二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第281話

『慎二さん…』

 

頬を朱に淡く染めた桜がゆっくりと近付いてくる。

 

ベビードールを纏った彼女はとても扇情的で、年頃の青少年の劣情を煽り立てる。

 

『慎二…。』

 

桜だけでなくカレンも頬を朱に淡く染めながら近付いてくる。

 

ピッチリとしたシスター服が彼女の身体のラインを明確に視覚化させ、年頃の青少年の心をを刺激する。

 

彼女達は婚約者だ。

 

だからこうなるのは自然な事。

 

特に疑問に思うことなく、そう受け入れた。

 

不自然な程に…。

 

吐息が掛かる程に近付いた彼女達は、そのしなやかな細指をこちらの身体に置いてくる。

 

そして更に身体を寄せてきた彼女達の柔らかな双丘が…。

 

 

 

 

ピピピピピッ!

 

目覚ましのアラームで意識が覚醒した慎二は勢いよく身体を起こす。

 

「ゆ、夢か…。」

 

残念なのか安堵なのか自身でもわからないため息を吐く。

 

そして落ち着いたところで何かに気付き慌てる。

 

「よ、よかった、大丈夫だ。」

 

どうやら下着の中で惨状が広がっていなかったようである。

 

彼とて年頃の男子である。

 

そういった事が心配になってしまうのも仕方がないだろう。

 

「はぁ…よしっ!動こう。」

 

気持ちを切り替えた慎二はベッドから出て着替え始めるのだった。

 

 

 

 

「おはよう、慎二。」

「おはよう、慎二お兄ちゃん。」

 

士郎と美遊が仲良くリビングにやって来る。

 

そんな二人をエプロンが似合う慎二が出迎える。

 

「おはよう、士郎、美遊。雁夜叔父さんと養母さんはもう出掛けたよ。」

「もう行ったのか?早いな。」

「お母さん、今日は雁夜養父さんとデートだって楽しみにしてたから。」

 

夫婦仲の良い両親に苦笑いをしながら三人は席に着く。

 

「「「いただきます。」」」

 

朝食を食べながら三人の会話は自然と『英霊の宴』のものになった。

 

「慎二、喚び出す奴は決まったか?」

「まだ決まってないけど、とりあえずキャスターを喚び出そうと思ってるよ。」

「キャスター?なんでさ?」

 

士郎と同じく疑問に思ったのか、美遊が箸をくわえながら可愛らしく首を傾げる。

 

二郎が術式に手を加えたので他と同じクラスも召喚出来る。

 

なので召喚するサーヴァントのクラスの被りを気にする必要はない。

 

故に士郎達は何故にキャスターを望むのかが気になった。

 

「僕は研究を主とする魔術師だ。だったら先達に教えを乞うのはおかしくないだろ。」

「あぁ、そっか。流石だなぁ、慎二。」

「流石慎二お兄ちゃん!」

 

心からの称賛を送ってくる二人に慎二は少し照れてしまう。

 

「誉めてもおかずは増えないぞ。」

「「じゃあデザート!」」

「…昨日の夜に作っておいたプリンが冷蔵庫に入ってるよ。」

 

心からの称賛とは何だったのか。

 

しっかりと慎二に胃袋を掴まれている二人は、朝食を食べ終えて食器を流しに片付けると、デザートを片手にリビングに戻ってくる。

 

「早く食べなよ。朝練の時間が近いからね。」

「「は~い。」」

 

三人は揃って弓道部に所属している。

 

集中力や精神力を養うのは魔術にも応用出来ると思ったからだ。

 

その結果、士郎は圧倒的な才能を発揮して昨年、一年でありながら全国優勝を果たしている。

 

慎二も全国出場は果たしてはいるものの、士郎には及ばない結果だった。

 

ちなみにこの三人以外にも桜やイリヤ、そしてカレンといったいつものメンバーも弓道部に所属している。

 

いつものメンバーの中で弓道部に所属していないのは凛だけだ。

 

凛曰く『別に弓道を否定するつもりはないけど、二郎に教わった方がずっと効率的だわ。』との事だ。

 

彼女の言う通りなのだが、それには二郎の指導についていけるだけの忍耐力や才能が必須である。

 

ちなみに二郎が教える武は道でなく術…つまり、敵を効率良く殺す為のものである。

 

