side:遠坂 凛
ゼンと妙に距離が近いアルトリアと睨み合って1時間、衝撃の事実を知った私は床に崩れ落ちた。
「凛、何をしている?」
綺礼の声に顔を上げる。
「…あんた、警察の人と話をしてくるんじゃなかったの?」
「こういった時に信仰とは便利なものでな。相手がこちらに寄せる信用から、少しばかり思考誘導をするだけで事足りる。」
「あんたみたいなのを似非神父っていうんでしょうね。」
「否定はしない。私は神の教えを学び、その御下に身を置いているが、私が信仰を捧げるのは別の神だからな。」
私は綺礼にジト目を向ける。
「別にあんたが破門されようが知った事じゃないけど、遠坂家には迷惑を掛けないでよね。」
「その歳で家の事を思えるのにかかわらず、何故に無謀な行動をしたのだろうな?」
「うっ…。」
やっぱりこいつには口喧嘩じゃ勝てないわね。
「さて話は変わるが、何故にそこで落ち込んでいた?」
「…落ち込んでないわよ。」
「そうか…てっきり私は、勝負の舞台に上がる前に敗れたと勘違いして落ち込んでいると思ったのだがな。」
なんでこいつはこう察しがいいのかしら?
…ん?勘違い?
「綺礼、勘違いってどういう事かしら?」
「はて?私は凛が落ち込んでいる理由を知らぬのだが?」
「惚けないで。あんたがそう言って相手の考えを読み間違えたのは見たことがないわ。」
肩を竦めてから綺礼が話し出す。
「中華の婚姻制度を調べてみるがいい。そうすれば、お前は彼女との勝負の舞台に立てる。」
そう言って綺礼はお父様達の所に行った。
「…中華の婚姻制度?」
私が落ち込んでいた理由は、アルトリアがゼンの奥さんだって知ったから。
そしてその理由で落ち込んで気付いた。
私はゼンの事を好きになっていると。
助けられたから好きになるなんて、我ながらチョロいのかもしれない。
でも好きになってしまったんだもの。
仕方ないわ。
あいつに言われた通りに中華の婚姻制度を調べてみる。
「…なるほど、たしかにこれならまだ勝負の舞台に立てるわ。」
私は数百年続く遠坂家の跡取り。
事と次第では自由に結婚相手を決められないかもしれない。
でもゼン以上の男がそうそういるとは思えないわ。
…うん、ここら辺がお父様を説得する材料になりそうね。
後はお母様と桜も巻き込んでお父様を説得しましょう。
さぁ、勝負所よ。
うっかり失敗だなんて絶対に許されないわ。
でも私にはお父様を説得出来る確信がある。
だって私は遠坂 凛なのだから。
◆
side:遠坂 桜
綺礼さんと何か話をしていた姉さんが部屋を出ていった。
そして綺礼さんはゼンさんに何かを伝えてからお茶の席についた。
そんな綺礼さんをアルトリアさんが見ている。
「余計なお世話だったかな?」
「いえ、いずれは気付いた事ですから。」
たぶん、姉さんがゼンさんを好きな事の話だと思う。
私でもわかるぐらいだったのに、姉さんは自分の気持ちに気付いてなかった。
頭が良くて、運動も出来て、魔術だって出来る。
そんな凄い姉さんにも普通なところがあるってわかると、なんか嬉しかった。
「ほう?凛の才能はゼン様が認めるところだと思うが?」
綺礼さんの言う通りに、姉さんはゼンさんに誉められていた。
難しい言葉ばかりでよくわからなかったけど、アルトリアさんが『一言で伝えるなら、二郎は凛を天才だと言っているのです。』って教えてくれた。
流石は姉さんだなぁって思った。
私の事は『桜も才能はあるのですが性格が争いに向いていないそうです。なので回復魔術等を中心に学んだらどうかと言っていますね。』って教えてくれた。
たしかに私は誰かと競争するのは苦手だけど、ゼンさんはなんでわかったのかな?
「如何に凛に才能があっても、妲己や竜吉公主に比べればまだまだですよ。」
「十にも満たぬ子供と比べる相手ではなかろう。」
「甘いですね、綺礼。女の戦いに年齢は関係ありませんよ。」
そんな二人の話を聞いていたら姉さんが戻ってきた。
「桜、ちょっとこっちに来て。」
姉さんに引っ張られて部屋の隅に行く。
「どうしたの?姉さん?」
「お願い桜、お父様を説得するのを手伝って。」
「お父さんを?」
「そうよ。お父様に私の婚約者はゼンだって認めさせるの。」
え?
婚約者って…まだ恋人にもなってないのに…。
「姉さん、思いきりが良すぎるよ。」
「甘いわよ、桜。グズグズしてたらゼンを取られちゃうじゃない。」
「取られちゃうって…アルトリアさんはゼンさんの奥さんだから当然だと思うけど。」
そこから姉さんは勢い良く話し出した。
中華では一夫多妻…つまり一人の男の人が何人も奥さんを持てるんだって。
「だからまだ勝負はついてないわ。」
「勝負って…何の勝負なの?」
「決まってるじゃない。ゼンの一番になる勝負よ。」
胸を張ってそう言いきる姉さんは輝いて見えた。
どこか抜けてて可愛いところもあるけど、やっぱり姉さんはカッコいい。
「わかった。姉さんを応援する!」
「ありがとう、桜。よしっ!次はお母様ね。」
そう言って姉さんは部屋を出ていった。
たぶん紅茶を淹れているお母さんの所に行ったんだと思う。
お父さんは昔からお母さんをあまり魔術に関わらせない様にしていたみたいなんだけど、これからはそれなりに関わらせる様にするって言ってた。
理由は聖杯戦争が終わってから教えてくれるみたい。
だから今は家に皆でいるんだけど…。
「姉さん、お客さんがいるのにそんなに走り回ってたら、後でお父さんに怒られるよ?」
その後、ゼンさん達が帰った後に姉さんがお父さんを説得しようとしたんだけど、その前に姉さんはお父さんに怒られてしまったのだった。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。