「あら?思ったよりもグガランナをあっさりと倒したわね。流石は私の
夫になるべき男ってところかしら。」
そう言いながら女神イシュタルが現れると、ギルガメッシュは不快気に表情を歪める。
「イシュタルよ、何をしに来た?」
「言わなくてもわかるでしょう?貴方を私の夫にしにきたのよ。」
どこか勝ち誇った様に女神イシュタルが笑う。
「今回の一件でわかったでしょう?貴方が私の夫にならなければ、
ウルクに災いが起こるって。」
「災いを起こすの間違いであろうが。」
「神と人の見解の相違ね。」
そう言いながら女神イシュタルは両手を軽く上げて肩をすくめる。
そんな女神イシュタルの姿にギルガメッシュは拳を握り締める。
「さて、返事を聞きましょうか?ギルガメッシュ、貴方は私の…ブッ!?」
女神イシュタルの言葉が途中で遮られる。
理由はエルキドゥがグラガンナという牡牛の腿を、女神イシュタルに投げつけたからだ。
「土人形の分際で、この私に何をするのよ!?」
「貴女こそ、振られた女の分際で僕の友に言い寄らないでくれないかな?」
そう言うエルキドゥはニコニコと笑っているが、妙な威圧感がある。
「本当ならこの牡牛の様に八つ裂きにしたいところだけど、貴女はウルクの土地神だから、八つ裂きにしたらギルに迷惑をかけちゃうから止めとくよ。」
エルキドゥの言葉に女神イシュタルは歯を食い縛りながら拳を握り締めている。
「土人形の分際で…神に対して不敬よ!」
「貴女は自分が敬意を持たれるような振る舞いをしているとでも思っているの?」
エルキドゥの言葉に、今度は女神イシュタルが涙目になる。
その様子を見たギルガメッシュは笑いを堪えている。
「今回は見逃してあげるから早く帰りなよ、ギルに振られた負け犬さん。」
エルキドゥがそう言うと、ギルガメッシュは堪えきれずに笑いだした。
「土人形の分際で女神の私を侮辱して…、無事に済むとは思わない事ね!」
そう言うと女神イシュタルは、投げつけられて足下にあったグガランナの腿を蹴り飛ばすと、メソポタミアの天界へと帰っていった。
「フハハハハ!よくぞ言ったぞ、エルキドゥ!」
「笑い過ぎじゃない、ギル?でも、僕も凄いスッキリしたよ。」
そして顔を見合わせたギルガメッシュとエルキドゥは、2人で一緒に笑いだした。
だが2人の笑いを遮る様に、不意に声が響き渡る。
「思い上がりが過ぎるな。」
その声にギルガメッシュの笑い声が止まると、エルキドゥが倒れていく。
「…っ!?エルキドゥ!」
倒れていくエルキドゥを抱き止めると、日頃のギルガメッシュからは考えられない悲壮な表情を浮かべる。
「楔としての役割を果たせぬ土人形になど用は無い。土へと還れ。」
まるでその言葉がキッカケの様に、エルキドゥの身体に罅が入っていく。
「エルキドゥ、エルキドゥ!」
ギルガメッシュが必死に呼び掛けるが、エルキドゥは反応を返さない。
「神への不敬を反省せよ、ギルガメッシュ。」
その言葉を最後に、声は聞こえなくなった。
「おのれ…おのれエンリル!」
ギルガメッシュは涙を流しながら悔しがる。
だが、ギルガメッシュの涙を拭う者がいた。
その涙を拭った者は、ギルガメッシュの腕の中にいるエルキドゥだ。
「ふふ、ギルも涙を流すんだね。」
「エルキドゥ、逝くな!友たるお前が先に逝くなど許さぬぞ!」
ギルガメッシュの言葉を聞いたエルキドゥは、またギルガメッシュの涙を拭う。
だが、ギルガメッシュの涙を拭っていたエルキドゥの手が崩れ落ちる。
「あぁ、これが死というものなんだね…。思ったよりも怖くは無いや。それでも、僕の為に泣いてくれる人がいると、残して逝くのは不安になっちゃうね。」
「エルキドゥ…。」
ギルガメッシュの涙がポタリ、ポタリとエルキドゥに幾粒も落ちていく。
「人の涙は暖かいね、ギル。」
そう言うとエルキドゥはギルガメッシュに微笑む。
そして、エルキドゥは俺に顔を向けた。
「頼んだよ、二郎。」
「うん、任された。」
俺の返事にエルキドゥは満足そうに微笑むと目を閉じた。
そしてエルキドゥはギルガメッシュの腕の中で土へと還った。
「エルキドゥ…。」
ギルガメッシュは手の中に残ったエルキドゥだった土をギュッと握り締める。
そして…。
「エルキドゥ―――!!」
ウルクの空にギルガメッシュの慟哭が響き渡ったのだった。
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