二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第250話

side:アイリスフィール・フォン・アインツベルン

 

 

聖杯戦争開始まで残り七日といった頃、冬木に到着した私はランスロットと一緒に、聖杯戦争の参加を宣言するために教会に向かっていた。

 

「アイリ殿、エスコート役は私でよろしかったのですかな?」

「今回の一件が無事に片付いたら、その分の時間は私が貰うから構わないわ。」

 

現代のスーツを身に纏ったランスロットと二人で歩いていると、何故か周囲の人達の視線が私達に集まってしまうのよね。

 

やっぱりランスロットが伝説に残る程の色男だからかしら?

 

でも、こういうのも面白いわ。

 

アインツベルンのお城に籠っていたらわからなかった事だもの。

 

色々と楽しまないとね。

 

「ねぇ、ランスロット、また機会があったら私が車を運転してもいいかしら?」

「申し訳ありませんが、御遠慮願いましょう。」

「え~、ちょっとスピードを出しただけじゃない。」

 

不本意を示すとランスロットは苦笑いをする。

 

「あれでちょっとだと言えるアイリ殿は豪気ですな。ですが、ここは騎士である私に手綱を取らせていただかなければ格好がつきません。それに、切嗣殿の指示でもありますから。」

「む~。」

 

私は公道でちょっとアクセルを全開にして楽しんだだけなのに。

 

認識阻害の魔術を使っていたから一般人にはバレてない。

 

なのに運転しちゃダメなんて…ひどいわ。

 

泣いたフリをしてもインカムで私の声を聞いている切嗣には効果無し。

 

仕方ないわね。

 

無事に生き残ったらセラとリズも巻き込みましょう。

 

そうこうしている内に教会の前に来たわ。

 

「どうぞ。」

「ありがとう。」

 

ランスロットが慣れた仕草で扉を開けてくれる。

 

これを無意識でやっているんだから、奥さんや子供達は大変だったでしょうね。

 

教会の中に入ると二人の壮年の男性と、一人の若い男性の姿があった。

 

私がその三人を目にした次の瞬間、ランスロットは私の前に立っていた。

 

「アイリ殿、あの小柄な老人はサーヴァントです。警戒を。」

 

髪に隠れたインカムから切嗣の声が聞こえた。

 

『アイリ、直ぐに撤退を。』

「警戒の必要はありません。私達は貴女方に話を聞いていただくために、こうして李老師にも姿を現してもらい、待っていたのですから。」

 

壮年の神父の言葉にランスロットが頷く。

 

「戦場特有の気配は感じません。彼等の話を聞くぐらいなら問題ないかと。」

「…切嗣?」

『わかった。だがランスロット、事があれば直ぐに令呪を使って転移させる。アイリの側を離れない様にしてくれ。』

「これは役得ですな。」

 

ランスロットのその一言で、私達の緊張していた空気が緩んだ気がした。

 

『ランスロット、側にいるだけだ。必要があるまでアイリに触れるな。』

「善処しよう。しかしそうなると、是非とも必要になってほしいものだ。」

 

インカムの向こうで切嗣が騒いでいるみたいだけど、私は神父に話を聞くと告げる。

 

「では…私は今回の聖杯戦争の監督役を務める言峰 璃正と申します。」

「これは御丁寧に…私はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。そしてこの人はセイバーのサーヴァントよ。」

「アインツベルンの方が御来訪されるのを御待ちしていました。」

「それはどういう意味でかしら?」

 

璃正神父が柔らかに微笑む。

 

「冬木の管理者である遠坂の当主と私達は、聖杯戦争の術式の解体で合意しました。その旨を貴女方に伝え、そして御賛同いただきたく、こうして貴女方を御待ちしていたのです。」

「…聞き間違いかしら?術式の解体と聞こえたのだけど?」

「いえ、聞き間違いではありません。私は確かに、聖杯戦争の術式の解体と言いました。」

 

聖杯戦争が今後起こらないならイリヤは助かる。

 

でも…お祖父様が認めるとは思えないわ。

 

「口を挟んで申し訳ないが、一ついいだろうか?」

「…どうぞ。」

「私は言峰 綺礼。こちらにいるアサシン…李書文のマスターだ。」

 

サーヴァントの素性が知られてしまえば、逸話を参考にして対策を練られやすいわ。

 

だから聖杯戦争においてサーヴァントの名前は伏せるのが基本なんだけど…。

 

「御丁寧にどうも。こちらも紹介した方がいいかしら?」

「いや、アハト翁を説得してもらう対価だと思ってもらえばいい。」

「御厚意に甘えるわ。」

 

切嗣はインカムの向こうで黙して話を聞いている。

 

「察するところ、貴女にはアインツベルンとは違う目的があると思うが?」

『アイリ、不用意に返事はしないでくれ。カマを掛けてきているかもしれない。』

 

言峰 綺礼の言葉に反応しそうになるけど、切嗣の声で踏みとどまれたわ。

 

「こちらにはアインツベルンの悲願を叶えつつ、貴女の願いにも協力する用意がある。」

 

言峰 綺礼の言葉は私の中にスルリと入り込んでくる。

 

まるで全てを『察して』しまわれているかの様な感覚にゾクリとした。

 

