side:アイリスフィール・フォン・アインツベルン
ランスロットが切嗣に仕えてくれると誓ってくれた後、切嗣の『仕事のパートナー』である舞弥さんを彼に紹介しようとしたのだけど、彼女を見たランスロットはこう言ったの。
「ほう?美しい御夫人に可愛い娘がいながら愛人を持っているとは…卿もやるじゃないか。」
…聞き間違いかしら?
「ランスロット、舞弥さんを何て言ったのかしら?」
「切嗣殿の愛人と言ったが?」
「…切嗣?」
微笑みながら問い掛けると切嗣が僅かに狼狽える。
「いや、舞弥は僕の弟子であり、仕事のパートナーだ。」
「ふむ、現代にまで女性との浮いた話が逸話として残る程度には経験があるのだが…私の見立て違いか?」
うん、これ以上ない説得力ね。
「舞弥さん、向こうの部屋でちょっとお話しをしましょう。」
「お、奥様!私は!」
「さぁ、行きましょう。」
私は舞弥さんの手を取って歩き出す。
「ア、アイリ?」
「貴方とも後でお話しをしましょうね、『切嗣さん』。」
「あ、はい…。」
ちょっと意地悪な言い方かもしれないけど、このぐらいはいいわよね。
部屋を出て扉を閉めると、閉める瞬間に見えた切嗣の顔を思い出して軽く吹き出してしまったのだった。
◆
side:ランスロット
アイリ殿が部屋を出ていくと切嗣殿は力が抜けたのか、呆然としながら床にへたり込んでしまった。
「大丈夫か?」
「…誰のせいだと思ってる?」
「卿のせいに決まっているだろう。愛する家族がありながら愛人を持っていたのだからな。」
私の言葉を聞いた切嗣は力尽きて床に身を投げ出してしまった。
「こういった事は早い内に解消しておく方がいい。」
「…それは経験談かい?」
「まぁ、そうだな。」
次男のガーラハッドが7歳の時の事、私が妻のエレイン以外の女性に敬意を払っているのを見たガーラハッドは、私が浮気をしていると思ってしまった。
誠心誠意に話をしても中々誤解が解けず、1ヶ月はガーラハッドに父と呼んでもらえぬ日々が続いた。
あれは辛い日々だった。
ベイリンの様に円卓を追放された方が楽だと思える程に辛かった。
「私はただ、アイリ殿に挨拶した時の様に敬意を払っただけなんだが。」
「あれは世間一般的には口説いてるって言うんだよ、ランスロット。」
むう…やはり女性への敬意については、トリスタンとしかわかりあえないか。
「はぁ…アイリが戻ってきたら何て話せばいいんだ…。」
「そう悪い事にはならぬと思うぞ。」
「それも経験談かい?」
「いや、違う。これは勘だ。私は少なくとも、エレインと結婚してからは他の女性に手を出した事は無いのでな。」
「うぐっ…。」
◆
side:アイリスフィール・フォン・アインツベルン
「お、奥様…。」
「舞弥さん、単刀直入に聞かせてもらうわ。貴女は切嗣を愛しているの?」
私の問い掛けに一瞬戸惑うものの、舞弥さんは力強く『はい』と答えた。
「うん、それならいいわ。」
「えっと…何がいいのでしょうか?」
「舞弥さんが切嗣の愛人であるのを認めると言っているのよ。」
そう言うと舞弥さんは驚いて目を見開いたわ。
「ど、どうして認めていただけるのですか?」
「私はこれでも『フォン』の称号を持つ貴族よ。一夫多妻への理解ぐらいあるわ。」
「で、ですが、一夫多妻は昔の話では…。」
「あら、現代でも一夫多妻が続いている国はあるわよ。たとえば中華とかね。」
魔術師なら愛が無くとも男女の関係になる事もある。
魔力供給なんかが理由でね。
それを考えれば切嗣を愛してそういった関係になった舞弥さんは、少し複雑だけど好感が持てるわ。
「だから舞弥さんが正式に切嗣の妻になりたかったら、切嗣に中華の国籍を取得させないとね。あっ、もちろん私が第一夫人である事は譲らないわよ。」
「奥様…。」
「舞弥さん、私の身体の事は知っているでしょう?」
「…はい。」
私の身体は聖杯として調整されている。
だから聖杯戦争が進めば、私は人としての機能を失っていき、やがて死に至る。
ランスロットは私が生きる道筋もあると言っていたけど、万が一の事も考えておかないといけない。
私が死んでも、切嗣とイリヤに幸せになってもらうために…。
「だからもしもの時は舞弥さんに頼みたいの。」
「奥様…。」
「だって切嗣には生活能力が無いんだもの。」
そう言うと舞弥さんはプッと吹き出した。
「放っておくとジャンクフードしか食べないし、服装なんかも実用一辺倒でお洒落なんかとは無縁だわ。」
「ふふ、そうですね。でも、そんなところが可愛いと思う事が…。」
「ダメよ、舞弥さん。イリヤが真似をしたらどうするの。」
「はい、すみません。」
謝りながらも舞弥さんは微笑んでいる。
うん、彼女となら上手くやっていけそうだわ。
覚悟はしているけれど、出来る事なら生き残りたいわね…。
「奥様、知っていますか?切嗣はかなり女誑しなんですよ?」
「その話、詳しく聞かせてくれるかしら?」
「はい。切嗣の指示で冬木に拠点の一つを手に入れるべく、私は切嗣の知己である有力者を訪ねたのですが、その有力者の娘さんが…。」
こうして私は舞弥さんと切嗣の話で盛り上がっていった。
もし叶うのなら、これからも彼女とはこうやってお話しをしていきたいわ。
これが本当の友達というものなのかしらね。
悲劇の英雄気取りのスケコマシは一夫多妻去勢拳の刑に処されればいいと思う。
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