「キャアアアァァァアアア!!」
メソポタミアの天界にイシュタルの悲鳴が響き渡る。
「獣如きが…誰の腕を食い千切ったのかわかってるの!?」
激昂するイシュタルの様子をエルキドゥは涼しげな表情で受け流す。
「戦っているんだからそんな事は当たり前でしょ?ねぇ、哮天犬?」
「ワフッ!」
食い千切ったイシュタルの腕をくわえている為、哮天犬の返事の鳴き声はくぐもって聞こえた。
「あ、哮天犬。食べちゃダメだよ。お腹を壊しちゃうかもしれないからね。」
「クゥ~ン。」
残念と言わんばかりに哮天犬の尻尾が項垂れる。
「失礼ね!ちゃんと毎日水浴びしてるわよ!」
イシュタルはコメカミに青筋を浮かべながらそう言い放つ。
「もう!どうして再生しないのよ!?」
肘から先が無くなったイシュタルの左腕は、光を放ちながらも再生が始まらない。
「二郎が言ってたんだけど、哮天犬の牙は魂まで齧れるんだって。」
「ワンッ!」
哮天犬はエルキドゥの言葉に胸を張る様に哮えた。
「忌々しい獣ね…!」
殺意を込めた目で哮天犬を見るイシュタルは、権能を使って嵐を起こす。
その嵐に魔力を乗せると、暴風の刃としてエルキドゥ達に放った。
「哮天犬!」
エルキドゥの呼び掛けに哮天犬は鋭く反応して天を駆ける。
「逃げるんじゃないわよ!大人しく裁きを受けなさい!」
「戦を司る女神なのに馬鹿なの?わざわざ攻撃を受けるわけがないよ。」
エルキドゥの返事にイシュタルは歯軋りをする。
「…もういいわ。毛髪1本残さずに消し飛ばしてあげる!」
そう言うとイシュタルは幾つもの嵐を呼び起こす。
「腐っても戦を司る女神ってところかな?」
「ワンッ!」
ギルガメッシュとの死闘を経験しているエルキドゥは、緊張を感じさせない声色で
イシュタルの力をそう評する。
荒れ狂う天界の空でエルキドゥと哮天犬は、イシュタルに立ち向かい続けるのだった。
◆
「雷よ!」
エンリルが指揮をする様に腕を振るうと、雷がギルガメッシュに振り注ぐ。
「芸が無いなエンリルよ。お前はそれしか出来ぬのか?」
黄金の波紋から宝貝を撃ち出して雷を迎撃するギルガメッシュは、つまらぬとばかりに嘆息する。
「人間如きが…調子に乗るな!」
激昂するエンリルをギルガメッシュは見下す様に見据える。
「メソポタミアの最高神アヌに多くの権能を分け与えられておきながらその体たらく…。お前如きが我の上に立とうなど片腹痛いわ!」
一喝したギルガメッシュは黄金の波紋から百を超える宝貝を撃ち出す。
エンリルは宝貝を雷で迎撃していくが、迎撃しそこなった宝貝の1つがエンリルの右肩を抉った。
「…人間如きが我に傷を負わせただと!?その不敬!万死に値する!」
エンリルは怒りのままに権能を行使すると、空を飛んで天界の空に雷雲を造り出す。
そして、その雷雲から所構わずに雷を落としていった。
「フンッ!まるで癇癪を起こした童だな。その程度の度量で神を統べるだと?笑わせるな!」
ギルガメッシュは権能で空を飛んでいるエンリルを鼻で笑う。
「もう!邪魔をするんじゃないわよ、エンリル!」
別の場所で戦っていたイシュタルがエンリルと合流して文句を言う。
「無様だな、イシュタルよ。」
左腕の肘から先が無くなっているイシュタルを見たエンリルは、イシュタルを見下す様に見据える。
「あら?貴方も私の夫に右肩を抉られているじゃない。」
「ふんっ!この程度、かすり傷でしかないわ!」
そう言うとエンリルは右肩に触れて傷を癒した。
「流石の権能ね。ついでに私の腕も頼むわ。」
イシュタルの頼みに、エンリルは眉を寄せながらも応じる。
「傷がなかなか治らぬ…魂が傷ついているな。何をされた?」
「ちょっと獣に齧られたのよ。」
「ほう?あの神獣か?ますます欲しくなったぞ。」
空にて態勢を整えているエンリルとイシュタルを見据えるギルガメッシュの元に、エルキドゥと哮天犬が合流した。
「ギル、大丈夫?」
「たわけ!我があのような愚物に後れをとるか!」
哮天犬の頭を撫でながら声を掛けるエルキドゥに、ギルガメッシュは斜に構えて答える。
「ギル、あの二柱の権能は面倒だけど、どうしようか?」
「簡単な事だ。エルキドゥの鎖で縛り上げ、我がエアで消し飛ばせばよかろう。」
「うん、それが一番楽だね。」
メソポタミアでも最上級の神々との戦いに、ギルガメッシュとエルキドゥは不安を欠片も見せない。
「ギル、二郎はどうなったかな?」
「…どうやら二郎は神の戦士達を降したようだ。」
「二郎は凄いね。僕達も負けてられないや。」
千里眼で見通したギルガメッシュが二郎の勝利を伝えると、友の勝利の報にエルキドゥは笑みを浮かべた。
ギルガメッシュも笑みを浮かべると、黄金の波紋から空を飛ぶ船を取り出し乗り込んだ。
「行くぞ、エルキドゥ!我に遅れるな!」
「うん。行こう、哮天犬。」
「ワンッ!」
ギルガメッシュ達が空に飛び立つと、傷を癒したエンリル達が起こした雷と嵐が襲い掛かる。
それらを避けたギルガメッシュ達は、エンリル達を屠りさるべく空を駆けるのだった。
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