二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第269話

ユスティーツァとの邂逅翌日から各陣営は思い思いに日々を過ごしていった。

 

子供達は魔術師としての基礎を学びながらも、よく遊び友好を深めていく。

 

大人達はかつての時代の事をサーヴァント自身の口から語って貰う事で、各々の見識を深めていった。

 

そしてシッダールタの説法によって改心した雁夜が、五体投地で謝罪をした事で時臣と和解を果たしている。

 

そういった日々を送っていく中で言峰 璃正は孫娘のカレン・オルテンシアを冬木に連れてくると、彼女を連れて二郎へと面会を願い出た。

 

カレンは被虐霊媒体質なのだが、これは近くに悪魔憑きがいると彼女も悪魔の霊障を発症してしまうという特異体質だった。

 

故に璃正は孫娘の特異体質を改善する為、二郎との面会を願い出たのだ。

 

「ゼンさん、璃正さんは父さんの信徒ですし、よかったら私が…。」

「イエス、君がやるとギャラハッドさんの時みたいに聖人になっちゃうんじゃ?」

 

こんな救世主達のやり取りもあって、カレンの処置は二郎が行った。

 

無事に体質が改善された彼女は久し振りに父と顔を合わせたのだが、以前に比べて感情が豊かになった綺礼を見て驚いた。

 

「…変わった?」

「確かに変わったという自覚はあるが、それ程にわかりやすいか?」

「うん…でも、今の方が好き。」

 

カレンの言葉に感情が動いた事を感じた綺礼は、他者の不幸に愉悦を感じる己も『人並みの幸福の実感』を得られるのだと気付いた。

 

それからの言峰家には自然と笑顔が溢れる様になった。

 

そんな綺礼の変わりようにイエスが全力で祝福しようとして止められた一幕があった日から三日程が経ち、英霊達が現世に滞在出来る日も残り少なくなると、英霊達はその力を存分に振るう機会を求めたのだった。

 

 

 

 

第四次聖杯戦争に関わった者達は冬木のアインツベルンの城に集う。

 

この城は郊外にある為、人々に迷惑を掛けにくいからだ。

 

「さて、先ずはディルムッドとランスロットの二人でいこうか。」

 

二郎の言葉で二人が歩み出る。

 

そして二人は令呪を用いて万全の状態となると好戦的な笑みを浮かべた。

 

「ディルムッド殿、卿の伝承では槍と剣を手に戦ったとあるが…?」

「ふむ…騎士が戦場で武器を選ぶと?」

 

ディルムッドが本来得意とする戦い方は槍と剣の変則二刀流である。

 

故にランスロットはそれとなく指摘をしたのだが、騎士としての矜持を説かれると己の差し出がましさを恥じた。

 

「これは失礼致しました、ディルムッド卿。」

 

既に二郎により大聖杯には処置が施されており、敗れたサーヴァントの魔力が注がれる事はない。

 

更に結界も張られているので見物している者達への被害を考えなくてよい。

 

ならば後は存分に戦うだけだ。

 

「円卓の騎士、ランスロット!」

「フィアナ騎士団、ディルムッド・オディナ!」

「「参る!」」

 

名乗りを上げた二人が同時に踏み込み、戦いが始まった。

 

最高峰の騎士として語り継がれている二人の戦いは見る者を惹き付ける。

 

「ねぇゼン、どっちが優勢なの?」

「今のところはディルムッドだね。」

 

二郎が凛の問いに答えた通りに、ディルムッドが右の長槍と左の短槍を巧みに使いランスロットを圧している。

 

だがそれだけで勝ちを譲るほどランスロットは甘くない。

 

一合、二合と刃を交える度にランスロットはディルムッドの戦い方を学び、その剣は冴えを増していく。

 

「これほどの騎士と戦えるとは心が躍る!」

「その言葉!そっくり返そう!」

 

一筋、二筋と互いに傷が増えていくが、二人の顔には笑みがある。

 

まるで子供が遊びを楽しんでいるかの様に。

 

そんな二人の戦いも終わりが見える。

 

ランスロットがディルムッドの左腕を斬り飛ばしたのだ。

 

続く追撃を飛び退いて避けたディルムッドは、片腕を失いながらもケルトの戦士らしく更に戦意を高める。

 

「オォォォォオオオオッ!」

 

そんなディルムッドの戦意に呼応するかの様にランスロットが一際鋭い踏み込みを見せた。

 

それを見たディルムッドは右手の長槍を投擲した。

 

だがランスロットは敢えて投擲された長槍を無防備に受けた。

 

短槍を手元に召喚していたディルムッドだが、ランスロットの胆力に一瞬の動揺を見せてしまう。

 

それを見逃す程ランスロットは甘い相手ではなかった。

 

「ハァァァアアアッ!」

 

槍に腹を貫かれながらも、ランスロットは裂帛の気合と共に愛剣を袈裟斬りに振り抜いた。

 

「…見事!」

 

霊核を斬られたディルムッドは敗北を認め、手にしていた短槍を納める。

 

「片腕を失ってもあの戦意…流石はケルトの戦士でした。」

「貴殿も見事だった。貴殿ならばフィン・マックール騎士団長も、フィアナ騎士団への入団を歓迎するだろう。」

「…それは光栄。しかし、私が忠誠を捧げるのは我が王にのみです。」

 

ランスロットの返答に肩を竦めたディルムッドは二郎に目を向ける。

 

「ディルムッド、楽しかったかい?」

「はい、騎士として満足のいく戦いが出来ました。」

 

やがてディルムッドの身体から光の粒子が溢れ、その姿は徐々に薄くなっていく。

 

「あぁ、それでも…貴方に勝利を捧げられなかった事だけは残念です。」

 

そう言いながらディルムッドは苦笑いをし、『座』へと帰還したのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

もしディルムッドが槍と剣の本来のスタイルだったら結果は逆だったかも?

また来週お会いしましょう。

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