二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第265話

ベイリンが消えた事で喪失感を感じた間桐 雁夜は、蟲に喰われる痛みも忘れて叫ぶ。

 

また奪われたと。

 

「あぁぁぁぁあああああ!!時臣ぃぃぃいいい!!時臣時臣時臣ぃぃぃいいい!!」

 

間桐 雁夜の叫びを愉悦して眺める翁がいる。

 

彼の身内である筈の間桐 臓硯だ。

 

愉悦して顔を歪める臓硯の顔が不意にひび割れる。

 

「フム、そろそろこの身体も換え時か。」

 

何てことはないとばかりに呟くと、臓硯は再び雁夜へと目を向ける。

 

「今宵はじっくりとこの光景を眺め、明日にでも換えに行くとするか。」

 

そう言って顔を歪める臓硯の前で、喉が潰れても雁夜は叫び続けるのだった。

 

 

 

 

ベイリンを倒した後、冬木のアインツベルンの城では宴が再開された。

 

その際に二郎が捕らえていたキャスターのサーヴァントを、哮天犬に連れてこさせたのだが…。

 

「おぉ…!ジャンヌ!ジャンヌ!やっとお会い出来ました!私です!ジル・ド・レェです!」

 

と、アルトリアの前で歓喜の涙を流し始めたのだ。

 

「イエス、ジャンヌさんって君のところの?」

「うん、そうみたいだね。」

 

シッダールタの問いにイエスが頷く。

 

「確か聖女と呼ばれていた者だったかな?」

「そうですね、ゼンさん。」

「ねぇ、イエス、もしかしてあの時、火炙りにされた彼女を君が召し上げたのが原因じゃないかな?」

「…あっ。」

 

シッダールタの指摘にイエスが冷や汗を流す。

 

「ちょっと、いったい何をしたのよ?」

 

遠坂 凛の問い掛けにイエスは苦笑いをしながら答える。

 

「えっと…魔女と弾劾されて火炙りにされても、彼女は真摯に父さんに祈りを捧げていたから、その…つい召し上げちゃって…。」

「それの何が問題なの?」

 

古から信仰は政と密接に結びついていた。

 

これは世界中の歴史を見渡しても例外は少ない。

 

しかし日本では第六天魔王と呼ばれた英雄が旧き理を破壊した事で、現在では政教分離が成り立っている。

 

だが、まだ幼い故にそういった事を十分に学んでいない凛は、神の子であるイエスがジャンヌを直接召し上げたという事の重大さを理解していなかった。

 

ジャンヌは旗持ちとして当時のフランスを幾度も勝利に導いたが、その戦い方は騎士の誇りを軽視し、そのあまりにも鮮やか過ぎる戦功は騎士の誇りを傷付けるのに十分過ぎるものだった。

 

如何に戦争に勝利したといえど、このまま騎士達の不満を解消せねば後の政情が不安定になる。

 

そこで時のフランス皇帝は騎士達の不満を解消する為に、戦勝の最大功労者であるジャンヌを魔女と弾劾したのだ。

 

非情であるが、人の上に立つ者は時にそういった決断をせねばならない事もある。

 

だが魔女と弾劾し火炙りにされた筈のジャンヌは、人々が見ている中で神の子に召し上げられてしまった。

 

子供でもわかる大問題の発生である。

 

魔女と弾劾し火炙りされたジャンヌは、神の子に召し上げられる程の聖女だったのだ。

 

彼女を弾劾した者達が人々に悪魔と呼ばれ、その命を狙われても仕方ないだろう。

 

まぁ次々と騎士達が粛清される中で、当時のフランス皇帝はその荒すぎる波を乗り切り、生き延びて歴史に名を残したのだから、彼もまた間違いなく傑物である。

 

ではジル・ド・レェとは何者なのか?

 

彼はジャンヌと共にフランスを戦争の勝利に導いた軍人である。

 

そんな彼はジャンヌに信仰にも似た敬愛を持っていた。

 

故に彼はジャンヌが魔女と弾劾された事に猛反発したのだが、力及ばずに火炙りは実行されてしまった。

 

しかし彼女が神の子に召し上げられると彼は人々の支持を得て、声高に彼女を魔女と弾劾していた騎士達の粛清に動いた。

 

その容赦のなさは人々に『悪魔に魂を売り渡した』とまで噂される程だった。

 

事実、彼はジャンヌを失ってから黒魔術を始めている。

 

その目的は彼女の復活だった。

 

だが黒魔術に使う贄を必要として騎士達を粛清していた筈が、いつしか人を殺す事に心が囚われ、そこに美を見出だしてしまったのだ。

 

そういった話を時臣から聞かされると、子供達は感心の声を上げる。

 

「ジャンヌ・ダルクを生かす道は無かったのかしら?」

「ジャンヌさんもジル・ド・レェさんも可哀想。」

「目的の為に極端な手段を選ぶところが切嗣に似てるかも?」

 

凛と桜に続いてイリヤがそう言うと、切嗣は地に身を投げ出した。

 

「アイリ…僕は心が折れそうだよ…。」

「もう、しっかりしないとイリヤにパパって呼んでもらえないわよ?」

 

そんなやり取りを横目に、二郎はイエスに声を掛ける。

 

「それでどうするんだい?このままだとアルトリアはともかく、ランスロットが彼を斬りそうだよ?」

 

アルトリアをしつこくジャンヌと呼ぶジル・ド・レェに、ランスロットの我慢は限界を迎えようとしていた。

 

「その御方はアーサー王であり、卿が求める聖女ではない。卿の聖女に対する敬意は称賛に値するが、王の名を違える不敬を続けるのならば…。」

 

そう言いながらランスロットは愛剣のアロンダイトを抜き放つ。

 

「…えっと、イエス?」

「ラ、ランスロットさん!ちょっと待ってください!直ぐに!直ぐにジャンヌさんを喚びますから!」

 

慌てたイエスから辺りを覆い尽くす後光が放たれると、天から一筋の光と共に一人の女性が降りてきたのだった。




本日は5話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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