アインツベルンが主催する聖杯戦争参加者を招いての宴が行われる当日、言峰 璃正は早朝から教会の聖堂にて祈りを捧げていた。
(主よ、愚かな私の罪を御許しください。)
彼が懺悔の祈りを捧げている理由は、息子の苦しみを理解しなかった己を罪と感じているからだ。
そんな彼の祈りが届いたのか奇跡が起こる。
なんと聖堂に朝陽とは異なる暖かな光を纏った二人の男が降臨してきたのだ。
ゆっくりと降臨してくる二人に気付き、その姿を目にした璃正の目から涙が溢れていく。
真なる信仰者である彼には、降臨してくる二人の内の一人が誰なのか直ぐにわかったからだ。
「おぉ…神よ!」
涙を拭うのを忘れ、璃正は祈りを捧げるのだった。
◆
side:言峰 綺礼
聖堂に足を向けると、そこには奇妙な光景が広がっていた。
「主よ、私の罪を御許しください。」
「悔い、改めなさい。」
父が涙を流しながら、茨の冠を被った長髪の男に懺悔をしている。
そんな二人を見ていると、螺髪の男が近付いてきた。
「彼の息子さんですね?朝早くから聖堂にお邪魔して、すみません。」
螺髪の男は柔らかく暖かであれど、力強さを感じる言葉で話し掛けてくる。
「いえ、お構いなく、これも主の導きでしょう。」
飾らずにありのままに在る。
…なるほど、この男は『覚者』か。
私はそれとなく茨の冠を被った長髪の男を『観る』。
何故に父が涙を流しているのか理解した。
あの者が『神の子』だからだ。
ふと目を向けると聖堂の神の子の像からとてつもない神秘を感じる。
「ふむ、御二人が降臨された事で聖遺物になったか。」
「えっ?あっ!?す、すみません!現世に降りる時につい光ってしまいまして…。」
光るという言葉を聞いて神の子に目を向けると、なるほどと納得した。
よく見ると神の子から後光が出ているのだ。
「イ、イエス!?光ってる!光ってるよ!」
「あっ、すみません。彼の真摯な祈りについ…。」
聖書を始めとした様々な逸話で伝え聞く御二人の姿と比べ、実際に見て感じた御二人の雰囲気は極自然で、所謂『普通の人間』のようだ。
そう考えていると、不意に背後から声がした。
「やあ、よく来たね二人共。」
声の主は二郎真君様だ。
李老師も姿を現し包拳礼をしている。
「あっ、ゼン様、おはようございます。」
「あぁ、おはよう。うん?神の子の像から以前には感じなかった強い神秘を感じるね。」
「すみません、現世に降りる時につい光ってしまいまして…。」
「まぁ、いつもの事だし仕方ないか。」
二郎真君様が肩を竦めながら私に目を向けてくる。
「綺礼、君達の上がうるさくなるようなら、あの像の神秘を断ち切るよ。今ならまだ神秘が定着していないから簡単だからね。」
見る者によっては私や父を殺してでも奪い盗りかねない程の神秘を纏った神の子の像。
私はもとより、父にも無用の長物だ。
「…お願いします。」
「わかったよ…うん、これでよし。」
二郎真君様が三尖刀を一振りすると、我が教会の神の子の像から神秘が消えた。
「うむ、流石は二郎真君様だ。見事。」
達人である李老師も感心している。
私も来る日に向けて李老師に指導を受けているが、非才のこの身では二郎真君様の武の一端すら理解出来ぬ。
「さて、そろそろ行こうか。アイリスフィール達も準備を終えているだろうからね。」
私達は覚者と神の子を伴い、冬木の郊外の森の奥にあるアインツベルンの城に向かうのだった。
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冬木、聖地化不可避?