二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第291話

英霊の宴が始まって数日、各陣営が思い思いに過ごしている中で王士郎は、冬木郊外にあるアインツベルンの城で、衛宮 切嗣の指導を受けている遡月 士郎の元を訪れていた。

 

「想定が甘い。火薬の一粒まで明確にイメージしろ。」

「あぁ、悪いけどもう一回手本を見せてくれないか?」

 

遡月 士郎の言葉に頷いて、王士郎は一瞬で一発の弾丸を投影して見せる。

 

「凄い…寸分の狂いも無い…。」

「私の様に剣や弓矢を投影するのならば最強のそれを想定すればいい。だが君の様に弾丸を投影するのならば、最強であってはならない。現代兵器に要求されるのは何よりも信頼性だ。何千何万と弾丸を投影しても、一発の不発も暴発もあってはならない。それが君の目指すべき境地だ。」

 

そう言うと王士郎は事を見守っていた衛宮 切嗣に弾丸を放る。

 

弾丸を受け取った切嗣は手早くハンドガンに込めると、それを的に試射した。

 

「少なくとも僕の感覚では、大量生産された工業製の弾丸と区別がつかないな。」

「『魔術師殺し』の異名を持つ貴方にそう言われるのは光栄だな。」

「皮肉かい?」

 

苦笑いをする切嗣に王士郎は首を横に振る。

 

「魔術師は現実主義者でありながら現代の利器を使う事に抵抗を持つ。それは神秘の薄れを防ぐ為でもあるのだが、それ以上に魔術が秘匿されている故の優越に浸っている部分が大きい。それを考えれば貴方は一流の戦士だ。」

「…誉め言葉として前向きに受け取っておくよ。」

 

好意的に接してくる王士郎に戸惑いながらも切嗣は笑みを返す。

 

「えっと、これでどうだ?」

「ふむ…まぁ、いいだろう。それを撃ってみるといい。」

 

遡月 士郎は自らが投影した弾丸を愛用のハンドガンに込めて射撃してみる。

 

「う~ん…まだ本物の弾とは感触が違うな。」

「兵器とは言ってしまえば敵を倒す物。だがそれに傾注し過ぎてはいけない。現代兵器は神代兵器の様に一部の天才が使用する事を想定して設計されてはいないのだからな。信頼性が優先されると認識しろ。」

「あぁ、わかった。」

 

その後、休憩に入りメイドのリズから飲み物を受け取った遡月 士郎は、喉を潤してから王士郎に話し掛ける。

 

「王士郎って四千年ぐらい前から生きてるんだよな?」

「あぁ、そうだ。」

「道士とか仙人って山に籠っているイメージだけど、なんでそんなに現代兵器とかに詳しいんだ?」

「大半の道士や仙人は君の言う通りに崑崙山に籠っている。だから君が持つそのイメージは間違いではない。」

 

そう言って苦笑いをした王士郎は、セラから受け取った飲み物を一口飲む。

 

「だが私は放浪の神とも言われる二郎真君の弟子でね。師の影響を受けたのか、他の道士や仙人と同じ様に籠っているのは性に合わんのさ。」

 

そう言いながら肩を竦めた王士郎に、遡月 士郎はプッと吹き出す。

 

「さて、君のもう一つの疑問だが、民主主義が中心の現代でも中華が王政を続けているのは知っているな?」

「あぁ。」

「民主主義を謳う過激派の中には中華の王の命を狙う者もいる。使われる兵器は総じて銃が多い。そして中華の王をそういった者から守る為に知識を蓄えていく内に詳しくなったというわけだ。」

 

遡月 士郎は納得した様に頷く。

 

「孫子の兵法ってところか?」

「言われてみればその通りだ。彼女が残した理論は尚…太公望も称賛していたよ。」

「もしかして会ったことがあるのか?」

「兵法家として名を残す前の彼女に会ったことがある。彼女には『貴方や二郎真君様の武功が私の考えを否定します。』と嘆かれてしまった。」

 

その言葉に遡月 士郎と切嗣は苦笑いをする。

 

そんな二人を見て王士郎はため息を吐く。

 

「やれやれ、私は老師程に理不尽な存在のつもりはないのだがな。」

「凡人の僕から見たらそう変わりはないけどね。」

「俺もそう思う。」

 

そんな会話をしていると不意に虚空に穴が開く。

 

そしてそこから霊獣に乗った一人の美しい女性が姿を現した。

 

「士郎、私に働かせておいて自分は優雅に休暇か?」

「私とて直ぐにでも戻りたかったのだがな。だが老師が主催する催しに招かれては参加せざるを得ないだろう?」

「ふふ、冗談だ。」

「わかっているさ。長い付き合いだからな。」

 

突如虚空から現れた女性と王士郎が会話をする間も、遡月 士郎は女性を呆然と見詰めていた。

 

「ん?その子が士郎の召喚者か?」

「いや、私の召喚者は別の所にいる。」

「そうか。」

 

女性は霊獣から下りると、遡月 士郎の元に歩み寄る。

 

「私は王貴人。王士郎の妻だ。よろしくな、少年。」

 

王貴人が微笑むと遡月 士郎は誰が見てもわかる程に顔を真っ赤に染める。

 

それを見たイリヤは不満を露に頬を膨らませた。

 

「むぅ~!!」

「大人の女性の色香に当てられてしまったのだろう。マスター、案ずる事はない。後数年もすれば貴女にも自然と身に付くものだ。」

 

アルケイデスの紳士的な助言を聞いてもイリヤの機嫌は直らない。

 

そして…。

 

「うん、決めたわ。」

 

彼女は何かを決意した。

 

「いつまでも凛に勝ち誇らせているわけにはいかないものね。リズ、美遊と相談するから連絡しておいて。あっ、ちょうどいいから桜とカレンも巻き込みましょ。」

 

色々と察したアルケイデスは小さくため息を吐く。

 

「マスター、それは淑女とは言えないのではないか?」

「あら、アルケイデスの時代では普通の事でしょう?」

 

違う、そうじゃないと思いながらも、彼女の言葉を否定出来ないアルケイデスは頭を抱える。

 

そしてまるでイリヤの決意を祝福するかの様に、虚空に御立派な神の高笑いが響いたのだった。




本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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