二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第266話

神の子の奇跡によりジャンヌとの再会を果たしたジル・ド・レェは、かつての誇りを取り戻して穏やかな笑みを浮かべながら『座』へと還った。

 

それを機に宴も終わりを迎えようとしていた。

 

「ギルガメッシュ、蟲の翁はいつ動くかな?」

「明日の夜であろう。」

「そうかい。」

 

二郎が言峰 綺礼に目を向けると彼は頷く。

 

「二郎よ、あの男はどうする?」

「一見したけど、あそこまで憎しみに囚われていたら、俺にはどうしようもないね。」

 

そう言いながら二郎はシッダールタへと目を向ける。

 

するとシッダールタは柔らかな笑みを浮かべた。

 

「では、私が彼と話をしましょう。」

「護衛代わりに哮天犬を連れていくといいよ。君が無防備に動くと色々と騒ぎになるだろうからね。」

「…お手数をお掛けします。」

 

そう言いながらシッダールタは見事な五体投地をした。

 

実は流行り病で人心が荒れた時代にシッダールタは人々の救済の為に現世に降臨したのだが、その時に護衛を付けずに一人で降臨してしまった。

 

そこでシッダールタを守ろうと孫悟空や不動明王が動いたのだが、誰がシッダールタの側で護衛するかで戦争になりかけた事があるのだ。

 

「さて、夜も更けたし子供達はそろそろ寝る時間だよ。明日の夜には大聖杯の解体に取り掛かるから、興味があれば見に来るといい。」

 

 

 

 

翌日の夜、冬木の街の影に一人の翁が潜んでいる。

 

間桐 臓硯だ。

 

間桐 臓硯の顔は獲物を狩る愉悦に歪んでいる。

 

だが、不意にその愉悦の顔は成りを潜める。

 

彼が認識阻害の結界を知覚したからだ。

 

「ふむ、どういう事か説明願えるかな?」

 

臓硯が暗闇の路地に問い掛けると一人の青年が姿を現す。

 

言峰 綺礼だ。

 

「遠坂とアインツベルンは聖杯戦争の中止に合意した。」

「なるほど…だが、それだけではあるまい?」

「間桐 臓硯、二家はお前の排除を決定した。」

「カカカ、それをお前が成すと?笑わせるな。」

 

顎に手を当てた間桐 臓硯は綺礼の身体を隅々まで観察する。

 

「ふむ、悪くない。では、次の身体は貴様のそれにするとしようか。」

 

臓硯の顔が愉悦に歪むと、綺礼は黒鍵という名の武器を両手に構える。

 

そして、いざ戦いが始まろうとしたその時…。

 

「あぁ、一つ伝え忘れていた。」

 

不意に綺礼が言葉を放った事で臓硯は動きを止める。

 

「なんだ?遺言ならば聞いてやるぞ?」

「聖杯戦争の中止に伴い、大聖杯の解体も決定した。」

 

この綺礼の言葉に臓硯の感情が揺れる。

 

その臓硯の感情の揺れに、綺礼は口角を吊り上げる。

 

「解体の日時は今夜だ。」

 

身体を震わせる臓硯を見て綺礼は更に言の葉を紡ぐ。

 

「あぁ…そういえばある御方が言っていたな。『大聖杯になった者の魂も適当に処分する』と…。」

 

この言葉に臓硯の感情が爆発した。

 

その様子を綺礼は愉悦の表情で眺めるのだった。

 

 

 

 

綺礼が間桐 臓硯と戦い始めた頃、先日の宴に参加した者達は大聖杯の前に辿り着いていた。

 

「あの様な物が冬木の地に在り続けていたとは…私は冬木の管理者失格だな。」

 

大聖杯の有り様を見た時臣が嘆きの声を上げる。

 

やがて大聖杯から呪いの泥が溢れ、この場にいる者達に向かって流れ始める。

 

だがそれは二郎が張った水鏡の守護結界により防がれる。

 

「さて、頼んだよ、神の子。」

「はい、行ってきますね。」

 

極自然な笑顔で返事をしたイエスの表情は、次の瞬間には一変していた。

 

慈愛に溢れる暖かな雰囲気を纏ったイエスが、欠片の躊躇もなく泥の中を歩んでいく。

 

やがてイエスは泥の中心に辿り着くと、人の形をしているナニカを優しく抱き締める。

 

「君が背負わされた罪は私が背負おう…君は許された。」

 

イエスの背から後光が広がり、黒き呪いの泥が浄化されていく。

 

その光景を見た一同は感嘆の息を吐いた。

 

「あれが本物の救世主の姿なんだね…。」

「切嗣、間違ってもあれを目指しちゃダメよ。人の身であれを成そうとしたら、間違いなく心が壊れるわ。」

 

人の悪しき心を当然の様に受け止め、そして背負うイエスの姿に、アイリスフィールは敬意と同時に畏れも抱いた。

 

「わかっているよ、アイリ。僕は家族を守れればそれでいい。それ以上は望まない。」

 

黒き泥が浄化されると、白き人の形が残った。

 

すると…。

 

「汝に祝福あれ!」

 

イエスの祝福に応じて天から光が降り注ぐ。

 

そして天使達に伴われ、白き人の形をした者は天へと召されていった。

 

その光景に皆が感動している中で二郎が声を上げる。

 

「神の子、彼の信仰を確認せずに、君の所に召し上げてしまってよかったのかい?」

「…あっ。」

 

うっかり召し上げてしまったイエスは、慌てて天界へと向かったのだった。

 

 

 

 

「…がっ!…あぁっ!」

 

最早憎悪の声も上げられなくなり、刻印蟲に喰われる痛みで、間桐 雁夜は絶望の只中にいた。

 

そんな雁夜の耳に、不意に声が聞こえる。

 

「蟲達よ、その人と話がしたい。しばしの間、静かにしていておくれ。」

 

不思議な事にその声と同時に刻印蟲が活動を止めた。

 

それにより痛みから解放された雁夜は、残された力を振り絞って声の主に目を向ける。

 

「憎しみに囚われし人よ、少し私と話をしよう。」

 

不思議と雁夜はその者と話をしようと思った。

 

雁夜は己の心の内を枯れ果てた声で語っていく。

 

そして男と語り合っていく内に、憎悪に染まった雁夜の心は解きほぐされていったのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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