二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第279話

雁夜に連れられて士郎と美遊はドイツのアインツベルン城に訪れた。

 

ユスティーツァに庇護を願う為だ。

 

魔法使いであるユスティーツァとの謁見とあって士郎と美遊の二人は、緊張半分と期待半分の心持ちだった。

 

「いらっしゃい、雁夜。引っ越しの準備がまだ終わらなくてゴタゴタしてるの。ごめんね。」

 

そう言いながらウインクをしたユスティーツァを見て士郎は見惚れてしまう。

 

美遊はそんな士郎の脇腹をつねった。

 

アインツベルンの庇護下に入る話を雁夜からされた際に、士郎との関係も聞いた彼女は己の心を自覚し、恋する乙女へと変わったのだ。

 

「あらあら、とても仲がいいのね。」

「もうしわけありません、ユスティーツァ様。」

「気にしないでいいわ。ところでうちの庇護下に入りたいっていうのはその子達かしら?」

「はい、そうです。」

 

ユスティーツァは二人をジッと見つめる。

 

すると士郎が照れて顔を赤くしたのだが、これもまた美遊により脇腹をつねられた。

 

「うん、いいわよ。引き受けたわ。」

「ありがとうございます、ユスティーツァ様。ところで、引っ越しの準備とは?」

「冬木に引っ越す事にしたの。どうもドイツの魔術基盤と合わなくなっちゃったのよねぇ。」

 

大聖杯として冬木の霊脈と長く繋がっていた事で、ユスティーツァはドイツの魔術基盤に馴染めなくなってしまっていた。

 

なので冬木に移住すると決断したのだが、千年続く大家であるため色々と諸問題を片付けなければ、アインツベルンの地を巡って魔術師達が骨肉の争いを繰り広げる事になるだろう。

 

故に数年掛かりで方々に根回しをしているのだ。

 

「久しぶりのお客様だわ。今日は張り切って料理をしないとね。」

「…ユスティーツァ様が御用意してくださるのですか?」

「ちゃんとレシピ通りに作るから大丈夫よ。だから前みたいな事にはならないわ…たぶん。」

 

数十年に渡り肉体を持たなかったユスティーツァは五感…特に味覚が鈍っていた。

 

故にリハビリと称して料理をした事があったのだが、アルトリアをしてお残しをする悲惨な味付けの料理が出来上がった過去がある。

 

二郎に『不味い。』とハッキリ言われてからは、しっかりと研鑽を積んで腕を上げたのだが、そうとは知らぬ故に雁夜の不安は拭えない。

 

「う、うちの子達はちゃんと食べられているから大丈夫よ!たぶん…きっと…そうだといいな…。」

 

自我を持った事でアインツベルンのホムンクルスは感情が豊かになってきている。

 

そのアインツベルンのホムンクルスが日常的にユスティーツァの料理を食べて無事であると知っても、彼女のどこか自信がなさげな様子が不安を煽り立てる。

 

かくして雁夜達は覚悟を持って料理を食べるという事を経験したのだった。

 

 

 

 

ドイツから無事に帰国した士郎と美遊は、イリヤと共に魔術師の修行を始める。

 

「士郎君、魔術は死を許容するものだ。その覚悟が君に…いたっ!?」

「切嗣、士郎君はまだ子供、それも一般人だったわ。それなのにいきなり脅してどうするのよ。」

 

「でもねアイリ、もしかしたら彼はイリヤの婚約者になる可能性がある。ならその彼には覚悟を持ってもらう必要があると思うんだ。」

「イリヤとそうなるなら確かに必要だけど、だからといって今すぐに持つ必要もないじゃない。まだ時間はあるんだから、ゆっくり成長していけばいいわ。」

 

そんな夫婦のやり取りを尻目にイリヤはじっと士郎を見つめる。

 

「な、なんだよイリヤ?」

「ふ~ん…悪くないかしら?」

「イ、イリヤちゃん!?」

 

イリヤの反応を見て美遊が慌てる。

 

大好きな兄が取られると思ったのだ。

 

「心配しなくても大丈夫よ美遊。切嗣だっていっぱい奥さんがいるんだから。」

「「えっ?」」

 

兄妹は揃って疑問の声を上げると、切嗣へと目を向ける。

 

「お、お兄ちゃん、何人と結婚してもいいの?」

「い、いや、少し前に雁夜さんが母さんに耳を引っ張られてたし、ダメなんじゃないか?」

「確かに日本で重婚はダメね。でも他の国では認められているところもあるわ。だから切嗣は中華に国籍を変えたのよ。」

「…なんでさ。」

 

がっくりと肩を落とした士郎を見てイリヤはクスクスと笑う。

 

「その方が皆が幸せになれるからよ。」

「えっと…イリヤちゃんはそれでよかったの?」

 

美遊の問い掛けにイリヤは微笑む。

 

「舞弥は優しくて好きよ。ちょ~っとズボラなとこがあるけどね。それにまた一人ママが増えるかもしれないし。」

「そ、そうなんだ…。」

 

苦笑いをする美遊にイリヤは笑みを向ける。

 

「だから私は重婚は気にしないわ。美遊はどう?」

「えっ?」

「お兄ちゃんが好きなんでしょう?」

 

直球な言葉に美遊は顔を真っ赤にして俯く。

 

「私は士郎が気に入ったわ。でも美遊とも仲良くしたいの。」

 

そう言いながらイリヤは見惚れる程に可愛らしい笑顔を見せる。

 

「だからい~っぱいお話しをしましょ。そして一緒に士郎を好きになれるようになりましょ。」

「…うん!いっぱいお話しをしよ!イリヤちゃん!」

 

差し出されたイリヤの手を美遊は笑顔で取る。

 

そして時は流れ少年少女達は成長し、約束の時を迎えるのだった。




本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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