二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第282話

いよいよ『英霊の宴』の為に英霊を召喚する時がやってきた。

 

場所は冬木の郊外にあるアインツベルンの城にておこなわれる。

 

順番に喚び出すといえど、7騎ものサーヴァントが一堂に介するので当然の配慮といえるだろう。

 

先ずは美遊が喚び出す事になった。

 

美遊が求めるのはキャスターのサーヴァントだ。

 

触媒は無いので美遊のイメージと相性で喚び出す事になる。

 

そもそも今回のメンバーで触媒を用意してあるのはイリヤだけだ。

 

イリヤにしてもアルケイデスを喚び出す事にこだわりがあるわけではない。

 

第三魔法の研究の為に神代の不死の発現をその目で見ておきたかったイリヤは、前回の聖杯戦争の折りにアインツベルンが用意していた触媒が、ちょうど不死の逸話があるアルケイデスの物だったから彼を喚ぶだけなのだ。

 

そうでなければアキレウスやジークフリートを喚ぼうとしたかもしれない。

 

まぁ不死の発現を見るという目的上、相応の戦い等は避けられないので、喚び出される相手によってはたまったものではないだろう。

 

それはそれとして視点を美遊の方に戻そう。

 

美遊は改良された召喚陣の前に立ってイメージを固めていっている。

 

「空を飛べる魔法使いさん…出来れば女の人で…。」

 

少々曖昧なイメージだが、そこは二郎監修の召喚陣である。

 

しっかりと補正してくれるだろう。

 

かつて自分達が叡知を結集させて作り上げた召喚陣をあっさりと改善されて、苦笑いをしているユスティーツァの姿があるのは目を瞑ろう。

 

美遊のイメージと魔力に反応して召喚陣から光が沸き上がる。

 

すると美遊は詠唱を始めた。

 

「閉じよ、閉じよ、閉じよ(満たせ、満たせ、満たせ)。」

 

改良された召喚陣に詠唱は必要ない。

 

だが美遊は魔法少女が好きな乙女である。

 

魔法使いっぽいという理由で詠唱に夢を見ても仕方ないだろう。

 

ちなみに詠唱を唱えようとしているメンバーはやや少数派で、美遊、士郎の二人しかいない。

 

魔術師は基本的にリアリストで効率を重視するものなのだ。

 

美遊の詠唱も終わりに差し掛かり、召喚陣から一層強い光が溢れ出す。

 

そして光が収まると、そこにはフードで顔を隠した女性らしき人物の姿があった。

 

「あら?可愛らしいお嬢ちゃんね。私はキャスターのサーヴァント。貴女が私のマスターかしら?」

 

柔らかくも妙に響く声は、流石は神代の魔法使いといえるだろう。

 

美遊は逸る心を落ち着けてから言葉を発する。

 

「はい、私が貴女を召喚しました。」

「そう、よろしくねマスター。」

 

フードで隠れた口元しか見えないが、彼女が微笑むとその妖艶さに士郎と慎二が顔を赤くする。

 

そんな二人の脇腹は婚約者達によってつねられてしまっているが些細な問題だろう。

 

「ところでマスター、一つ質問をいいかしら?」

「なに、キャスター?」

「召喚に応えておいてこういうのもなんだけど、私が得られる利益がよくわからなかったの。なんでも大抵の願いは叶えられるらしいけど、聖杯があるわけじゃないのでしょう?」

 

頬に手を当てながらそう話す彼女の姿に美遊は頷く。

 

「貴女の願い次第だけど、二郎真君様が叶えてくだされるわ。」

「二郎真君?」

「俺の事だよ。」

 

その声に振り向いたキャスターは、次の瞬間には驚きながら声を上げる。

 

「まさか…放浪の神ゼン!?」

「おや、俺を知っていたのかい?コルキスの王女。」

「自分勝手に人々を振り回すギリシャの神々と違って貴方は善性の神。そんな神は珍しいから、当時のギリシャの人々で知らない人はいなかったわ。」

 

ギリシャの神々を毛嫌いする彼女に、マスターである美遊は苦笑いをする。

 

「それよりも、なぜ貴方が私を知っているのかしら?」

「気紛れに世界中を巡っていたからね。君を一目見た事があるのさ。」

「そう、魔女に堕ちた私は貴方の目に叶わなかったのね。」

 

彼女は自身が救われなかった理由をそう考えた。

 

「俺が見た時の君は復讐も故郷に帰る事も諦め、生きる気力を失っていた。そんな者を救える程、俺は万能な存在じゃないよ。シッダールタやイエスなら救えたかもしれないけどね。」

「シッダールタとイエス?」

 

龍脈を通じで『世界』から知識を得た彼女はため息を吐く。

 

「神々が姿を消すと神々を畏れて否定した人々は、また神に救いを求める様になった…随分と皮肉なものね。」

「だから面白いと思わないかい?」

「人と共に生きてきた放浪の神だからこその言葉ね。あのギリシャの神々なら絶対にそんな事を言わないわ。自らの欲求を満たす為の道具や家畜程度としか考えないでしょうね。」

 

ギリシャの者でありながらギリシャの神に対して辛辣な言葉を使う。

 

いや、ギリシャの者だからこそ彼女は辛辣な言葉を使うのだろう。

 

それだけの事をかの大神とその妻はしでかしたのだから…。

 

「さてコルキスの王女、君の願いはなんだい?」

「コルキスへの帰還は流石に叶わないでしょうね。ならそうね…笑わないで聞いてくれるかしら?」

 

フードの下に隠れていてもわかる程に彼女は顔を朱に染める。

 

「私の願い…それは、その…『女としての幸せ』よ。」




本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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