第280話
「うん、無事に全員、令呪が発現したわね。」
17歳となった凛は美しく成長していた。
中華拳法の鍛練で引き締まった見事なプロポーションは、年頃の男子の視線を惹き付けて止まない。
また二郎謹製の霊薬で体質を改善した事で、とある世界線の様に魔術の為に夜更かしをしてショートスリーパーとなっていない。
よく食べ、よく動き、よく寝る。
そんな健康的な生活を送ったおかげなのか、とある世界線では慎ましやかだった身体の一部がしっかりと実っている。
妹の桜も美しく成長した。
美しく艶やかな黒髪におしとやかながら芯のある性格の彼女は、まさしく大和撫子と形容するに相応しい女性だろう。
そんな彼女の校内一と称される身体の一部が揺れれば、健全な男子生徒の御立派様が御立派になってしまうのも仕方がないだろう。
イリヤとカレンはその容姿から妖精と称されるに相応しい女性へと成長した。
そんな彼女達の歯に衣を着せぬ言葉に、一部の男子生徒の嗜好が塗り替えられてしまったのだがこれは些細な問題だろう。
また美遊も先の彼女達に負けず劣らずの美しい女性に成長していた。
明るく可愛らしく健気な彼女は、男女問わずに人気がある。
通う高校にそれぞれファンクラブが存在する程に人気な彼女達だが、全員が婚約者持ちである。
これを知った男子生徒諸兄が相手に心からの呪詛を送っても仕方がないだろう。
さて、そんな彼女達の婚約者に目を向けてみよう。
一人目は癖のある青髪に目鼻立ちの整った男子、間桐 慎二である。
成績優秀、スポーツ万能、更に間桐家の財産を有するお金持ちと超優良物件である。
うら若き乙女達が悔しさにハンカチを噛むのも納得がいくというものだ。
そんな彼の婚約者は桜とカレンである。
元々は桜一人が婚約者であったのだが、とある日に食べた慎二の手料理(麻婆豆腐)に胃袋を掴まれたカレンが父と祖父を説得したのだ。
当初はカレンの行動に驚いた桜だが、気心しれている相手とあって彼女が慎二の婚約者となった事を直ぐに受け入れた。
二人目は遡月 士郎である。
赤みがかった茶髪に童顔の彼は密かに校内女子の人気が高い。
弓道のインターハイ個人戦で全国優勝したのも人気が高い要因の一つだろう。
そんな彼の婚約者はイリヤと美遊である。
今も仲良く三人で腕を組んでいるのを見れば、三人の仲が上手くいっているのがよくわかる。
そして残った凛の婚約者だが…。
「皆、揃ってるみたいだね。」
それは中華が誇る武神である二郎真君だ。
「お帰り、二郎。」
「ただいま、凛。」
2年前に15歳という若さで第二魔法へと至った凛は、幼き日より抱いていた思いを遂げて二郎と恋人になる事が出来た。
そして二郎を恋人としてとある友人に紹介したのだが、二郎を紹介されたとある友人は圧倒的な敗北感でその場に崩れ落ちたとか…。
「中華で頻発していた地震の原因は何だったの?」
「龍神の子が親に怒られた腹いせに暴れていたんだ。大人しくさせたからもう大丈夫だよ。土産に奴の鱗を持ってきたけどいるかい?」
並みの魔術師では目眩を起こしかねない程の神秘を内包した鱗を、二郎は当然の様に差し出す。
「私はいらないけど…慎二、いる?」
「僕みたいな一般的な魔術師がそんなものを持ってたら、命が幾つあっても足りないよ。」
「ふ~ん…士郎は?」
話を振られた士郎は苦笑いをする。
「俺は慎二みたいな研究を主とする魔術師というよりは魔術使いだからな。貰っても使い道がないぞ。」
「イリヤはどうする?」
「残念だけど遠慮しておくわ。二郎真君様からいただいた霊薬の解析だってまだ終わってないもの。」
第四次聖杯戦争の折りにアインツベルンに渡された二郎謹製の霊薬の解析が、ユスティーツァから課されたイリヤの課題である。
遅々として解析は進まないが、イリヤは美遊や士郎と共に楽しみながらおこなっている。
「桜とカレンもいらないわよね?」
「慎二さんがいらないなら私もいらないかな。」
「私もいらない。持って帰ってもお祖父ちゃんが困る…それはそれで面白いかも?」
小悪魔な一面を見せるカレンに婚約者である慎二は苦笑いをする。
「誰もいらないのね。じゃあ大師父へのお土産にするわ。高校を卒業したら一度、時計塔に顔を出すつもりだしね。」
「凛は時計塔に入るつもりはないんだろ?」
士郎の問い掛けに彼女は頷く。
「大師父から魔法使いに至ったって御墨付きを貰っちゃったのよ?時計塔に入っても騒ぎになって勉強どころじゃなくなるのが目に見えてるわ。」
「僕達もその騒ぎに巻き込まれるだろうな。」
慎二がそう呟くと、それを想像したのか士郎は苦笑いをする。
「だから行かないんじゃない。安心しなさい。大師父に挨拶をしたら二郎と一緒に『異世界』に行くから。」
「凛、私を忘れていませんか?」
全員分の軽食を手にアルトリアが姿を見せる。
「忘れてないわよ。私は正々堂々と二郎の正妻の座を勝ち取るんだから。」
「受けて立ちます。それはそれとして先ずは軽く摘まみましょう。『英霊の宴』が始まるまで後七日。喚び出す者が被らぬ様に話し合いをしなければいけませんからね。」
そう言ってアルトリアが一早く軽食を摘まむと、場は笑い声に包まれたのだった。
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