二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

276 / 308
本日投稿3話目です。


第267話

side:言峰 綺礼

 

 

靴の下で奇声を上げながらもがく蟲の姿に、全身に負った傷の痛みを忘れさせる程の愉悦を感じる。

 

だがこの愉悦は途中であり、まだ完成されていない。

 

靴の下でもがき狂っている間桐 臓硯の本体を踏み潰して初めて完成するのだ。

 

死力を尽くして満身創痍となったこの身体には、黒鍵一つ持つ握力すら残されていない。

 

だが奴の本体を踏み締めている足に体重を乗せる程度は出来る。

 

奴も察したのだろう。

 

より一層暴れ出した。

 

そんな間桐 臓硯の本体である蟲を無慈悲に踏み潰した。

 

あぁ…私は今、間違いなく悦びを感じている。

 

自然と笑い声が出てきた。

 

そうか、私はこの様に笑うのだな。

 

「見事。」

 

不意に虚空から老人が姿を現す。

 

今回の聖杯戦争で契約したアサシンのサーヴァント…李書文だ。

 

「格上の相手を言の葉で翻弄し、そして勝ちきる。今一度言おう、見事じゃ。」

「…ありがとうございます。」

 

これまでの人生ではどんな称賛の言葉を受けても、ただの一度も心が動いた事はなかった。

 

だが今は老師の言葉で心が動いたのを感じている。

 

何故だ?

 

「ふむ…さしずめ、強い悦びを経験した事で感情が動く様になったのであろう。」

 

老師の言葉を受けて私は己の身体に目を向ける。

 

満身創痍ではあるが、全身が心地好さに包まれている。

 

そこで違和感を感じた。

 

…世界が違う?

 

周囲を見回す。

 

目に映る全てが鮮やかに色付いていた。

 

そうか…これが…。

 

「生きているという事か…。」

「さて綺礼よ、この後はどうする?お前も大聖杯の解体を見に行くか?」

「…いえ、今は無性に父上と飲みたいと感じています。」

 

聖杯になど興味は無い。

 

今はただ心の導くままに…。

 

 

 

 

イエスにより浄化された大聖杯には純粋で膨大な魔力が満ちている。

 

この量ならば『世界の内側』に奇跡の一つや二つは優に起こせるだろう。

 

そんな大聖杯の前に気軽に二郎が立つ。

 

「さて、彼女はどうしようかな?」

「二郎、彼女とは誰の事でしょうか?」

「目の前の大聖杯になった者の事だよ。」

 

アルトリアの問い掛けに二郎がそう答えると、場にいる皆が驚く。

 

「ねぇ、ゼン、その言い方だとこの大聖杯が元は人間だったって聞こえるんだけど?」

「あぁ、その通りだよ。」

 

遠坂 凛の問い掛けに二郎はあっさりとそう言う。

 

それを聞いたアイリスフィールが手を顎に当てて考え始める。

 

「アイリ、どうしたんだい?」

「切嗣、アインツベルンの当主の中には『第三の魔法』を完成させた者がいるんだけど…。」

「…もしかして、あの大聖杯がそうだと言うのかい?」

「その可能性はあると思うの。」

 

衛宮 切嗣とアイリスフィールの会話を聞いた一同にざわめきが広がる。

 

意を決したアイリスフィールは二郎に近付く。

 

「ゼン様、大聖杯になった者を人に戻す事は可能でしょうか?」

「可能だよ。」

「恩を返せていない身で厚かましいとは思いますが、お願い出来ませんでしょうか?」

「あぁ、いいよ。」

 

二郎が足踏みをすると非常に複雑な魔法陣が大聖杯を覆う。

 

そして大聖杯から光が立ち昇り人の形を成すと、そこから美しい女性が姿を現した。

 

「こんな簡単に『魂の物質化』をされるなんて…私の研鑽の日々は何だったのかしら?」

 

嘆く女性の姿を見たイリヤスフィールが驚きの声を上げる。

 

「ママにそっくり…。」

「あら?可愛い子ね。貴女のお名前は?」

「私?私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。」

 

イリヤスフィールの名を聞いた女性は驚きの表情を浮かべるが、直ぐに笑顔になる。

 

「そう、いい名前ね。」

「ありがとう。ところで、貴女の名前は?」

 

イリヤスフィールの問い掛けに女性は見惚れる様な笑みを浮かべる。

 

そして…。

 

「私ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルン。これでも昔は、アインツベルンの当主だったのよ。」

 

彼女がそう答えると、アイリスフィールは驚きのあまり叫んでしまったのだった。




次の投稿は13:00の予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。