二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第278話

慎二に呼ばれて遠坂邸にやって来た雁夜は、焦る心を抑えて葵の案内で時臣の書斎に向かう。

 

書斎についた雁夜は差し出された紅茶に手も出さずに口を開いた。

 

「二郎真君様、美遊と士郎の事をお聞きしたいのですが…よろしいでしょうか?」

「落ち着け雁夜。今のお前には話を聞く心構えが出来ていない。」

 

時臣に促され雁夜は紅茶を口にする。

 

一口目は味を感じなかった。

 

それに気付いた雁夜はゆっくりと二口、三口と飲んで漸く味を感じた。

 

「…お見苦しいところをお見せしました。」

「構わないよ。家族の事なんだ。焦るのも仕方無いだろうね。」

 

二郎自身も身内に甘いところがある故に、今の雁夜の反応を好ましく思っている。

 

「人は変わるものだね。かつて憎悪に囚われていた君が、こうして誰かの為に心を割ける様になったのだから。」

「…これも師の説法のおかげです。」

 

二郎はシッダールタに礼として甘味でも差し入れようかと考える。

 

これが後にシッダールタの体型が変わる程の天部による甘味攻勢の原因となるのだが、そうと知らぬシッダールタはイエスと共に立川にて現世の暮らしを楽しんでいる。

 

「さて、それじゃ二人の事を話そうか。」

「お願いします。」

「先ずは士郎の事だ。彼が投影魔術を使うと、その投影したものが破損しない限り残り続けるという、創造に近しい魔術を行使できるんだ。」

 

魔術にあまり詳しくない雁夜はその異常性にピンとこない。

 

「時臣、士郎のその魔術はどのぐらい危ういんだ?」

「事が露見すれば、良くて監禁されて奴隷扱い…といえば想像がつくか?」

 

臓硯で魔術師の残酷さを知る雁夜は、最悪を想像して顔を青くする。

 

「…遠坂家の庇護下でもか?」

「万全を期すならば、士郎君はアインツベルンの庇護下に入れる方がいい。おそらくイリヤ嬢と婚約する事になるが、彼の身を守る為にはそれが最善だ。」

 

遠坂家も数百年続く大家だが、アインツベルンはその上をいく千年続く大家である。

 

更に第三魔法の使い手であるユスティーツァが復帰した事もあり、同じ魔法使いか同等の力の持ち主でもなければ今のアインツベルンに手を出せるものはいない。

 

それ故の時臣の言葉だ。

 

実は遠坂家に手を出せば二郎が動くのだが、対外的には遠坂家はゼルレッチの弟子のままである。

 

そしてゼルレッチは基本的に弟子は放任しているので、魔術師達は隙あらば遠坂家には手を出そうとしてくるだろう。

 

まぁ、悪意をもって冬木に近付けば、とある神父の愉悦に使われたり、とある武神の監修の下で小さな魔術師達の実戦相手にさせられたりするのだが…。

 

「次に美遊の事だけど、あの子は奇跡を行使できるんだ。でもイエスやギャラハッドの様に自らの意思で行使するのではなく、受動的に行使する形でだ。」

「受動的ですか?」

 

アルトリアが疑問の声を上げると二郎は頷く。

 

「自らの意思で奇跡を行使出来る者は『聖人』と呼ばれる。それに対して受動的に奇跡を行使するあの子の力は『聖杯』に近いと言えるね。言うなればあの子は天然の聖杯体質ってところかな。」

 

如何に魔術に詳しくないとはいえ、聖杯体質の危険性に雁夜は気付く。

 

「時臣…。」

「美遊君もアインツベルンの庇護下に入れるべきだ。」

「それしかないよなぁ…。」

 

己の無力さを嘆く様に雁夜は大きくため息を吐く。

 

「10年後ならば凛も第二の魔法使いに至っているであろうから、その名を持って庇護下に置く事も出来るのであろうがな。」

「時臣、俺の見立てでは、凛は後5年もあれば魔法使いに至れるよ。」

「おぉ、それは朗報ですな。」

 

士郎と美遊はアインツベルンの庇護下にと決まり当面の問題に片がつくと、その後は子供達の将来の話になった。

 

「凛は二郎真君様に貰っていただく故に問題ないが、桜はどうしたものか…。ふむ、雁夜、慎二君を桜の婿にどうだ?」

「慎二次第だな。慎二は新しい間桐の魔術を作ろうとしているから、遠坂に婿入りとなると渋ると思うぞ。」

 

「遠坂と間桐の名はそれぞれ二人の子に継がせればよいではないか。」

「いくらなんでもそれは話が早すぎるだろう…。」

 

代々続く名家の当主としての時臣の思考に雁夜は苦笑いをする。

 

「士郎じゃダメなのか?」

「愛娘に目に見えている苦労を背負わせろと?士郎君には悪いが、せめて身内を守れる程度の力を身に付けねば桜はやれんな。」

 

「雁夜、桜は慎二の事を好んでいますよ。」

「本当ですか、アルトリア殿?」

「えぇ、夢に向かって真摯に努力している姿がカッコいいそうです。」

 

自慢の甥っ子が異性に好かれていると知って雁夜は喜ぶ。

 

「ふむ、これは具体的に話を進めてもよいか?」

「はぁ…士郎と美遊の件が終わった後でな。」

 

そう言って雁夜が立ち上がると時臣も立ち上がる。

 

そして二人が握手をした事で、ここに契約は成されたのであった。




これで本日の投稿は終わりです。

ちょっとプライベートが忙しいので来週の投稿はお休みさせていただきます。

10月13日にまたお会いしましょう。

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