慎二がセタンタから一通りのルーン魔術を習い終わり、いよいよ英雄達が戦う時が来た。
この戦いにメディアを始めとした幾人かは参戦しないが、その戦いの行く末には興味を持っている様である。
冬木のアインツベルンの城の前に張られた結界の中でアルケイデスとジークフリートが睨み合う。
「よう、お前はどう予想する?」
セタンタの問い掛けに王士郎は少しの間を空けて答えた。
「まず間違いなくアルケイデスだろう。サーヴァントのままならばジークフリートにも勝ちの目があったのだろうが、老師の結界の中では生前と変わらぬ力を発揮出来る。如何にジークフリート程の英雄でも、あのアルケイデスを13回殺しきる事は生前の偉業を遥かに超える難事だ。」
「違いねぇ。だが、だからこそ面白いんじゃねぇか。」
不敵に笑うセタンタに王士郎は肩を竦める。
「流石はケルトの戦士といったところか。」
「ところでよ、お前はまだ生きてんだよな?」
「その通りだが、それを知ったところで戦いで手心を加える気は欠片もないのだろう?」
「まぁな。」
二人がそうやって話していると、アルケイデスとジークフリートの戦いが始まった。
一見すると互角に見える戦いだが、神話に謳われるアルケイデスの剛力で振るわれる斧剣を、ジークフリートが愛剣のバルムンクでなんとか凌いでいる状態である。
もしジークフリートが不死の肉体を持っていなければ、アルケイデスの攻撃の余波だけで身体が傷付いていただろう。
そんな戦いを見てセタンタは歯を剥き出して笑った。
「はっ、そうこなくっちゃな。」
だがジークフリートとて名を残す英雄である。
竜の因子により呼吸をするだけで魔力を産み出せる彼は、アルケイデスの攻撃を凌ぎながらもバルムンクに魔力を溜め続ける。
限界まで魔力が溜められたバルムンクは空気を震わせ、まるで哭いている様な音を響かせる。
このバルムンクの真名解放をまともに受ければ、アルケイデスとてただではすまないだろう。
ひりつく緊張感が場に満ちる。
だが二人の戦士は慣れ親しんだ空気を楽しむ様に剣を振るい続けた。
一合、二合、三合と必殺の意思が込められた一撃がぶつかり続ける。
そんな二人の戦いの形勢は少しずつアルケイデスに傾いていった。
体格差による間合いの違いが二人の戦いに僅かの差を作ってしまう。
その僅かの差さえあれば一流の戦士には十分なのだ。
そして遂にアルケイデスの一撃がジークフリートを捉えた。
アルケイデスの剛力による斧剣の一撃は、ジークフリートの不死の身体にさえ深い傷を負わせる。
だが彼の戦意は微塵も衰えなかった。
「『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!』」
肉を斬らせて骨を断つ。
ジークフリートは満を持して真名解放をした。
極光がアルケイデスを襲う。
だがアルケイデスは手にする斧剣を万力を持って握り締める。
そして…。
「『射殺す百頭(ナインライブズ)!』」
九つの頭を持つ竜との戦いで身に付けた能力を元に編み出した剣撃で極光を迎え撃った。
己を飲み込まんとする極光を、アルケイデスは数多の剣撃で打ち払い続けていく。
その光景は正に神話の一部を切り取ったかの様に耳目を惹き付けた。
このままいけばアルケイデスは極光を打ち払っただろう。
だが…。
「『幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!』」
ジークフリートが更なる一撃を見舞った。
さしものアルケイデスも極光を打ち払い切れずに飲み込まれてしまう。
だがそこで終わってしまう程、人類史上でも指折りの大英雄は甘くない。
なんと、防ぎきれぬと瞬時に判断したアルケイデスは斧剣を盾として犠牲にし、斧剣が砕け散るまでの僅かな間に極光の中を駆け抜けてしまったのだ。
「オォォォオオオオオ!!!」
アルケイデスは賢者ケイローンより総合武術であるパンクラチオンを学んだ戦士である。
故に五体そのものが神獣をも屠る武器となるのだ。
ドゴンッ!
およそ拳が出したとは思えない衝撃がジークフリートの身体を貫く。
その一撃は不死の呪いをも超え、ジークフリートに致命傷を与えた。
「ぐっ…!」
致命傷を負っても立ち続けるジークフリートの姿は正に英雄と呼ぶに相応しいものだった。
「流石は神話に謳われる大英雄…お見事でした。」
大量に吐血したジークフリートの身体が少しずつ光の粒子に変わっていく。
そんな彼に極光で半身を焦がしたアルケイデスが言葉を贈る。
「ジークフリート、君も英雄の名に恥じぬ素晴らしい戦士だった。」
「…その言葉がなによりの手向けです。」
既に足が光の粒子に変わってしまったジークフリートは、己のマスターである遡月 士郎へと目を向ける。
「マスター、私を喚んでくれてありがとう。これで心置き無く旅立てる。」
「ジークフリート…カッコ良かったぞ!」
その一言にジークフリートは照れ臭そうに微笑むと、光の粒子となって消えたのだった。
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