故に教えを乞うには相応の覚悟が必要だ。

 

それなのに当然の様に二郎に教えを乞う凛は生粋の魔術師と言えるだろう。

 

だが慎二達が魔術師としての覚悟を持っていないわけではない。

 

彼等は彼等なりに、いわゆる青春を味わいたいだけなのだ。

 

凛ならばその考えを『心の贅肉』と表現するだろう。

 

贅肉と言われてショックを受ける乙女達はいない。

 

決してイリヤやカレンが『食べても太らないから』と言われて、殺意を抱いたりする乙女達はいない。

 

決して凛に『動いてれば問題ないでしょう?』と言われて、割れた腹筋が見える程に引き締まったプロポーションを羨んだりする乙女達はいない。

 

いないったらいないのだ。

 

デザートを食べ終えた三人は一路学校へと向かう。

 

その道すがら、慎二は士郎に話し掛けた。

 

「ところで士郎は誰を喚ぶんだ?」

「あ~…まだ決めてない。セイバーとか喚んでみたいけど…。」

 

年頃の男子らしく士郎は語感がカッコいい等の理由でセイバーを望む。

 

「セイバーか…剣士や騎士ってなると、僕のイメージではアルトリアさんになるな。」

「そうだよなぁ…じゃあ、宮本武蔵とかどうだ?」

「剣を教えてもらうのか?それなら二郎真君様に教わった方がいいと思うけど。」

「あ~…うん、そうだった。」

 

身近過ぎて時折、二郎が武神だと忘れる事があるのは御愛嬌だろう。

 

「話を聞いてみたい英雄とかいないのか?」

「ギリシャ神話のアルケイデスかな?でも、アルケイデスはイリヤが喚ぶって言ってたし。」

「流石アインツベルン。触媒を用意する資金が潤沢だなぁ。」

 

間桐家もそれなりに財力はあるが、アインツベルンと比べると月とスッポンである。

 

「まぁ、まだ時間はあるからゆっくり考えるよ。美遊は誰を喚ぶつもりなんだ?」

「まだ誰とは決めてないけど、キャスターを喚ぼうかなって考えてる。空を飛べる魔術とか教えて貰えたらなぁって思って。」

「ははっ、美遊は小さい頃、魔法少女が好きだったからなぁ。」

 

士郎の言葉に美遊は笑顔で頷く。

 

この時、どこか遠くで意思のある杖がガタッと動こうとしたが、武神に施された封印により防がれていた。

 

「おっと、二人とも、少し急がないと危ないぞ。」

「よしっ!美遊、俺がバッグを持ってやるから走るぞ。」

「ありがとう、お兄ちゃん。」

 

こうして三人はいつもの様に仲良く学校へと向かうのだった。

 

 

 

 

ここは立川にあるアパートの一室。

 

ごく普通のアパートであるが、その一室は清らかな雰囲気に包まれている。

 

とある覚者が座禅をしているからだ。

 

だが、その清らかな雰囲気は不意に破壊される。

 

それは…。

 

「グワッハッハッハッ!」

 

御立派な神が虚空を突き破って侵入してきたからだ。

 

「邪魔するぞ、シッダールタよ。」

「去れ、マーラよ!」

「ケチケチするでない。我と御主の仲ではないか。」

 

御立派な神の言い分に覚者はため息を吐く。

 

現在、シッダールタとイエスは二郎に倣って現世で暮らしている。

 

かつての時代の様に信仰の違いで殺し合いに発展する事が少なくなった現代で、彼等は人々と笑顔で触れあい、時に救済をする生活を心から楽しんでいるのだ。

 

「そういえばマーラよ、昨晩にお前の力を感じたが、どこで何をしたのですか?」

「少しばかり冬木で若者達の夢に干渉してきたのだ。互いに好いておる癖に焦れったくてのぉ。さっさと一発バシッとヤってしまえばいいのだ。」

 

御立派な神の物言いにシッダールタは諭す様に話す。

 

「私やイエスが生きていた時代とは違うのです。今の世を生きる若者達の歩む速さに任せればよい。邪魔をしてはなりませんよ、マーラ。」

「相変わらず固いのう、シッダールタ。我は更にギンギンに固いがな!」

 

そう言って高笑いをする御立派な神を見て、シッダールタは眉間を揉み解すのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。

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