二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第266話

神の子の奇跡によりジャンヌとの再会を果たしたジル・ド・レェは、かつての誇りを取り戻して穏やかな笑みを浮かべながら『座』へと還った。

 

それを機に宴も終わりを迎えようとしていた。

 

「ギルガメッシュ、蟲の翁はいつ動くかな?」

「明日の夜であろう。」

「そうかい。」

 

二郎が言峰 綺礼に目を向けると彼は頷く。

 

「二郎よ、あの男はどうする?」

「一見したけど、あそこまで憎しみに囚われていたら、俺にはどうしようもないね。」

 

そう言いながら二郎はシッダールタへと目を向ける。

 

するとシッダールタは柔らかな笑みを浮かべた。

 

「では、私が彼と話をしましょう。」

「護衛代わりに哮天犬を連れていくといいよ。君が無防備に動くと色々と騒ぎになるだろうからね。」

「…お手数をお掛けします。」

 

そう言いながらシッダールタは見事な五体投地をした。

 

実は流行り病で人心が荒れた時代にシッダールタは人々の救済の為に現世に降臨したのだが、その時に護衛を付けずに一人で降臨してしまった。

 

そこでシッダールタを守ろうと孫悟空や不動明王が動いたのだが、誰がシッダールタの側で護衛するかで戦争になりかけた事があるのだ。

 

「さて、夜も更けたし子供達はそろそろ寝る時間だよ。明日の夜には大聖杯の解体に取り掛かるから、興味があれば見に来るといい。」

 

 

◆

 

 

翌日の夜、冬木の街の影に一人の翁が潜んでいる。

 

間桐 臓硯だ。

 

間桐 臓硯の顔は獲物を狩る愉悦に歪んでいる。

 

だが、不意にその愉悦の顔は成りを潜める。

 

彼が認識阻害の結界を知覚したからだ。

 

「ふむ、どういう事か説明願えるかな?」

 

臓硯が暗闇の路地に問い掛けると一人の青年が姿を現す。

 

言峰 綺礼だ。

 

「遠坂とアインツベルンは聖杯戦争の中止に合意した。」

「なるほど…だが、それだけではあるまい?」

「間桐 臓硯、二家はお前の排除を決定した。」

「カカカ、それをお前が成すと?笑わせるな。」

 

顎に手を当てた間桐 臓硯は綺礼の身体を隅々まで観察する。

 

「ふむ、悪くない。では、次の身体は貴様のそれにするとしようか。」

 

臓硯の顔が愉悦に歪むと、綺礼は黒鍵という名の武器を両手に構える。

 

そして、いざ戦いが始まろうとしたその時…。

 

「あぁ、一つ伝え忘れていた。」

 

不意に綺礼が言葉を放った事で臓硯は動きを止める。

 

「なんだ?遺言ならば聞いてやるぞ?」

「聖杯戦争の中止に伴い、大聖杯の解体も決定した。」

 

この綺礼の言葉に臓硯の感情が揺れる。

 

その臓硯の感情の揺れに、綺礼は口角を吊り上げる。

 

「解体の日時は今夜だ。」

 

身体を震わせる臓硯を見て綺礼は更に言の葉を紡ぐ。

 

「あぁ…そういえばある御方が言っていたな。『大聖杯になった者の魂も適当に処分する』と…。」

 

この言葉に臓硯の感情が爆発した。

 

その様子を綺礼は愉悦の表情で眺めるのだった。

 

 

◆

 

 

綺礼が間桐 臓硯と戦い始めた頃、先日の宴に参加した者達は大聖杯の前に辿り着いていた。

 

「あの様な物が冬木の地に在り続けていたとは…私は冬木の管理者失格だな。」

 

大聖杯の有り様を見た時臣が嘆きの声を上げる。

 

やがて大聖杯から呪いの泥が溢れ、この場にいる者達に向かって流れ始める。

 

だがそれは二郎が張った水鏡の守護結界により防がれる。

 

「さて、頼んだよ、神の子。」

「はい、行ってきますね。」

 

極自然な笑顔で返事をしたイエスの表情は、次の瞬間には一変していた。

 

慈愛に溢れる暖かな雰囲気を纏ったイエスが、欠片の躊躇もなく泥の中を歩んでいく。

 

やがてイエスは泥の中心に辿り着くと、人の形をしているナニカを優しく抱き締める。

 

「君が背負わされた罪は私が背負おう…君は許された。」

 

イエスの背から後光が広がり、黒き呪いの泥が浄化されていく。

 

その光景を見た一同は感嘆の息を吐いた。

 

「あれが本物の救世主の姿なんだね…。」

「切嗣、間違ってもあれを目指しちゃダメよ。人の身であれを成そうとしたら、間違いなく心が壊れるわ。」

 

人の悪しき心を当然の様に受け止め、そして背負うイエスの姿に、アイリスフィールは敬意と同時に畏れも抱いた。

 

「わかっているよ、アイリ。僕は家族を守れればそれでいい。それ以上は望まない。」

 

黒き泥が浄化されると、白き人の形が残った。

 

すると…。

 

「汝に祝福あれ!」

 

イエスの祝福に応じて天から光が降り注ぐ。

 

そして天使達に伴われ、白き人の形をした者は天へと召されていった。

 

その光景に皆が感動している中で二郎が声を上げる。

 

「神の子、彼の信仰を確認せずに、君の所に召し上げてしまってよかったのかい?」

「…あっ。」

 

うっかり召し上げてしまったイエスは、慌てて天界へと向かったのだった。

 

 

◆

 

 

「…がっ!…あぁっ!」

 

最早憎悪の声も上げられなくなり、刻印蟲に喰われる痛みで、間桐 雁夜は絶望の只中にいた。

 

そんな雁夜の耳に、不意に声が聞こえる。

 

「蟲達よ、その人と話がしたい。しばしの間、静かにしていておくれ。」

 

不思議な事にその声と同時に刻印蟲が活動を止めた。

 

それにより痛みから解放された雁夜は、残された力を振り絞って声の主に目を向ける。

 

「憎しみに囚われし人よ、少し私と話をしよう。」

 

不思議と雁夜はその者と話をしようと思った。

 

雁夜は己の心の内を枯れ果てた声で語っていく。

 

そして男と語り合っていく内に、憎悪に染まった雁夜の心は解きほぐされていったのだった。




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