ギルガメッシュが亡くなると、ギルガメッシュとエルキドゥの息子であるウル・ルガルがウルクの新しい王となった。
新しくウルクの王となったウル・ルガルは、若き日のギルガメッシュと同じ様に冒険をして世界中の財を集めていった。
しかしウルは集めた財を必要最小限を残して、生前のギルガメッシュが使っていた蔵に献上する形で納めていった。
「父上から受けた愛情と恩にはこの程度では足りない。私の生涯をかけて父上の蔵に世界中の財を献上していくつもりだ。」
ウルはギルガメッシュとエルキドゥにより見事な教養を身に付けたが、両親を敬愛し過ぎるのが玉に瑕だ。
エルキドゥはウルクの民から集めた税を蔵に納めようとしない限りは止めるつもりは無いようだ。
「民を飢えさせなければ王として最低限の義務は果たしているから、あのぐらいは個性としていいんじゃない?」
そう言ってエルキドゥはウルが冒険の旅で成長していくのを見守っていった。
ウルがウルクの王となってから3年の月日が経つと、周辺の都市国家の1つである
キシュから使者がやって来た。
その使者はキシュの女王となったイナンナという女傑から遣わされた使者の様だ。
使者の口上を一言で言えば、宣戦布告である。
キシュの女王イナンナの思惑を、ウルは次の様に読んだ。
「おそらくは、先代のキシュの王であったアッガが成せなかったウルクへの侵攻を成功させる事で、自身に箔をつけるつもりだろう。」
使者に宣戦布告を受けたウルは戦の準備に入った。
そして1ヵ月後、ウルクとキシュの中間となる場所でウルとイナンナの戦が始まった。
ギルガメッシュが作り上げたウルクの軍は精強で数も多かったが、イナンナはキシュの兵達を巧みに操って互角に渡り合った。
だが多勢に無勢であり、キシュの兵達はウルクの軍に次第に圧されていった。
ここでイナンナは形勢逆転の一手としてウルに一騎打ちを申し立てた。
ウルは冒険の旅で手に入れた剣を抜き放つと、イナンナと一騎打ちを始めた。
一騎打ちの結果はウルの圧勝だった。
ウルはギルガメッシュとエルキドゥの息子だ。
その才能はギルガメッシュには及ばないが、王として不足なくギルガメッシュの後を継げるだけのものを持っているのだ。
そんなウルはギルガメッシュに憧れて幼い頃から俺に戦士としての手解きを受けてきた。
戦士としての力量なら、ウルは既にギルガメッシュに劣らない程のものを身に付けているのだ。
そういうわけで今回の戦はウルクの勝利となったのだが、ここで戦場にいる一同が
驚く出来事が起こった。
なんと、一騎打ちに敗れたイナンナがウルに一目惚れをして求婚をしたのだ。
このイナンナの行動に俺と一緒に戦を見学していたエルキドゥは…。
「ギルの所に行く前に孫の顔を見れそうだね。」
と言って嬉しそうにニコニコしていた。
狼狽えたウルはイナンナに戦の賠償を求めずにキシュへと帰した。
だがキシュへと戻ったイナンナは、精力的に政務をこなして暇を作ると、僅かな供回りと共に
ウルクを訪れる様になった。
もちろん、イナンナの目的は惚れた相手であるウルに逢う事である。
そして、このイナンナの行動をエルキドゥが後押しするので、ウルはどうしていいか
わからずに俺に相談をしてくる様になった。
俺は友であるエルキドゥの味方なのでイナンナとの結婚を推した。
悩んだウルはイナンナと冒険をしてから結婚を決めると言った。
これはウルが幼い頃に聞いたギルガメッシュとエルキドゥの冒険話が要因の様だ。
半年後、数々の冒険を共に越えたウルとイナンナは結婚する事が決まった。
この結婚話にウルクとキシュの民は大いに盛り上がった。
ウルとイナンナの婚姻の儀が行われた頃からエルキドゥは少しずつ寝台の上で過ごす時が増えていった。
翌年、ウルとイナンナの間に子供が産まれた。
孫を腕に抱いたエルキドゥは嬉しそうに微笑んでいた。
そして、エルキドゥが孫を腕に抱いてから1ヵ月後。
ついに、エルキドゥがギルガメッシュの元に旅立つ時がやってきたのだった。
◆
「二郎、長い間本当にありがとう。」
「こっちこそ楽しかったよ、エルキドゥ。」
寝台の上で横になっているエルキドゥが優しく微笑む。
「ギルを随分と待たせちゃったね、怒ってるかな?」
「遅いって文句は言うだろうけど、怒ってはいないんじゃないかな?」
「ふふ、そうだね。」
既にエルキドゥとの別れを済ませたウルとイナンナは部屋の外に出て、俺達に別れの挨拶をさせてくれている。
「それじゃ、ギルの所に行くよ。二郎、元気でね。」
「エルキドゥ、よい旅を。」
ニコリと微笑んだエルキドゥはそのままゆっくりと目を瞑り、ギルガメッシュの元へと旅立ったのだった。
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また来週お会いしましょう