大聖杯の解体に向かった一行は大聖杯となっていたユスティーツァ・フォン・アインツベルンと出会うと、状況を整理する為に一度遠坂邸に戻った。
そして一通り挨拶を終えると、ユスティーツァは自身が大聖杯となった後の事を聞いた。
「私が大聖杯になってからそんなに経っていたのねぇ。」
ユスティーツァは自身が大聖杯となってから200年近く経っていると知ると、感慨深いとばかりに声を上げた。
「ユスティーツァ様。」
「様は必要ないわよ、アイリスフィール。」
「はい…ではユスティーツァさん、年数が経っている事に驚いてましたが、大聖杯となってからは意識がなかったのですか?」
アイリスフィールの問いにユスティーツァは微笑みながら答える。
「意識はあったわ。でも、途中からはほとんどなかったわね。」
第三次聖杯戦争の折りに聖杯が汚染されるまで彼女の意識は鮮明だった。
しかしそれからは微睡みの中にあったそうだ。
「ユスティーツァ殿、貴女は何故に人の身を捨ててまで聖杯に?」
「当時の術式では、聖杯を完成させる為にそれが必要だったからよ、時臣さん。」
膨大な魔力を溜める器は出来たが、その溜めた魔力に指向性を与えて制御し、奇跡を行使する術はなかった。
そこでパーソナルコンピューターで言うところのOSの役目を担うべく、ユスティーツァは自身の魂を大聖杯へと組み込んだのだ。
「何故、そこまでして奇跡を起こそうと?」
切嗣の問いにユスティーツァは可愛いらしく首を傾げる。
「う~ん…忘れちゃったわ!」
彼女の答えに現代の魔術師達は転けてしまう。
「慣れていないと、悠久の時を生きる間に記憶は薄れてしまったりするからね。」
「そうですね。私も時代によっては思い出しにくい記憶があります。」
不老の存在として数千年を生きる二郎とアルトリアの言葉には説得力があった。
故に現代の魔術師達はユスティーツァの反応に納得する事にした。
「それに彼女は龍脈との繋がりを経て『世界』とも繋がっていた。それで『世界』の膨大な記録を観ていただろうからね。色々と記憶が混乱しても仕方ないさ。」
「二郎真君様…それはもしや?」
時臣の問いに二郎は頷く。
「時臣、彼女が触れていたのは君が求めるものの一端だよ。」
その言葉に時臣は唾を飲み込む。
「さて大聖杯なんだけど、どうするかな?」
「二郎、そういえば戻ってきましたが、大聖杯は解体するのではないのですか?」
アルトリアの言葉に二郎は頷きながら言葉を返す。
「もちろん解体するけど、大聖杯にかなり魔力が溜まっていたからね。龍脈に魔力を還元するにしても少し多すぎるんだ。」
大量の魔力を一度に龍脈に還元してしまうと、冬木の魔術基盤は強化されるが、一時的に魔力が濃くなり過ぎてしまう。
そうなると魔術師ではない一般市民に色々な影響を与えてしまうのだ。
それを伝えると冬木の管理者である時臣が渋い表情を浮かべる。
「魔術基盤の強化は嬉しいですが、それで冬木に住まう人々の健康に影響が出るのは好ましくありません。二郎真君様、影響が出ぬ様に還元は出来ませぬか?」
「もう少し魔力を消費してからならそれも出来るけど、君達は今更奇跡は望まないだろう?」
二郎の問い掛けに皆が頷く。
ウェイバーは少し勿体ないと思ってしまったが、この程度はご愛嬌といったところだろう。
「…うん、じゃあもう一度宴を開こうか。」
「ゼン、宴って聖杯戦争の事よね?」
「あぁ、そうだよ。」
凛の問い掛けに頷くと二郎は言葉を続ける。
「十年後でいいかな?その時に凛や桜、そしてイリヤスフィールをマスターにしてもう一度英霊達を呼び出して宴をするのさ。」
「面白そうじゃない!」
凛を始めとして子供達は喜ぶが、大人達は不安そうな顔をする。
「えっと、ゼン様、僕としては子供達に聖杯戦争のマスターをさせるのは…。」
「別に無理に争わせようとは思ってないよ。」
切嗣の不安気な声に二郎は微笑みながら応える。
「英霊達と語らってもいい。それこそ魔術師ならば、先達の魔法使いに知識を学んでもいい。」
「…聖杯の奇跡を使えなくても英霊は来るかしら?」
ユスティーナは小首を傾げながらそう言う。
「聖杯を求めない者を喚べばいい。術式も俺が変えておくよ。もし英霊が現世を楽しむ事ではなく、受肉や転生を望むのなら俺が成すよ。後は凛達がマスターをやりたいかどうかだけさ。」
話を聞いていた凛、桜、イリヤは目を輝かせている。
「お父様!」
「お父さん!」
「切嗣!」
子供達の大攻勢に、親達は苦笑いをするしかなかったのだった。
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