ランスロットとディルムッドの戦いが決着すると、次に李書文と二郎が進み出た。
「書文、俺でいいのかい?」
「先程は騎士として見事な戦いを見せられましたからな。ならば拳法家としての戦いを皆に見せたく思いまして…。」
そう言いながら李書文は包拳礼をする。
それに応えて二郎も包拳礼をすると、双方共に徒手で構えた。
先手は書文。
一歩踏み込んで肘での一撃を放つ。
しかし二郎は一歩踏み込むと書文の背後を取る。
そしてその場で地を踏むと、背中を使って体当たりした。
書文は二郎の一撃を、敢えて五体の力を抜いて受けた。
『消力(シャオリー)』という中華拳法の奥義の一つだ。
そして直ぐに体勢を整え、書文は八極拳の粋を尽くして攻め立てる。
掌、拳、腕、肩、背中と上体のあらゆる部位を使い変幻自在に攻撃が繰り出されるが、二郎はその全てを『化勁(かけい)』と呼ばれる技法を用いて片手でいなしていく。
中華拳法家同士の戦いは騎士の戦いと比べて豪快さに欠けるが、数千年に渡り継承と研鑽を繰り返されたその技術は、人類が至れる極致の一つを体現していた。
超一流の二人により繰り出される技の一つ一つが皆を魅了していく。
そんな二人の拳法家の戦いにも終わりが訪れる。
書文は牽制の突きから頂肘を放つ。
彼が実戦において最も得意とした一撃だ。
だがその一撃を二郎は、崩拳で真っ向から切って落とした。
武神の崩拳をまともにくらってしまった書文は地に膝をつき血を吐き出す。
「やはり届きませんでしたな。然れど満足。挑みこそが武人の本懐なれば…。」
震える手で書文は包拳礼をする。
「桃源郷にお越しになられた際には、また挑ませていただきますぞ。」
「あぁ、皆によろしくね。」
二郎の返答を受けて、書文は笑みを浮かべながら帰還したのだった。
◆
英雄達の戦いもいよいよ最後の組み合わせを迎える。
ギルガメッシュとイスカンダルだ。
「マスター、令呪を。」
「あぁ…。」
イスカンダルの言葉にウェイバーは令呪に願いを込める。
「ライダー…『勝て!』」
三画の令呪が輝き、イスカンダルに力が注ぎ込まれる。
対して…。
「王よ、令呪を…。」
「いらぬ。」
ギルガメッシュは時臣の申し出を必要ないと断じる。
「友と妻がそこに在る。これ以上、我に何が必要か?」
「…差し出がましい真似を致しました。」
人類史上最高と謳われる英雄の姿に、時臣は自然と頭を垂れていた。
相対した二人は共に不敵な笑みを浮かべる。
イスカンダルが剣を振り上げると戦車が現れ、『世界』が塗り替えられていく。
そして『世界』が塗り替えられ終わると、そこには生前のイスカンダルに付き従ったマケドニアの戦士達の姿があった。
「征服王イスカンダルのこの『世界』での最後の戦!我等が挑むは英雄王ギルガメッシュ!相手にとって不足なし!」
「「「オォォォォオオオオオ!」」」
戦士達の声が轟き、場には戦意が充満していく。
「蹂躙せよ!」
イスカンダルが檄と共に手を振り下ろすと、イスカンダルを先頭に戦士達が突撃を開始した。
両手を組みその様子を見据えるギルガメッシュの背に、一つの波紋が浮かぶ。
「異世界へ旅立つ手向けだ。」
奇怪な形をした剣を手に取ると、ギルガメッシュは魔力を注ぎ込みながら構える。
すると、まるで『世界』が哭いているかの様な音が剣から鳴り響く。
そして…。
「エヌマ!」
神話に謳われる神殺しの一撃が…。
「エリシュ!」
現世に顕現した。
破壊の暴風がマケドニアの戦士を一人、また一人と蹂躙していく。
だがイスカンダルを始めとして、全ての戦士が笑っていた。
「Ah―lalala!」
イスカンダルは破壊の暴風の中を駆ける。
まだ見ぬ異世界の地を夢見て。
「マスター!この数週間!楽しかったぞ!」
イスカンダルの声にウェイバーは流れる涙も拭わずに応える。
「イスカンダル!」
「ハッハッハッ!漸く余の名を呼んだな!」
破壊の暴風に蹂躙され、イスカンダルの身体が光の粒子となっていく。
「異世界でもどこでも好きな所に行け!そして…思うままに駆け抜けろ!」
「応!」
破壊の暴風が過ぎ去ると、そこにイスカンダルの姿は無かった。
だがウェイバーの胸には、確かに彼の生き様が刻み込まれたのだった。
本日は3話投稿します。
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