二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第294話

突き、叩き、払いと息をつく暇もないセタンタの槍の猛攻を、王士郎は二本の短剣で捌きながら距離を詰めていく。

 

突きでの攻撃が難しい距離まで詰められたセタンタは、槍を手の中で回して石突で攻撃をする。

 

その攻撃を受け止めた王士郎はそこを支点として回転し更に一歩踏み込むと、地を強く踏み込み背中での体当たりを見舞った。

 

「ぐっ!?」

 

野性的な勘で咄嗟に飛び退いて衝撃を和らげたセタンタは、着地と同時に地を這うような低い姿勢で踏み込み、王士郎の足下に向けて刺突をする。

 

だが…。

 

「ゲイ!」

 

セタンタが放つ赤き槍の穂先は…。

 

「ボルク!」

 

因果を捻曲げ王士郎の心臓へと向かう。

 

しかし…。

 

それを察していたかの様に王士郎は二本の短剣を交差させ、セタンタの必殺の一撃を凌いでみせた。

 

一瞬驚きの表情を見せたセタンタだが、直ぐにその場を離れると口角を引き上げる。

 

「これも防ぐかよ。」

 

言葉とは裏腹に彼は強敵を前にして喜びの感情をみせる。

 

そんなセタンタの様子に王士郎は肩を竦めた。

 

「生憎と似たような一撃を経験していてな。もっとも、老師のそれは因果逆転の呪いではなく、技量のみでそれを成したものだったがね。」

「はっ、ますますゼンと戦ってみたくなったぜ。」

 

この会話を耳にしたアルケイデスは二郎への敬意を更に高める。

 

「流石は名高き放浪の神ゼン様だ。」

「それで諦めるどころか更に挑戦の意思を固める貴方も大概ね。アルケイデス、貴方本当に脳まで筋肉で出来ているんじゃない?」

 

メディアの皮肉にアスクピレオスが興味を示す。

 

「それは是非とも臨床して確かめなければいけない。さぁ、アルケイデス。医学の発展の為に協力を。」

「いくら不死だからといって、友人を実験台にしようとする貴方もどうかと思うわ。」

 

かつての仲間に頭を抱えるメディアの様子に幾人かが同情の視線を送る。

 

そんな事は他所にセタンタと王士郎の戦いは続いていく。

 

セタンタの攻撃を王士郎が受ける見慣れた光景だが、先程までとは違うところが一つある。

 

それはセタンタが繰り出す攻撃の軌跡がルーン文字を描き、これまでの攻防に加えてルーン魔術が使用される様になった事だ。

 

火のルーン等による一瞬の目眩ましが戦いの流れを僅かにセタンタの方に引き寄せる。

 

しかし王士郎は粘り強く凌いでいった。

 

「器用なものだ。槍での攻撃の軌跡でルーン文字を描くとはな。」

「そういうテメェも防いでんじゃねぇか!」

「これでも数千年の戦いの経験があるのでね。相応に戦えると自負している。」

 

戦いの最中で会話をしていたが、舌打ちを一つしてセタンタが飛び退く。

 

「みくびっていたつもりはねぇんだが、俺も平和呆けをしちまってたのかねぇ。」

 

頭を掻きながらセタンタがそう言葉を溢す。

 

コンラによる治世でかつてのケルトは一時の平和を実現していた。

 

その平和の中で生を全うしたが故のセタンタの嘆きだ。

 

「戦いに生きるのがケルトの戦士なのだろうが、コンラ王の成した事は王として正しいものだ。」

「わかってるさ。息子の偉業は俺の誇りだ。だけどよ、やっぱり戦いが俺を最も昂らせてくれる。こればかりはどうしようもねぇ俺の性さ。」

 

そう言って苦笑いをしながらも、セタンタは呪いの魔槍に魔力を注ぎ込んでいく。

 

「凌いでみな。俺の全力を!」

「受けて立とう。」

 

二本の短剣を消した王士郎は黒塗りの弓を手に取り一本の矢をつがえる。

 

それを目にしたセタンタは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「いくぜ!」

 

助走をしてセタンタは高く飛び上がった。

 

「ゲイ!」

 

そして背を大きく後ろに反らし…。

 

「ボルク!」

 

満身の力を込めて槍を投げ放った。

 

その一投に対して王士郎は…。

 

「一を持って万と成す!」

 

弓を引き絞り渾身の力で…。

 

「『天弓』!」

 

万の兵をほふる力を一つに集束させた一矢を放った。

 

呪いの魔槍が敵の心臓を喰らおうと暴れ狂い、天弓の一矢が敵を射抜こうとしてせめぎあう。

 

一秒が数分にも感じる程の濃いせめぎあいもやがて終わりを向かえる。

 

なんと呪いの魔槍と天弓の一矢の双方が砕け散ったのだ。

 

それを目にしたセタンタは心底楽しそうに笑い声を上げる。

 

「ハッハッハッハッ!あー負けだ負けだ!」

 

ドカッと地に腰を下ろしたセタンタからは既に戦意を感じない。

 

言葉通りに負けを認めたのだ。

 

「いいのかね?」

「テメェ相手に槍無しじゃあ分が悪すぎだ。」

「そうか。」

「あぁ、だからこの首、好きにしな。」

 

トントンと手刀でセタンタは己の首を叩く。

 

「ならば君に残された時間、現世に残って見届けて貰おうか。」

「そいつはありがてぇがいいのかよ?後で俺に背から討たれるかもしれねぇぜ?」

「構わんよ。もしそれで討たれるのならば、私もその程度の戦士だったという事だ。」

 

セタンタはまた楽しそうに笑い声を上げる。

 

「ハッハッハッ!完全に負けたぜ!ここまでハッキリ負けたのは初めてだ!」

 

地に腰を下ろしているセタンタに王士郎は手を差し出す。

 

その手を取り立ち上がったセタンタはニッと笑みを浮かべた。

 

「改めて名乗るぜ。俺はセタンタだ。」

「私は王士郎。気軽に士郎と呼んでくれ。」

 

「おう!士郎、アルケイデスに負けんなよ。負けたら師に何をされるかわかったもんじゃねぇからな。」

「心得ているさ。私とてまたあの地獄の様な修行を味わいたいわけじゃない。」

 

こうして戦いは終わり、二人は時代を越えて友となったのだった。




本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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