side:二郎
竜脈を確認した翌日、俺はギルガメッシュに会いにいく事にした。
これ以上待たせると本当に拗ねそうだしね。
「アルトリアとディルムッドも一緒に来るかい?」
「はい、一緒に行きます。」
「ゼン様に護衛は必要ないと愚考しますが、騎士として側に控える事を御許し願いたく。」
そういうわけで二人と共に冬木の街中をゆっくりと歩いていく。
「二郎、これから会いにいく者はどういった人物なのですか?」
「そうだね、例えるなら『何者にも成れる者』ってところかな。」
「何者にも成れる…ですか?」
首を傾げるアルトリアに微笑む。
「王になろうと思えば王に、戦士になろうと思えば戦士に、魔術師になろうと思えば魔術師に成れる者。そんな万能の才を持ったのがギルガメッシュなんだ。」
「なるほど、原初の王であるギルガメッシュ王ならば納得です。でも私は、二郎もギルガメッシュ王に負けない程の万能の才を持っていると思いますよ。」
そう言ってくれるアルトリアに微笑む。
「ありがとう、アルトリア。でもね、俺は個の戦いに通ずるものならギルガメッシュよりも上だと自負しているけど、それ以外の才は間違いなくギルガメッシュに劣ると思ってるよ。」
「それ程に凄い人物だったのですね、ギルガメッシュ王は。」
「あぁ、自慢の友だよ。」
◆
side:遠坂 時臣
「時臣、歓迎の準備をせよ。」
「王よ、それは如何な理由で?」
「我が友が来る。」
一度頭を垂れた私は急ぎ秘蔵の酒の準備に向かう。
王が友と呼ぶ者…神話に間違いがなければ、放浪の神ゼンが我が家に来るという事だ。
神なる存在に会える事に年甲斐もなく高揚する。
遠坂家当主として不足ない格好をしている自覚はあるが、姿見で今一度確認をしておく。
王から歓迎の命を受けてから十五分程が過ぎると呼び鈴が鳴った。
優雅さを忘れず、然れど急ぎ足で玄関へと向かう。
そして玄関を開けると、そこには青髪の美青年の姿があった。
私は直感する。
この御方が放浪の神ゼンであると。
「御来訪を御待ちしておりました、放浪の神ゼン様。」
「君が俺の友を喚んだ者かい?」
「はっ、名を遠坂 時臣と申します。以後、お見知りおきを。」
「遠坂?すると、君がゼルレッチの弟子か。」
宝石翁の名を出され驚く。
…あの御方なら神と知己でも不思議ではないか。
「おっしゃる通りに我が遠坂家は宝石翁の弟子でございます。」
「彼からは君の一族がこの地の竜脈の管理者でもあると聞いているんだ。その事で話があるから後で時間をもらうよ。」
竜脈の事で?
気になるが、先ずは王の元に案内しなくては。
「竜脈の件、承りました。どうぞこちらへ、王が御待ちです。後ろの方々もどうぞ中に。」
◆
side:二郎
「遅いぞ!我を待たせるとは何事だ!」
客間で待ち構えていたギルガメッシュが、俺の姿を見るなり一喝してくる。
「本当に変わらないね、ギルガメッシュは。」
「当然であろう。我は我だ。二郎が二郎である事と同じくな。」
「あぁ、その通りだね。」
遠坂の当主が内心で慌てているみたいだけど、彼はその様子を見せずに酒の準備を始めた。
「私の秘蔵の酒でございます。どうぞ御賞味ください。」
硝子の杯に葡萄酒が注がれていく。
鮮やかな赤が目を楽しませてくれると同時に、芳醇な香りが広がる。
「現世での再会を祝してってところかな。」
「うむ。」
ギルガメッシュと共に杯を掲げる。
そしてしばしの間、彼と一緒に再会の酒を楽しむのだった。
◆
side:アルトリア
二郎とギルガメッシュ王が静かに酒を楽しんでいます。
多くを語らずとも通じあえているその光景は、正に神話の一部を切り取ったかの様に絵になります。
私とディルムッド殿も御相伴させていただいていますが、とても美味しい葡萄酒です。
遠坂 時臣殿も驚いているところを見るに、二郎がこっそりと神酒に変えたみたいですね。
「遠坂の当主、少しいいかい?」
「はっ、竜脈の件でしょうか?」
「うん、そうだね。この地の竜脈なんだけど、このまま放っておけば、二、三十年後には日ノ本が滅びる原因になるよ。」
「なっ!?真でございますか!?」
驚く時臣殿にギルガメッシュ王が言葉を発します。
