side:遠坂 凛
「うぅ…まだ足が痺れてるわ…。」
チラリと目を向けると、私を叱り終えたお父様はゼンとアルトリア、そしていつの間にかいた金髪の男の人の三人と紅茶を楽しんでいる。
あっ、よく見ると桜も一緒に楽しんでいるわ。
ずるいわよ。
「時臣、その子達も宴に誘おうと思うけど、どうだい?」
「嬉しいお誘いではありますが、よろしいのでしょうか?」
「その子達は好む好まざるに関係なく、魔術に関わらなければならない。なら宴に参加するのは良い経験になるだろう?」
「…御心遣い、ありがたくお受け致します。」
宴って何かしら?
よくわからないけど、別宅に籠っていなくていいのなら嬉しいわね。
「あぁ、そうだ。ギルガメッシュ、後でエルキドゥも喚ぼうか?」
「当然であろう。我が妻を喚ばずして何が宴か。」
あの金髪の男の人はギルガメッシュって言うのね。
随分と偉そうな態度だけど、何者なのかしら?
「ところで二郎、あの愚か者が喚んだサーヴァントはどうするのですか?まだ現世に在るのですよね?」
「今は余計な事が出来ない様に哮天犬が抑えていてくれているよ。座に還すかどうかはその者の話を聞いてみてからにしよう。」
アルトリアとゼンは何の話をしているのかしら?
多分、あの目がギョロっとした奴の事だと思うのだけど…。
そう考えていると、ゼンが私の所に来た。
「そろそろ足の痺れは取れたかい?なら、あっちで一緒に楽しもうか。」
紳士として差し出されたその手に、私は淑女として応えるのだった。
◆
side:アルトリア・ペンドラゴン
自然に、然れど意図的に二郎の隣に座った時臣の娘…凛を観る。
今はまだ自覚していない様ですが、気付けばあっという間でしょう。
直感ですが、そう遠くない将来に凛はライバルになるという確信があります。
「二郎よ、時臣の娘達をどう評する?」
ギルガメッシュ王の問いに、二郎は凛に目を向けます。
「そういえば、まだ君自身から名乗ってもらってなかったね。」
「あら、レディーから名乗らせるのは失礼じゃない?」
「こ、これ、凛!」
慌てる時臣を、二郎は手で制します。
あぁ…ギルガメッシュ王がそんな状況を見て笑っていますね。
「フハハハハ!中々の気概を持った娘ではないか!」
「そうだね。俺はゼン、字(あざな)だよ。」
「字?」
「道教は知っているかい?」
二郎の問い掛けに凛は頷きます。
「知ってるわ。前にお父様から教わったもの。たしか中華で信仰されている教えよね?」
「うん、そうだね。俺はその道教の者なんだけど、道教では名を預けるのは命を預けるのに等しいという考えがあるんだ。」
仙術には魂を扱う術が幾つもあります。
そして魂を確たる個としているのが名です。
故に名を預けるのは命を預けるにも等しいと、道教では考えられています。
現代の中華でもこの考えは浸透しており、他者に名を預けるのは友情や愛情を示す術として使われていますね。
「だから名を預けるのは認めた者だけなんだよ。」
「ふ~ん…まぁ、いいわ。私は遠坂 凛。よろしくね、ゼン。」
物怖じしない凛に、時臣は冷や汗が止まらない様ですね。
そんな時臣を見てギルガメッシュ王がお腹を抱えて笑っています。
「先ずはお礼を言わせてもらうわ。ゼン、私と桜、そしてコトネを助けてくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
そう言いながら二郎が微笑むと、凛が顔を紅くしています。
凛、その気持ちはよくわかりますよ。
その笑顔はずるいですよね。
「そ、それと宣言するわ!」
「なんだい?」
「ゼンに私を認めさせて、私に名を預けさせてみせるわ!」
凛の宣言を聞いた桜は目を輝かせて姉を見詰め、時臣は胃の辺りを撫で出しました。
後で華陀謹製の胃薬を渡しましょう。
「そうかい。じゃあ、凛にはゼルレッチが残したものを成して貰おうかな。」
「ゼルレッチって、宝石翁の事?お父様から聞いた覚えがあるけど…。」
「彼とは知己なんだけど、数百年前に彼が日ノ本を訪れた時に、当時の遠坂の当主に宿を借りたお礼として『第二魔法』に至る術を残したらしいんだ。もし凛が『第二魔法』に至れたのなら、俺は君を認めて名を預けるよ。」
二郎の言葉を聞いて凛は笑みを浮かべます。
「上等じゃない!『第二魔法』ぐらい至ってみせるわ!だから、私に名を預ける覚悟をしておきなさいよね、ゼン!」
大丈夫なのでしょうか?
宝石魔術はその名の通りに宝石を使うので、ものすごくお金が掛かります。
私は時臣に問い掛けます。
「時臣、遠坂家の財力は大丈夫なのですか?」
「正直に申し上げれば、ギルガメッシュ王を御喚びする為の触媒を用意するのに相応に散財しましたので、現在の当家にはあまり余裕がありません。」
時臣は苦笑いをしています。
あの様子では本当に余裕が無いのでしょう。
そんな時臣に二郎が微笑み掛けます。
「今回の宴が終わったら、現世でギルガメッシュと飲む機会をくれたお礼として適当に財をあげるよ。」
「…重ね重ねありがとうございます。私の宿願を叶える術をいただけただけでなく、娘達を救っていただき、更には当家にも御気配りいただけるとは…最早、どの様に恩を返せばよいのかわかりませぬ。」
「気にしないでいいよ。俺がそうしたかっただけだからね。」
私もかつては二郎に救われた身。
時臣の気持ちはよくわかります。
胸が暖かくなった私は寄り添う様に二郎に近付きます。
すると、凛が不満を露にして睨む様に私を見てきました。
ふふふ、受けて立ちますよ。
私は二郎の『正妻』ですからね!
二郎が凛と桜を評している間、私は凛と目線で激闘を繰り広げたのでした。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。