二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第296話

二郎の手により結界が張られたアインツベルンの城前の広場で、アルケイデスと王士郎が対峙する。

 

アルケイデスは右腰に並みの男なら大剣となる程の長剣を帯び、左腰には空に見える矢筒を帯び、そして背中には長大な弓を背負っている。

 

これら全ては二郎に貸し与えられた物であり、並みの宝貝(パオペエ)とは比べものにならない程の神秘を内包していた。

 

剣と弓には不壊の概念が付与されているので、アルケイデスの膂力を十全に発揮出来るだろう。

 

更に矢筒は二郎が所有する蔵に繋がっており、そこから二郎謹製の一級品の矢をほぼ無尽蔵に使う事が出来る。

 

流石にヒュドラの毒を塗った矢は無いが、魔力が続く限り矢を投影出来る王士郎を相手に十全に弓矢で応戦出来るのは、これからの戦いで十分に大きなメリットになるだろう。

 

対する王士郎は己が身体一つでアルケイデスの前に立っている。

 

様々な武器を投影する事であらゆる状況に対応が可能な王士郎は、健全な状態であればそれで十分なのだ。

 

陽炎の様に空気が歪んで見える濃密な戦意の中で睨み合っていた二人は、まるで示し合わせたかの様に同時に動き出した。

 

先ずは両者共に弓を手に戦い始めた。

 

剛脚を持って縦横無尽に駆け回りながら弓を射るアルケイデスに対して、王士郎は瞬動を駆使して緩急をつけて動きながら弓を射っていく。

 

その光景を見てセタンタが感嘆の声を上げた。

 

「やるねぇ。」

「そうね、正直に言ってアルケイデスと互角に渡り合えるなんて驚いたわ。」

「凛嬢ちゃんにはそう見えてんのか。」

 

セタンタの言葉に凛は眉尻を上げる。

 

「なによ、違うの?」

「弓の腕前なら士郎が上だぜ。アルケイデスが矢を放った瞬間に軌道を読んで、その矢に向けて矢を放ってるからな。」

 

セタンタの言葉に遡月 士郎が目を見開く様にして戦いに魅入る。

 

銃と弓の違いはあれども射手としての極致がそこにあるからだ。

 

「ねぇ二郎、貴方はあれを出来る?」

「出来るかどうかで言えば出来るよ。ただ、矢を手に取らなければならない俺に対して士郎は手に直接矢を投影出来るからね。その分は士郎の方が上かな。」

「正に神業ってわけね。」

 

凛が感心している中で戦局が動いた。

 

不意に王士郎が一本の矢を天に向けて放ったのだ。

 

そしておよそ一分後、縦横無尽に駆け回っていたアルケイデスの頭部を天から降ってきた一本の矢が貫いた。

 

「…嘘でしょ?」

「士郎の弓の腕前は知っていたつもりでしたが、私は過小評価をしていたみたいですね。」

 

凛がそう呟くのに続いて、アルトリアが驚きの声を上げる。

 

一度目の死を迎えて復活が始まったアルケイデスの様子を、イリヤが食い入る様にして見詰める。

 

「さぁイリヤ、アルケイデスの不死がどんなものか…わかったかしら?」

 

ユスティーツァの問い掛けに、イリヤは顎に指を当てて首を傾げながら答える。

 

「う~ん…『再生』というよりは『復元』って感じに見えたわ。」

「…正解!よく見てたわね。偉いわ。」

 

弟子の成長を喜んだユスティーツァはイリヤの頭を撫で回す。

 

その様子を横目に凛は二郎に問いかける。

 

「ねぇ二郎、アルケイデスの不死の正体って何?イリヤは復元って答えてたけど…?」

「アルケイデスの不死は『魂の固定化』だよ。」

「魂の固定化?」

 

首を傾げる凛と同じ様に幾人かが疑問の表情を浮かべる。

 

「魂の情報を『世界』、もしくは『星』に書き記す事だね。そうする事で有事に情報を引き出し、その情報を元に存在を『復元』するのさ。」

「…もしかして髪の毛一本残さずに消滅しても復活するって事?」

「あぁ、そうだよ。」

「なんてインチキ!」

 

両手で頭を抱えて叫ぶ凛の言葉に幾人かが同意する。

 

「でも同時に不利益もあるのさ。」

「不利益?」

「魂の固定化に伴う不利益…それは技術的成長はしても身体的成長は一切しなくなる事さ。たとえどんな鍛練や戦いを経験したとしてもね。」

 

二郎の言葉に凛は首を傾げる。

 

「たしかにデメリットかもしれないけど、でもアルケイデス程の身体能力があれば問題無いんじゃないかしら?」

「凛はアルケイデスを過小評価しているみたいだね。」

「どういう事?」

 

疑問の声を上げた凛に二郎が微笑みながら答える。

 

「魂の固定化が成されなければアルケイデスはもっと成長していたよ。それこそ大神ゼウスを素手で殴り殺せるぐらいにはね。」

 

驚愕のあまり口を大きく開けてしまった凛をはしたないと窘めるのは無理だろう。

 

それほどにアルケイデスが生まれ持った才能は飛び抜けていたのだから。

 

「なるほどね、ようやく謎が解けたわ。」

「メディア、謎って何?」

「あの下半神がアルケイデスに不死を与えた理由よ。」

 

美遊の問い掛けにメディアが答える。

 

「マスター、アルケイデスが試練に挑んだ理由はわかるかしら?」

「奥さんと子供を自分の手で殺しちゃったからだよね?」

「そうよ。でも、そもそもの原因はあの下半神の嫉妬深い妻のせいなの。なのに試練を与える?自作自演もいいところだわ。」

「えっと、だからお詫びとして不死を与えたんじゃないの?いきなり不死を与えたら世間体もあっただろうし…。」

 

美遊の言葉をメディアは鼻で笑う。

 

「そんな恥を感じる殊勝な心、あの下半神には欠片も無いわ。」

 

そう断言するメディアに現代に生きる者達は苦笑いをするが、同時代を生きたアスクピレオスは何度も頷いて同意する。

 

このメディアの言葉やアスクピレオスの反応は至極当然だろう。

 

なにせ面白おかしく引っ掻き回しておいて飽きたら放置。

 

そして死んだら、『天に召し上げてやったんだから従え』と言われるのだ。

 

こんな事をされればギリシャの神々に対して信仰心はおろか、信用や信頼が欠片も残る筈がない。

 

正に自業自得である。

 

「話を戻すわね。ゼンの言う通りにアルケイデスが成長する可能性を知ったあの下半神は、自身の脅威になりかねないアルケイデスの成長を止める為に不死を与えたの。アルケイデスの懺悔の心を利用してね。まぁその果てにはアルケイデスの手で殺されたのだけど、正に因果応報よね。」

 

そう言って心底可笑しそうに笑うメディアを責める者はいない。

 

彼女がギリシャの神々に振り回されてドン底にまで堕ちた事を皆が知っているからだ。

 

そんなメディアの笑い声が響く中で復活を遂げたアルケイデスが戦い方を変える。

 

弓で牽制をしながら距離を詰めて近接戦に持ち込もうと駆け出したのだ。

 

そうはさせぬと王士郎は動き回りながら矢の弾幕を張り、アルケイデスを止めようとする。

 

だがアルケイデスは命のストックを消費してでも接近を試みる。

 

その圧力は計り知れないものがあった。

 

そして3つの命を消費して接近に成功したアルケイデスは、腰に帯びた剣に手を掛けたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

先日、十数年連れ添った家猫が亡くなってしまいました。

心の整理をつける為に来週の投稿はお休みさせていただきます。

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