二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です


第44話

「すまない、見苦しい所を見せてしまった。」

 

泣き終えた白髪の男は苦笑いをしながらそう言うが、その表情はどこか晴れやかだった。

 

「それで、協力してくれるのかな?」

「あぁ、それはこちらからお願いしたい。だが、その前に1ついいだろうか?」

 

俺は白髪の男の言葉に頷いて先を促す。

 

先を促された白髪の男は首を傾げながら話し出した。

 

「私を解放してくれるのはありがたいのだが、対価はなんだろうか?」

 

そう言った白髪の男の言葉に、今度は俺が首を傾げる。

 

「対価?」

「私は未熟者だが、これでも魔術師の端くれだ。故に等価交換の原理が基本だ。

 もっとも、生前の私は親切の押し売りをして対価を受け取らなかったが故に、

 誰にも理解されず最後は絞首台の上に上がってしまったのだがね。」

 

白髪の男は自嘲するようにそう言うが、今の彼は後悔していないようだ。

 

「う~ん、ギルガメッシュなら何も言わずに笑って受け取るんだけどなぁ。」

「生まれながら王である彼の者と、一般人である私を一緒にしないでくれ。」

 

白髪の男はため息を吐きながらそう言った。

 

さて、対価か…どうしよう?

 

俺は少し考えると、あることが思い浮かんだ。

 

「うん、ちょうどいいかな。」

「ふむ、それで何を対価として支払えばいいのかね?今の私は一文無しなので

 大したものは支払えないが…。」

 

そう自身を皮肉る白髪の男に、俺は思い浮かんだ事を話す。

 

「君、俺の弟子にならないかい?」

「…何?」

 

俺の言葉を聞いた白髪の男は驚いた表情を見せた。

 

「二郎真君。すまないが、もう一度聞かせてもらってもいいだろうか?」

「うん。だから、俺の弟子にならないかい?」

 

もう一度聞いた白髪の男は目を見開いた。

 

「…なんでさ。」

「俺の師である太上老君にそろそろ弟子を取ったらどうだって、少し前に言われたんだよね。」

 

俺が肩を竦めながらそう言うと、白髪の男は頭を抱えてため息を吐いた。

 

「弟子はついでのように取るものでは無いだろう…。ましてや私は非才の身だ。」

「君に戦う者としての才が無いのはわかってるよ。」

 

俺がそう言うと、白髪の男は目に見えて落ち込んで両手と両膝を地についた。

 

「それでも君の弓の腕前は本物だし、戦いの才は一流だと言えるものだね。」

「…武神に認められるのは素直に嬉しいが、誉めるのか貶すのか

 どちらかにしてくれないかね?」

 

そう言って白髪の男は立ち上がると、またため息を吐いた。

 

「あぁ、それともう1つ。」

「まだあるのかね?まぁ、救ってもらえるのだ。この際、何でも言ってくれ。」

 

そう言う白髪の男の顔には、どこか諦めの色がある。

 

他人事ながら苦労性だなと思うよ。

 

「もう1つは、家僕の代わりもやってくれないかな?」

「家僕?」

「俺は中華の天帝の外甥なんだけど、その立場上それなりの所に

 住まないといけないんだよね。」

 

灌江口に俺の廓があるのだが、その大きさは人が住む小さな村ぐらいの大きさがある。

 

「俺が中華に戻ると伯父上から俺の廓に家僕が送られてくるんだけど、彼等がいると

 数百年前に始めた料理を自分で作れないんだよね。」

「その者達の仕事が貴方の世話をすることなのだからそれも仕方ないと思うが?」

「まぁそうなんだけど、哮天犬も俺の料理を気に入ってくれているからね。

 結構面白いし自分で作りたいのさ。」

 

なんか白髪の男は弟子の話よりも興味を持っている様に見える。

 

料理とかが好きなんだろうか?

 

ちなみに俺が料理を始めた理由は黄帝が漢方薬を広めたからだ。

 

この漢方薬の材料に香辛料などがあることで、

料理の味が以前に比べて豊かになったんだよね。

 

「それで、貴方の廓はどのぐらいの大きさなのかね?」

「小さな村ぐらいの広さはあるかな?」

 

俺がそう言うと、白髪の男は表情を隠すように口に手を当てた。

 

「…そうか。」

「うん。それで、その2つが対価ということで構わないかな?

 もちろん、俺が中華にいない時とかは自由にしてくれていいからさ。」

「あぁ、その対価で契約しよう。」

 

そう答えた白髪の男はどこか嬉しそうだった。

 

「さて、それじゃ君を『座』から解放するのに必要なモノが3つほどある。」

「1つは私の名だろう?後は何かね?」

 

俺は指折りながら必要なモノを答えていく。

 

「1つは今君が言った通りに君の名だね。2つ目は君の髪を1本。3つ目は君に縁が深い

 何かを1つっていったところかな。」

 

俺の言葉に白髪の男は顎に手を当てて考えている。

 

「縁が深いとはどの程度の物かね?」

「出来れば君の代名詞と言える物があれば完璧だね。そうでなかったら

 長い間身に付けたものかな?」

 

俺がそう言うと、白髪の男は懐から赤い宝石を取り出した。

 

「これは生前の私が生涯身に付け続けた物だが…これで問題ないかね?」

「あぁ、大丈夫だよ。」

「英霊の私の物では、私が『座』に戻れば消えてしまう可能性があるが…。」

「問題無いよ。こういった事は初めてじゃないからね。」

 

その赤い宝石と共に彼の髪を受け取った俺は、それらを神酒に漬ける。

 

「それで名なんだけど、記憶が摩耗していて思い出せないかな?」

「いや、覚えている。何度も忘れようとした名だがね…。」

 

そう言って白髪の男は佇まいを正して、俺の目を見据えて答えた。

 

「私の名はエミヤ…『衛宮 士郎』だ。」

 

そう名乗った彼のその目には過去の自分への絶望の色は無く、これからの未来に向けた

希望の色に満ちていたのだった。




本日は5話投稿します

次の投稿は9:00の予定です

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