「アイリ殿、話をしてみては如何でしょうか。」

「ランスロット、それは貴方の勘かしら?」

「はい、あの者達から悪意を感じません。もっとも、あちらの老人からは挑戦的な誘いを受けていますが。」

 

アサシンのサーヴァントと紹介された老人に目を向けると、茶目っ気を見せるかの様にウインクをしてきたわ。

 

「少し待って貰えるかしら?」

 

璃正神父と綺礼が頷いたのを見て、私は一度教会の外に出て切嗣と話す。

 

「切嗣、貴方もこっちに来れない?」

『リスクを避けるなら、行くべきじゃないが…。』

「それはわかるわ。でも、ここが私達の分かれ道だと思うの。」

 

切嗣は少し間を置いてから答える。

 

『…わかった。十五分でそっちに行く。』

「えぇ、待ってるわ。」

『ところでアイリ、僕達の分かれ道という判断の根拠は何だい?』

 

その問い掛けに私は微笑む。

 

「女の勘よ。」

『なるほど、それは心強いね。』

 

 

 

 

side:衛宮 切嗣

 

 

万が一を考えて舞弥を残し、僕はアイリ達が待つ教会にやって来た。

 

「私は言峰 璃正です。ようこそいらっしゃいました。主は貴方の来訪を歓迎されるでしょう。」

「…僕はアイリスフィール・フォン・アインツベルンの関係者だ。」

 

信仰とは無縁の僕だが、死者を弔ってくれる教会には敬意を払わなければならないだろう。

 

なので名乗らない非礼を詫びるが、彼は穏やかに微笑んだ。

 

「未熟な私では言葉を尽くして誠意を示さねば信頼を得られぬでしょう。どうか気になさらず、楽にしてください。」

 

アイリは座らせるが、僕とランスロットはいつでも動ける様に警戒しておく。

 

「先ずは術式解体の決断に至った経緯を話しましょう。ある御方が当地の龍脈を見分され、危険と判断し、それを遠坂の当主に御伝えなさったのです。」

「そのある御方とは?」

「今回の聖杯戦争の参加者の一人です。貴方方と合意に至れば紹介する事も叶うでしょう。」

 

どうやら年相応に強かな様だ。

 

情報を最低限しか与えてこない。

 

「…僕達も決意を持って此処にいる。不確実な状態では頷けない。」

「では一つ御伝えしましょう。遠坂の当主は、その御方に悲願達成の術を与えてもらう約束になっています。」

「遠坂の当主の悲願?」

「えぇ、根源への到達です。」

 

魔術師の悲願の達成を約束?

 

馬鹿な。

 

それはそんな簡単に約束出来るものじゃない。

 

「…聞き間違いかな?」

「いえ、聞き間違いではありません。」

「根源への到達はそう簡単な事じゃない。いったいどうやって叶えるつもりだ?」

「一流の魔術師でも至れるかわからぬ難事。だが、それは人の一生だからこそのものだ。」

 

教会に入ってからずっと僕を観ていた男…言峰 綺礼が口を開いた。

 

「だから、それがわかっているのなら、どうやって叶えると言っているんだ。」

 

少し語気が強くなってしまった。

 

何故かこの言峰 綺礼という男の目が気に入らないんだ。

 

「アインツベルンに属しているのなら、予想がつくのではないか?」

「まさか…『第三の魔法』を使うとでも言うの?」

 

アイリの言葉に言峰 綺礼は首を傾げる。

 

「さて…?」

「ハッキリとは答えて貰えないのかしら?」

「まだ貴女方から術式解体の同意を得たわけではないのでな。」

 

アイリが顔に不満を表すと、言峰 綺礼は薄く笑う。

 

正直に言えば同意をしたい。

 

だが、御膳立てが整い過ぎていて疑わしい。

 

返答に悩んでいると、ランスロットが口を開いた。

 

「私から一つ聞いていいだろうか?」

「どうぞ、セイバー殿。」

「感謝する。貴殿達が言うその御方は、この聖杯戦争を何と評していた?」

「『宴』と評されていました。」

 

言峰 璃正と話をしたランスロットは笑顔で頷いた。

 

「なるほど、合点がいった。」

「それはようございました。」

「切嗣殿、アイリ殿、この話は受けた方がいい。」

「ランスロット、どういう事だ?」

 

彼は至極真面目な表情で僕達を見てくる。

 

「あの御方に会えれば、私達の懸念が解決する目処が立つ。」

「…その人物に心当りがあるのか?」

 

僕の問いに彼は力強く頷く。

 

アイリが言った通りに、ここが僕達の分かれ道なんだろう。

 

僕の決断にアイリやイリヤの未来が掛かっていると思うと心が重い。

 

「…少し時間をくれ。」

 

悩む。

 

彼等と組んでいいのか?

 

それでアイリを救えるのか?イリヤを守れるのか?

 

答えは出ない。

 

だが…決断しなければならない。

 

僕の手に何かが触れる。

 

アイリの手だ。

 

…そうだね。

 

わかったよ、アイリ。

 

顔を上げて言峰 璃正に目を向ける。

 

そして…。

 

「僕達は聖杯戦争の術式の解体に同意する。アハト翁を説得する為に、貴方達が言うあの御方に会わせてくれ。」

 

そう告げると言峰 璃正は柔らかく微笑んだのだった。




本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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