エンリルとイシュタルを倒し、その二柱が残した呪いの槍も対処した俺達はメソポタミアの最高神アヌの元に向かった。
「よくぞ来た、人の子よ。メソポタミアの神、アヌが汝等を歓迎しよう。」
アヌは腫れた目で俺達に歓迎の言葉を言う。
その腫れた目を見ると、エンリルとイシュタルの死に悲しんでいたようだ。
「アヌよ、詫びの言葉は言わんぞ。」
「ギルガメッシュよ、構わぬ。いつかはこうなるという予感はあったのだ。」
目を瞑り首を横に振るアヌがため息と共にそう言う。
「では、なぜあの二柱を諫めなかった?」
「儂は我が子であるエンリルとイシュタルがどうしようもなく可愛かった。それ故に苦言を言う事はあっても叱るという事が出来なんだ…。」
アヌはまるで後悔をしているようにそう言うと、深くため息を吐いた。
「愚かだな、アヌ。」
「…ギルガメッシュよ、その通りだ。儂は愚かだ。だが、儂にはあの子達を止める方法がわからなかったのだ。」
そう言って嘆くアヌの姿は疲れ果てている様に見える。
「アヌよ、メソポタミアの神々に戦を仕掛けた我等をどうする?」
「…どうもせんよ、儂はもう疲れた。」
そう言って肩を落としたアヌの姿は、老齢な見た目以上に老け込んで見える。
「そこにいるのは二郎真君であろう?」
「はい。」
「たしか汝はメソポタミアの冥界の主人である儂の娘と知己を得ていたな?」
メソポタミアの冥界の主人である女神エレシュキガルとは、ルガルバンダ殿を
冥界に案内した時に出会っている。
俺はアヌの言葉を肯定するために頷く。
「エレシュキガルに伝えてくれ、儂もエンリルとイシュタルの元に…。」
「その必要は無いのだわ、お父様。」
アヌの言葉を遮る様にして女性が言葉を挟む。
その女性を見たギルガメッシュとエルキドゥが一瞬だけ警戒する。
何故ならその女性はイシュタルと似ていたからだ。
「エレシュキガル…お前は冥界の外に出る事を禁じていた筈だ…。」
「いきなりメソポタミアの神々が大勢で冥界に来たら、流石に直接確認に来るのだわ。それよりもお父様?お父様がいなくなったら誰がメソポタミアの天界を統べるのですか?」
エレシュキガルの言葉にアヌは力無く首を横に振る。
「ニヌルタに任せればよかろう…、あれは強い神だ。皆が納得する。」
「ニヌルタは二郎真君に完敗しているわ。そのニヌルタをメソポタミアの最高神に据えたら、ギリシャの強欲な大神がメソポタミアの女達を狙ってくるかもしれないのだわ。」
エレシュキガルの言葉にアヌは言葉が詰まってしまう。
「うむぅ…なればシャマシュに…。」
「誰がメソポタミアの最高神になっても結果は一緒ね。そして、私の操はギリシャの大神に奪われてしまうのだわ。」
涙を拭くように目元を抑えるエレシュキガルの言葉にアヌの目に力が戻る。
「ならぬ!それはならぬ!」
「なら、お父様がメソポタミアの最高神を続けてください。今回の一件でメソポタミアの天界は色々と滅茶苦茶になってしまっているんですからね。」
エレシュキガルがチラリと俺を見てくる。
確かにギルガメッシュとエルキドゥはエンリルとイシュタルの二柱を倒したぐらいだけど、俺は50近くのメソポタミアの神を冥界に送っちゃってるからなぁ…。
「うむぅ…わかった。なれど、時折冥界にエンリルとイシュタルに会いにいくぐらいは…。」
「エンリルは今回の一件で冥界に来た神の戦士を配下にして冥界を乗っ取ろうとしているし、妹は既に冥界の男達を漁り始めているのだけど…責任を取ってくれるのかしら?」
エレシュキガルがニッコリと微笑むとアヌは目を逸らした。
「うむ、儂は忙しくなるし止めておこうかの。」
「そうしてほしいのだわ、お父様。」
アヌとエレシュキガルのやり取りを見てエルキドゥがクスクスと笑っている。
「フンッ!話は済んだか?ならば我は帰るぞ。エルキドゥとの婚姻の準備があるからな。」
そう言ってギルガメッシュは踵を返すとエルキドゥもそれに続く。
俺も続こうと思ったんだけど、俺の肩をガッシリと掴む者がいた。
「私も急に忙しくなっちゃったんだけど、手伝ってくれるわよね?二郎真君?」
そう言ってエレシュキガルが俺にニッコリと微笑んできた。
俺は助けを求める様にギルガメッシュとエルキドゥを見るが、2人は触らぬ神にと言わんばかりに振り向かずに去っていったのだった。
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