二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第275話

雁夜と慎二の二人が遠坂邸に訪れてから2時間程経つと、遠坂邸に二郎を始めとした住人が帰ってきた。

 

「あら?お客様が来てるみたいね。」

 

玄関に並ぶ見知らぬ靴を見た凛が声を上げる。

 

「雁夜の気配と、もう一つ知らない気配があるね。」

「靴の大きさから察するに子供でしょう。雁夜は何用で来たのでしょうか?」

 

二郎とアルトリアの会話に桜は首を傾げる。

 

「雁夜おじさんの用事…またお母さんとお話しをしにきたのかな?」

「だったらわざわざ子供を連れてくる必要はないんじゃない?」

 

既に遠坂姉妹にも雁夜の紳士たる振る舞いは知られてしまっている。

 

それでも紳士たる振る舞いを止めない雁夜を見れば、とある騎士は同士と呼んで固い絆を結ぶだろう。

 

「とりあえず、雁夜おじさんに挨拶に行きましょ。」

 

凛を先頭に一行は客間に向かう。

 

扉をノックすると中から時臣の返事があり、凛は努めて淑やかに扉を開けた。

 

そして客間に雁夜の姿を見つけると、二人はそれぞれ挨拶をする。

 

「いらっしゃい、雁夜叔父さん。」

「こんにちは、雁夜おじさん。」

 

雁夜は二人に笑顔で挨拶を返す。

 

「凛ちゃん、桜ちゃん、こんにちは。二郎真君様、アルトリアさん、お邪魔しています。さぁ慎二、君も挨拶をして。」

 

雁夜に促されて、凛達が見知らぬ少年が挨拶をする。

 

「はじめまして、雁夜叔父さんの甥の間桐 慎二です。今年で八歳になります。」

 

凛は同い年の、桜は一つ年上の少年でありながらしっかりしている慎二に僅かに驚く。

 

「へぇ、学校の男の子達と比べてしっかりしてるわね。」

「自慢の甥っ子さ。」

 

凛の言葉に胸を張った雁夜は、咳払いを一つして姿勢を正す。

 

「二郎真君様、一つ願いがあります。」

「なんだい?」

「僕の甥である慎二は魔術を扱えない体質なのですが、それを改善していただきたいのです。」

 

慎二は驚く。

 

魔術は使えないと半ば諦めていたからだ。

 

「『あの蟲』の魔術を継ぐのかい?」

「いえ、奴の魔術は絶対に継がせません。」

「なら叶えよう。」

 

二郎の言葉に慎二は更に驚く。

 

遠坂家は数百年続く魔術師の名家だと聞いたが、その遠坂家の当主である時臣でも慎二が魔術を使える様にする事は出来ないとハッキリ言われたのだ。

 

それなのに目の前の男は当然の様に慎二が魔術を使える様にすると言った。

 

喜びの感情と共に疑問が沸き上がる。

 

(この人は何者なんだろう?)

 

そんな慎二の疑問をよそに事態は進んでいく。

 

「さて、慎二だね?」

「え?あ、はい。」

「君が魔術を使える様にする方法は幾つかある。その中で転生をせずに済む方法を呈示しよう。」

 

転生と聞いて疑問に思うが、慎二は頷いて続きを促す。

 

「一つは全ての魔術回路を使える様にする方法。そしてもう一つは、最低限の魔術を扱える様に2、3本の魔術回路を使える様にする方法だ。」

 

二郎は双方の方法のメリットとデメリットを話す。

 

先の方法はあまりの痛みに耐えきれず死にかねない命を賭すものだ。

 

だが成功すれば物語に登場する魔術師の如く魔術を扱える様になる可能性がある。

 

後の方法は多少の痛みがあるだけで命の危険は無い。

 

だが魔術回路が少ない為、魔術で戦いをする道よりも、魔術を研究する道に進むのが賢明と言えるだろう。

 

メリットとデメリットを聞いた慎二は考え込む。

 

「今すぐ決める必要はないよ。帰ってからゆっくりと考えるといい。」

 

 

 

 

家に帰りついた慎二は迷い続けていた。

 

魔術の研究は楽しそうだ。

 

でも物語に登場する魔術師の様に自在に魔術を使う事には憧れる。

 

慎二は自問自答を繰り返す。

 

だが中々決断出来ない。

 

そんな慎二の肩に手が置かれる。

 

「時間はあるから、先ずはご飯にしようか。」

 

そう言いながら雁夜は出前でとった寿司を並べる。

 

「あ、ごめん雁夜叔父さん。ご飯作るの忘れて…。」

「気にしないでいいよ。たまにはこうして出前も悪くないからね。さぁ、手を洗っておいで。」

 

洗面所に向かった慎二は、そこで鏡に映る自分を見る。

 

「…僕はどうしたい?」

 

鏡の中の自分に問い掛けた慎二の脳裏に、雁夜の言葉が思い浮かぶ。

 

『慎二ならきっと新たな間桐の魔術を見つけられるさ。』

 

心が決まった慎二は自然と笑っていた。

 

「うん、その方が僕らしいよね。」

 

手を洗って居間に戻る。

 

そして席に着くと、慎二は寿司に舌鼓を打つ。

 

「決まったみたいだね、慎二。」

「うん。」

「それはよかった。さて、僕も食べよう。」

 

笑顔の甥っ子を見て、雁夜は優しく微笑んだのだった。

 

「ところで慎二?」

「なに、雁夜叔父さん?」

「凛ちゃんと桜ちゃんを見てどう思った?」

 

「どういう意味?」

「いや、慎二も小学生だし恋をしたりするかなぁってね。」

 

「はぁ…僕の事よりも自分の心配をしなよ。」

「おっと、これはやぶ蛇だったかな?」




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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