「我が友の言葉を疑うか?」
「い、いえ、滅相もありません。ですが、当地の管理者としては俄に信じ難く…。」
国が滅びる原因となると聞かされては、直ぐに信じられぬのも仕方ないでしょう。
「とりあえず簡単に封じてきたから、『宴』の最中は問題ないよ。」
「そ、そうですか、感謝致します、放浪の神ゼン様。一つ伺いたいのですが、当地の竜脈はどうなっているのでしょうか?」
「一言で言えば、『悪意に染まっている』ってところかな。」
時臣殿が首を傾げます。
「悪意…ですか?」
「竜脈を流れる気…君達の言葉で言えば魔力なんだけど、これは本来は無色なんだ。無色故に何色にもなれる。それこそ使い方次第では『世界の内に』奇跡を起こす事が出来るのは知っているだろう?」
時臣殿が頷きます。
遠坂家は聖杯戦争という魔術儀式を造った御三家の内の一つであり、時臣殿はその遠坂家の当主です。
ある程度は知っていて当然でしょう。
「だけどその無色の筈の色が悪意に染まってしまっている。この意味がわかるかい?」
「奇跡は起こらない…という事でしょうか?」
「いや、奇跡は起こるよ。ただしどんな願いでも、悪意によって多くの者の死を招く形になるだろうね。」
時臣殿が顔を歪めます。
そして目を閉じて一つ息を吐くと、深々と頭を下げました。
「畏れ多くも放浪の神ゼン様に願い奉ります。」
「なんだい?」
「当地の竜脈に施された術式の解体を。」
「聖杯はいらないのかい?」
二郎の問い掛けに時臣殿は力強く頷きました。
「いらぬとは申しません。ですが、私は冬木の竜脈を管理する遠坂家の当主です。聖杯が人々に仇なすのならば、その解体を決断する責任があります。」
己の欲を認めつつも、責任を果たす為に抑える…見事ですね。
「わかった。『あれ』の解体は引き受けたよ。」
「心から感謝致します。」
「気にしないでいいよ。俺はあれをどうにかする為にこの地に来たのだからね。」
二郎はそう言いますが、時臣殿は深く頭を下げ続けています。
「ところで、君が聖杯に掛ける願いは何だったんだい?」
「…『根源』への到達が我が願いでございました。」
「それは君自身の力で叶わないのかい?」
二郎の問いに時臣殿は悔しそうに歯噛みをします。
「私は魔術師としては二流でございます。一生を賭けても成せないでしょう。」
「千年生きても成せないのかい?」
「えっ?千年…ですか?」
「そう、千年。」
混乱している時臣殿を見てギルガメッシュ王が笑いだしました。
「フハハハハ!時臣よ、酒でも飲んで落ち着け。」
「は、はっ!し、失礼します!」
グイッと杯の葡萄酒を飲み干した時臣殿が大きく息を吐きます。
「落ち着いたかい?」
「はい、失礼しました。」
「構わないよ。それで、どうかな?」
時臣殿は顎に手を当てて真剣に考え始めました。
「…千年の長き時を研鑽に費やせば、あるいは非才の我が身でも届くやもしれません。」
「それじゃ、不老になってみるかい?」
「…はい?」
時臣殿が呆然としています。
私は苦笑いをするしかありません。
慣れていなければ、二郎のこの自由さにはついていけませんからね。
「…ほ、放浪の神ゼン様、どういう事でしょうか?」
「己が欲を抑え、当主としての責を果たす決断をした君への褒美ってところかな。」
驚き過ぎたのか、時臣殿から優雅さが消えてしまいました。
そんな時臣殿を見て、ギルガメッシュ王が大笑いをしています。
意外といい性格をしているのですね。
「す、少し考える時間をいただけないでしょうか?」
「ゆっくり考えるといいよ。あぁ、もし一緒に不老になりたい者がいるのなら教えてくれるかい。その者の分も不老の妙薬を与えるからね。」
そう言うと二郎は手にしていた杯を傾けたのでした。
◆
side:遠坂 時臣
あまりの展開についていけない。
いったいどうすればよいのだ?
と、とにかく先ずは落ち着かねば。
私は秘蔵の酒を手に取りグラスに注ぐ。
そして酒を口にすると、憎らしい程に美味かったのだった。
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