「やれやれ、また貴方か。今度はいったい何を仕出かしたのかね?」
白髪の剣士を倒した後に魂に干渉して白髪の男の意識を取り戻させると、
白髪の男が斜に構えてそう言ってきた。
「まるで俺が何か悪い事をしたような物言いだね。」
「私がここにいるということは、少なくとも『世界』にとっては
認められない事をしたのだろう。」
そう言ってから白髪の男はため息を吐いた。
「随分と疲れている様だね?」
「誰かの友である黄金の王がその妻と共に、並行世界の己の『座』に乗り込んだのでね。
私はその矛盾を解消するためにあらゆる時代を駆けずり回るはめになったのだよ。
まぁ、私の努力は無駄になったがね。」
そう言うと白髪の男はまたため息を吐いた。
どうやら苦労性な男の様だ。
「そうか、それはお疲れ様。」
「問題を起こしたのは貴方の友人なのだが…。」
白髪の男は疲れを解す様に眉間を揉んだ。
「それで、今回も私の意識を取り戻したようだが…何を聞きたいのかね?」
そう聞いてくる白髪の男に俺は千年以上前に考えた事を話す。
「あぁ、君の名を教えて欲しくてね。」
「私の名を?英雄になり損ねた男の名など聞いてどうするのかね?」
「黄帝が弓を開発する前から弓を使っていた者だったからね。
気になってもおかしくないだろう?」
俺がそう言うと、白髪の男は自嘲するように笑いながら話し出す。
「あいにく私の記憶は摩耗している。それにかつて言ったと思うが、私は自身を殺したいと
思っているのだ。そんな私が自身の名をわざわざ思い出そうとは思わんよ。」
俺は白髪の男の返答に困って頭を掻く。
「う~ん、それは困るなぁ。」
「困る?私の名を聞けないことに何を困るのかね?」
「君を『世界の守護者』から解放出来ないからさ。分霊である君じゃなくて、君の本体をね。」
俺の言葉に白髪の男は驚いて目を見開いた。
「私を解放する…?バカな、そんなこと出来るはずが…。」
「出来るよ。条件が揃えばだけどね。」
白髪の男の言葉を遮る様に言うと、白髪の男は焦った様に話し出した。
「貴方は何を言っているのかわかっているのか?!『世界』を敵に回しかねんのだぞ?!」
自分が解放されるかもしれないというのに相手の心配か…。
うん、やっぱりこの男は苦労性だな。
「『世界』を敵に回す?それがどうかしたのかな?」
「なっ!?考え直せ、二郎真君!そんな無理な事は…。」
「無理は千年以上前にギルガメッシュやエルキドゥと一緒に散々やってきたからなぁ…。
今更って感じだね。」
おどける様に肩を竦めると、白髪の男は睨む様に俺を見据えてくる。
「私は救われる価値の無い男だ。周囲の人達を切り捨て、理想の為に奔走し、多くの人々を
救ったが、最後には救った人々に殺され、理想を抱いて溺死した男だ!」
そう言う白髪の男の目は、まるで泣き出す前の子供の様だ。
「後悔しているのかな?」
「言ったはずだ!私は自身を殺したいほどに…。」
「あぁ、そうじゃなくて、誰かを救ったことを後悔しているのかなってね。」
俺の言葉に白髪の男は言葉が出てこないのか、口をパクパクさせている。
「あ…いや…。」
白髪の男は困惑して目をキョロキョロさせている。
「いや…だが…。」
「どんな理由で君が英雄を目指したのかはわからない。でも、誰かを救った事は
後悔していないんだろう?なら、それは間違いじゃないよ。」
「…間違いじゃない?」
白髪の男は顔を覆うように手を顔に当てる。
「だが、1人でも多く救いたかったのに救えなかった人達が…。」
「全ての人を救うなんて神でも無理だよ。まぁ、それを目指すのは個人の自由だけどね。」
俺がそう言うと、白髪の男は両膝を地についた。
「『俺』は…間違ってなかったのか?」
「辿り着いた結果は君にとって間違いなのかもしれないね。でも、そこに至るまでの思いは
間違いじゃないと思うよ。」
俺がそう言うと、白髪の男の目からポタリと涙が地面に落ちる。
「す、すまん。涙が…。」
「気にしないでいいよ。俺は仙人だから時間は幾らでもあるし、君も1日ぐらいなら
世界に留まれるだろうからね。」
その後、白髪の男は子供の様に声を上げて泣き続けたのだった。
これで本日の投稿は終わりです
また来週お会いしましょう