二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第273話

臓硯の本を見つけてから数日後、慎二は雁夜と共に遠坂邸へと向かっていた。

 

「慎二、しつこいだろうけど僕が言った事を覚えてるよね?」

「うん、覚えてるよ。」

 

慎二はこの数日間で何度も言われた事を思い出す。

 

『慎二、君が魔術師になりたいのなら幾つか条件がある。それを受け入れないのなら、僕は君の叔父として認めるわけにはいかない。』

 

『先ずは数百年続く魔術師の名家である遠坂家に弟子入りする事だ。魔術師の中には他者の命を奪う事を欠片も躊躇しない奴は珍しくないからね。』

 

『少し前までなら臓硯がいたから問題なかったけど今はいない。だから慎二の身を守る為にも弟子入りは必須だ。悔しいけど、魔術の素人の僕では慎二を守りきれないんだ。』

 

『そして次の条件だけど、絶対に間桐の魔術…つまり臓硯の魔術を継ごうとしない事だ。』

 

『奴の魔術は他者を文字通りに食い物にするおぞましいものだ。もし慎二が継ごうとすれば、絶対に敵にしてはいけない御方を怒らせてしまう。だから絶対にダメだ。』

 

『この二つの条件を受け入れるなら、僕は慎二が魔術師になるのを応援するよ。僕は魔術師になる道から逃げてしまったけど、慎二ならきっと新たな間桐の魔術を見つけられるさ。』

 

そう思い出しながら歩いていると、いつの間にか遠坂邸の前にいた。

 

「慎二、言っていなかったけど間桐家は遠坂の庇護下に入っている。だから今日まで僕達は、臓硯の魔術師としての遺産を狙う者達の手から無事でいられた。その事を覚えておいてくれ。」

「雁夜叔父さん…そういう事はもっと早く言ってよ。手土産一つ用意してないじゃないか。」

 

肩を落として大きくため息を吐く甥っ子の姿に、雁夜は頭を掻きながら苦笑いをする。

 

「いやぁ、慎二はしっかり者だなぁ。」

「はぁ…。」

 

叔父にまだ嫁がいないのは、このどこか抜けている所が原因なのではと少年主夫は考える。

 

しかし原因は別のところにある。

 

数百年続く間桐家の資産等を相続した雁夜は相応に金持ちである。

 

なので言い寄る女性はそれなりにいるのだが、雁夜はその女性達に興味を抱かなかった。

 

何故か?

 

雁夜はとある救世主との話し合いで己の心に整理をつけた。

 

だがその心の整理をつけた結果、今度はどこかの騎士と熱い握手を交わせる嗜好に目覚めてしまったのだ。

 

「ごほん、じゃあ行こうか。」

 

誤魔化す様に咳払いをした雁夜は、遠坂邸の扉を叩いたのだった。

 

 

 

 

「初めましてだね、慎二君。君の事は雁夜から聞いている。私は遠坂家当主の遠坂 時臣だ。」

 

客間に案内された慎二は時臣と対面し、その優雅な紳士たる姿に子供ながら感心した。

 

(叔父さんもこうなれば、お嫁さんが来てくれるんじゃないかな?)

 

慎二は見たことが無いが、雁夜も女性に対しては紳士的に対応する。

 

もっともそれはとある騎士の様に特定の女性に対しての時が圧倒的に多いのだが…。

 

「僕は間桐 慎二です。今日は魔術師になる為、貴方に弟子入りするべく参りました。」

「うむ、まだ幼いがしっかりとしている様だな。」

「自慢の甥っ子さ。」

 

少年主夫となってから大人びた慎二を見た時臣は感心して微笑み、雁夜はそんな甥っ子を自慢する。

 

「さて、慎二君。」

「はい。」

「君が弟子入りする事は認めよう。しかし、君が間桐の魔術を継ぐ事は認められぬ。理由はわかるね?」

 

時臣の問い掛けに少年は頷く。

 

「よろしい。では君を魔術師とする為に、先ずは君の適性を調べよう。」

「適性ですか?」

「うむ、魔術は幾つかの属性があるのだが、そのどれに適性があるのかは人それぞれなのだ。」

 

そう言いながら時臣は立ち上がり慎二に近付く。

 

「では今から君の資質を調べる為に魔力を流す。力を抜いて楽にしていてくれ。」

 

慎二が言われた通りに身体の力を抜くと、時臣は肩に触れて魔力を流す。

 

だが…。

 

「むっ?」

 

魔力を流した手応えに、時臣は眉を寄せた。

 

そして…。

 

「慎二君、残念だが、今のままの君では魔術を行使する事は出来ない。」

 

そう告げられた慎二は意味を理解する事を放棄して、ただ呆然とするのだった。




本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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