間桐 慎二が魔術師への道を歩み始めてから2年の月日が流れた。
凛、慎二、イリヤ、カレンが10歳に、桜は9歳へと成長した。
そしてその年に冬木の紳士として勇名を馳せていた雁夜が結婚すると決意した。
相手は2人の子持ちの未亡人でその名を遡月 美守(さかつき みもり)という。
これで叔父も落ち着くと慎二少年は胸を撫で下ろす。
相手家族と間桐邸にて対面した慎二は、家族となる兄妹と挨拶をする。
「初めましてだね。僕は間桐 慎二。気軽に慎二って呼んでくれ。」
「俺は遡月 士郎だ。よろしくな、慎二。」
「私は遡月 美遊です。よろしくね、慎二お兄ちゃん。」
とても仲が良い士郎と美遊の兄妹だが、実は二人の血は繋がっていない。
遡月家は代々女系の家系だった。
不思議な程に女子しか生まれてこなかったのだが、そこで遡月家の慣習となったのが男子を養子に貰う事だった。
これは遡月家の女子の許嫁という側面もある。
その為、士郎と美遊は仲の良い兄妹でありながら、将来が約束された許嫁でもあるのだ。
この事を二人はまだ知らないが、慎二は雁夜から聞かされている。
『慎二、この事を二人に教えるのはまだ早い。然る時に美守さんが言うから、それまでは秘密にしておいてくれ。』
新たな家族との生活も1ヶ月程が過ぎると、慎二は士郎と美遊の二人を遠坂邸へと誘った。
今日はイリヤとカレンも来ている筈なので、二人を紹介するのにちょうどいいと思ったのだ。
こうして慎二は二人を連れて遠坂邸へと向かうのだった。
◆
side:アルトリア
「えっと、遡月…じゃなくて、間桐 美遊です。よろしくお願いします?」
「間桐 士郎です。よろしくお願いします。」
先月、ついに雁夜が身を固めたのですが、それで家族となった者を慎二が連れてきました。
黒髪の少女が美遊、赤みがかった茶髪の少年が士郎です。
美遊は桜と、士郎は凛達と同い年とあって、まだあどけなさが残っていますね。
しかし士郎少年なのですが…どこか見覚えがあるような?
私が疑問を感じている間に凛達が挨拶をしていきます。
桜は同い年の女の子と知り合えて嬉しそうにしていますね。
「アルトリア、貴女も二人に挨拶をしなさいよ。」
まだ士郎少年の事が気になっていますが、凛の言う通りに挨拶をしましょうか。
「私はアルトリア・ペンドラゴンです。二人とも、よろしくお願いしますね。」
私が名を告げると士郎少年は顔を赤くしてしまいました。
そんな彼を見て美遊がむくれていますね。
可愛らしい反応です。
凛が赤くなった士郎少年をからかったりしてしばらく話をしていると、席を外していた二郎が戻ってきました。
「おや?」
二郎は士郎少年と美遊を見るなり首を傾げました。
どうしたのでしょうか?
「二郎真君様、二人は僕の家族です。士郎、美遊、挨拶をして。」
「はじめまして、間桐 美遊です。」
「はじめまして、間桐 士郎です。」
二人が挨拶をしている間も二郎は観察をしていました。
どうやら二人には何かがあるようですね。
「あぁ、よろしく。俺は姓は楊、字はゼンという。俺は道教の者なんだけど、道教ではこれはと認めた相手にしか名を教えてはいけないという考えがあってね。だから俺の事はゼンと呼んでくれるかい。」
二人が元気よく返事をすると、二郎は慎二へと目を向けました。
そして慎二を近くに呼ぶと声を潜めて話し出します。
「慎二、雁夜は家にいるのかな?」
「はい、いる筈です。」
「じゃあ、時臣の所で待っているから呼んできてくれるかい。」
首を傾げる慎二に二郎は言葉を続けます。
「士郎と美遊の事で雁夜に話しておかないといけない事があるんだ。特に美遊の事でね。このまま放っておくと、色々と面倒を招いてしまうだろうね。」
二郎がそう告げると、慎二は頷いて直ぐに行動に移ります。
「凛、俺とアルトリアは時臣の所に行くから、皆を頼むよ。」
何かあったと察した凛は素直に頷くと、子供達を仕切り始めます。
そして私は二郎に続いて時臣の所に向かうのでした。
次の投稿は11:00の予定です。