると、彼は大きな声で笑い始めたのだった。

 

 

 

 

side:二郎

 

 

「なるほど、『これ』を取り込んだから竜脈が淀んだのか。」

 

竜脈を調べるべく洞窟の奥に進むと、そこには黒に染まった竜脈があった。

 

「『あれ』からは悪意を感じるけど、どうも『あれ』自身が悪意を放っている様には感じないね。これは…悪意を『背負わされた』のかな?」

「クゥ~ン。」

 

悲しげに鳴く哮天犬の頭を撫でる。

 

「そうだね。宴の終わり頃に『あの二人』を連れて来ようか。あの二人なら『彼』を救ってくれるだろうからね。」

「ワンッ!」

 

嬉しそうに鳴く哮天犬の頭をもう一度撫でると、悪意が漏れ出ぬ様に封を施してから洞窟を後にするのだった。




本日は4話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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