二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第297話

「ぐっ!?」

 

愛剣の干将を握る王士郎の左腕が、アルケイデスに斬り飛ばされて宙を舞う。

 

「ここまでだな。負けを認めろ、王士郎。」

 

油断なく見据えるアルケイデスの目線の先には、片膝をつく王士郎の姿がある。

 

左腕を失い、脇腹を蹴り砕かれ、右足には一本の矢が突き刺さっている。

 

更に全身に細かい傷を負っている彼の姿は、正に満身創痍と言えるだろう。

 

しかしその代償として、アルケイデスの命は残り七つとなっていた。

 

だが満身創痍の王士郎相手ならば十分と言えるだろう。

 

故にアルケイデスは負けを認める事を促したのだが、王士郎は不敵な笑みを浮かべる。

 

「生憎だがそれは出来ない。何故なら漸く勝利の条件が整ったのだからな。」

 

衰えぬ戦意をその目に宿したまま王士郎が言の葉を紡ぐ。

 

『身体は剣で出来ている』

 

やけに通る声で言の葉が紡がれていく。

 

『血潮は鉄で、心は鋼』

 

『幾万の戦いを越えて不敗』

 

『剣の丘にて勝利に酔う』

 

アルケイデスの直感が警鐘を鳴らす。

 

生前でも感じた事がない大きな危険を報せる為に。

 

地を踏み砕いて踏み込んだアルケイデスが、無防備な王士郎を斬り捨てる。

 

だが王士郎はまるで陽炎の様に姿を消した。

 

幻術の達人である王貴人と数千年を共にした王士郎も、一流の戦士を惑わす幻術を使う技量を持っているのだ。

 

『一つの答えと一人の理解を得て、灰色の生涯に意味を持つ』

 

アルケイデスが振り返ると、遠くに王士郎の姿があった。

 

『故に血塗られた道を行く事に迷いなく』

 

即座に弓を手にとって、アルケイデスは渾身の一矢を放つ。

 

だが七つの花弁が盾となってその一矢を防ぐ。

 

『誰が為に勝利し続ける』

 

矢の勢いは衰えず花弁が一枚ずつ散っていく。

 

しかし王士郎は花弁の盾を信じて言の葉を紡ぎ続ける。

 

『その身体はきっと、剣で出来ていた』

 

膨大な魔力が王士郎から溢れ出す。

 

そして…。

 

『無限ノ剣製』

 

最後の一節が紡がれると、世界が塗り変わったのだった。

 

 

 

 

「これって…固有結界?」

 

驚きの声を上げる凛の視界には桃の花が咲き乱れる中で、無数の剣がまるで墓標の様に突き立つ光景が広がっている。

 

「綺麗…。」

 

そんな光景を桜や美遊達が異口同音に感動の声を上げる。

 

だが…。

 

「こいつは目の毒だな。」

 

そうセタンタが切って捨てた。

 

「セタンタ?」

「慎二、英雄に憧れるなとは言わねぇ。けどよ、今を絶対に忘れんな。多くの奴等が飢えず凍えずに生きられる豊かな今をな。もしそいつを忘れて突っ走れば、夢に溺れて溺死…野垂れ死ぬだけだぜ。」

 

セタンタの言葉に少年少女達が唾を飲む。

 

「戦乱と平和を知る貴方だからこその言葉ね。らしくないけど。」

「ほっとけ。」

 

からかってくるメディアにセタンタは鼻を鳴らす。

 

そんな様子を尻目に戦況は動き出す。

 

「さて、御覧の通りにこれから君が挑むのは無限の剣…万の兵をも屠る剣戟の極致だ。」

 

王士郎の言葉にアルケイデスは口角を引き上げる。

 

そして…。

 

「望むところだ。」

 

滾る戦意を持って応えた。

 

「ならば、臆せずして掛かってこい!」

 

王士郎の意思に従って、無数に突き立つ剣が雨となってアルケイデスに降り注ぐ。

 

アルケイデスは降り注ぐ剣雨を、剣で弾き、拳で砕いて抗う。

 

だが如何にアルケイデスといえども無数に降り注ぐ剣雨の全てを防ぎ切れる筈もなく、幾本もの剣が身体に突き立って絶命してしまう。

 

一つ、また一つとアルケイデスの命が失われていく光景に、少年少女は王士郎の逆転勝利を幻視した。

 

だが…。

 

「間に合うかしら?」

 

メディアが一言呟いた。

 

固有結界は『世界』を塗り替え、術者に有利な状況を強制的に造り出す強力なものだ。

 

だがその代償として『世界』の修正力に抗う為に膨大な魔力を必要とする。

 

これらの事を賢者の弟子であるアルケイデスは、おそらく知っているのだろう。

 

彼の動きが敵を打倒するものから、耐え忍ぶものに変わっていた。

 

メディアはチラリと王貴人に目を向ける。

 

彼女は決して目を逸らさずに見守っていた。

 

「待っている女がいるのに、なんで意地を張るのかしら。」

「惚れた女が見てるからに決まってんだろ。」

 

そう言うセタンタにメディアは呆れた様にため息を吐く。

 

「少しは待つ女の気持ちを考えたらどうなの?」

「生憎、俺達戦士はこういう生き方しか出来ねぇのさ。」

「なら私は戦士じゃない人を夫にするわ。堅実で誠実な人を夫にね。」

 

皆が見守る中で戦いは続いていく。

 

そして遂にアルケイデスの命も残り一つとなった。

 

だが塗り替わっていた『世界』が急速に元に戻っていく。

 

固有結界を維持出来ない程に、王士郎の魔力が消耗してしまったのだ。

 

「オォォォォオオオ!」

 

この好機を逃さぬとアルケイデスが仕掛けた。

 

万事休す。

 

見守っていた多くの者がそう思ったその時、不意にアルケイデスの動きが止まる。

 

なんと彼の背中に干将が突き刺さったのだ。

 

「干将・莫耶は夫婦剣。互いに引き合う性質を持つ。」

 

そう語る王士郎の右手には、干将の対となる莫耶が握られていた。

 

そして…。

 

『壊れた幻想』

 

王士郎が紡いだ言の葉に従い干将は内包していた神秘を爆発させ、アルケイデスの最後の命を刈り取ったのだった。




本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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