「第三隊、前へ!」
軍神ニヌルタの声が戦場に響き渡る。
すると、間髪を入れずに俺と戦っている連中と入れ替わる。
「第一隊は第二隊を魔術で治療せよ!第四隊は第三隊といつでも交代出来る様に待機!」
軍神ニヌルタの指示が矢継ぎ早に出されていく。
その指揮は軍神の名に恥じぬ見事なものだ。
俺は眼前にいる神の戦士達を三尖刀を使って蹴散らしていく。
俺と戦っている神の戦士達は武人としては二流だが、戦士としては一流だ。
その為、俺の攻撃を文字通りに首の皮1枚で致命傷を避けていく。
「第四隊、前へ!第二隊は第三隊の治療をせよ!第一隊は待機!」
神の戦士達1人1人は俺には及ばない。
だが、軍神ニヌルタは間断無く戦わせる事で俺を消耗させていくつもりの様だ。
こんな戦いが既に1時間は続いている。
時折、隙を見せた神の戦士を復帰出来ない様に仕留めようと俺は動く。
だが…。
ヒュッ!
風を切り裂く音と共に剣が俺に向けて射ち放たれる。
俺は三尖刀を一振りして剣を打ち払うが、その隙に神の戦士が退いてしまう。
剣を射ち放った者にチラリと目を向ける。
そこには白髪に褐色肌の赤い外套を着た男がいた。
「軍神ニヌルタ、あれは貴方の信徒かな?」
「我に冥府より死者を呼ぶ術は無いぞ、二郎真君。」
俺は神の戦士達と戦いながら軍神ニヌルタと会話をしていく。
その戦いと会話の間も白髪の男は、神の戦士達の合間を縫って俺に剣を射ち放ってくる。
何度も神の戦士を仕留める機会を阻むその腕前は見事なものだ。
だが、あの男が射ち放つ剣には違和感を感じている。
…この違和感はなんだ?
数十年に渡る道士や蛟との戦いで磨かれた直感が、俺にあの男の戦い方の違和感を感じさせる。
「あの男からは神の気配を感じないけど、精霊に近しい気配は感じるね。」
「ほう?なれば、あの男は世界の守護者やもしれぬな。」
「世界の守護者?」
俺の疑問の声に軍神ニヌルタが頷く。
「左様。我にもあまり覚えはないが、時折あの男の様に世界の守護者が干渉してくる事がある。それは決まって大きな戦いの時だ。」
「それは一方に味方をするのかな?」
「いや、時にはその場の者達を殲滅する事がある。だが、此度はこちらの味方の様だな。」
そう言うと軍神ニヌルタはニヤリと笑った。
「戦場では何が起こるかわからん。それはこの軍神ニヌルタでも同じ事よ。故に利用できるモノは何でも利用する、それが戦よ。」
戦っていた連中の半数近くを負傷させると、軍神ニヌルタは指揮をして隊を入れ替える。
その指揮を援護する様に白髪の男は剣を射ち放ってくる。
あの男が射ち放つ剣から感じる違和感のせいで受けに回らざるをえない。
「しかし、あの男は随分と変わった得物を使うのだな。軍神たる我でも見たことが無い。」
軍神ニヌルタは白髪の男が剣を射ち放つ際に使っている道具を見ながらそう言う。
確かに俺も今生では見たことが無い。
だが、あの道具の名は思い出せないが前世では見たことがある気がしている。
「ふむ、あの男が使う得物は数を揃える事が出来れば戦を変えるやもしれぬな。」
軍神ニヌルタが白髪の男が使う道具をそう称賛する。
白髪の男が放つ何本目かわからない剣を打ち払おうとすると、不意に直感が危険を知らせた。
俺はその刹那、瞬動でその場を離れる。
すると、剣が発光して大きな爆発を起こした。
「ほう?剣に内包されていた神秘を暴走させたか。あの男の様に自分で造れねば到底出来ぬ事よな。」
軍神ニヌルタの言葉を聞きながら、白髪の男が放って天界の地に無数に落ちた剣に目を向ける。
これら全てがあの白髪の男の意思1つで爆発するのか…。
ただ剣を射ち放つだけではない白髪の男の戦いの上手さに、俺は内心で称賛を送る。
それと同時に俺は感じていた違和感に得心が行った。
だが、神の戦士達から目を離したそれを隙と見た神の戦士の1人が俺に斬り掛かってくる。
俺は神の戦士の一太刀を打ち払うと、その神の戦士の首を三尖刀の一振りで斬り落とす。
すると、軍神ニヌルタに率いられている神の戦士達が激昂した。
「ハッハッハッ!流石は武神たる二郎真君よ!見事な武技なり!」
軍神ニヌルタの称賛の声に、神の戦士達の激昂は収まった。
「やれやれ、面倒な相手達だ。」
俺は白髪の男が射ち放ってくる剣を避けながらそう称賛を送る。
「悪いけど、そろそろこちらから仕掛けさせてもらおうか?」
「ハッハッハッ!消耗戦は飽いたか!ならば、これよりは総力戦だ!」
軍神ニヌルタの言葉に神の戦士達が雄叫びを上げる。
「剣を掲げよ!この戦の誉れは眼前の武神の首にあり!戦士達よ!我に続けぇ!」
「「「オォ―――!!」」」
軍神ニヌルタと共に神の戦士達が俺に向かって殺到してくる。
その合間を縫って剣を射ち放ってくる白髪の男にチラリと目を向けた俺は、三尖刀を一振りすると神の戦士達に向かって踏み込むのだった。
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