中華のとある場所に女仙である『竜吉公主』の屋敷がある。
その屋敷の家僕が慌てた様子で主である竜吉公主の元に駆け寄った。
「主様!」
家僕の慌てた様子に興味を惹かれた竜吉公主は、面白そうに微笑んで家僕に言葉をかけた。
「これ、そのように慌てては妾に伝わらぬぞ?して、何があった?」
呼吸を整えようと家僕が深く息を吸ってから話し出す。
「…君様が当屋敷に参りました!」
言葉の始めが詰まってしまった家僕に竜吉公主は首を傾げて問い質す。
「慌てずともよい。もう一度申してみよ。」
「は、はい。二郎真君様が当屋敷に参りました!」
家僕の言葉に竜吉公主の動きが止まる。
そして肩をプルプルと振るわせると、花も恥じらう程の華やかな笑みを浮かべた。
「本当か?!嘘ではあるまいな?!」
そう言う竜吉公主は嬉しさを隠せない様子で椅子を立ち上がる。
「あぁ…この服ではいかぬな。妾は着替える!今しばし、二郎真君には
待ってもらうように伝えるのじゃ!」
「は、はい!」
家僕の1人が走り出すと、竜吉公主は軽やかな足取りで着替えに向かったのだった。
◆
「中々案内されないね、哮天犬。竜吉公主に何かあったのかな?」
「ワフゥ?」
伯父上から受け取った霊薬を持って竜吉公主の屋敷を訪ねたんだけど、
もう四半刻(30分)は待たされている。
天帝である伯父上の外甥という立場もあって、中華での俺の扱いはかなりのものだ。
その扱いは使いの者を出さなくても、中華の地を治める人の王や
忙しい伯父上に直ぐに会える程だ。
待っている間暇だったので、千年以上前にウルクで戦った天の牡牛の尾の毛で作った毛梳で
哮天犬の毛梳きをする事にした。
とても嬉しそうに尻尾を振る哮天犬の頭を撫でながら毛を梳いていく。
家僕が何度も頭を下げに来ながら更に待たされること四半刻。
案内をする者が漸く出てきた。
「待たせたのじゃ、二郎真君。」
案内に出てきた者は綺麗に着飾ったもの凄い美少女だった。
その美少女の容姿はシャムハトやエルキドゥにも劣らない。
「君は?」
「妾か?妾は竜吉公主!この屋敷の主なのじゃ!」
この美少女が竜吉公主?
胸に手を当てて名乗りを上げた竜吉公主は、花開く様な笑みを浮かべたのだった。
◆
屋敷の主である竜吉公主に屋敷の中を案内されて広間に着くと、
そこには宴の準備がされていた。
「今日はお祝いなのじゃ!二郎真君、遠慮せずに楽しんでいくのじゃ!」
なんのお祝いなのかわからないけど宴は好きなので参加しよう。
でも、その前に…。
「竜吉公主、はいコレ。」
「おぉ!?二郎真君からの贈り物なのじゃ!妾は嬉しいのじゃ!」
竜吉公主は俺が出した霊薬を家僕に受け取らせずに自らの手で受け取った。
そして、その霊薬を胸に抱くと嬉しそうに笑った。
「竜吉公主、それは伯父上から頼まれた霊薬だよ。」
「伯父上?あぁ、父上の事じゃな?」
…ん?
「父上?」
「そうなのじゃ。妾の父上は天帝なのじゃ。」
そう言いながら竜吉公主は俺の杯に酒を注ごうと近くに寄ってくる。
「伯父上に新しく子が出来たとは聞いてなかったなぁ。」
頭を掻きながらそう言うと、俺は竜吉公主に注がれた酒を飲み干す。
…うん、次の一杯は権能で神酒に変えよう。
俺の舌もギルガメッシュみたいに肥えてしまったのかもしれないな。
「それで、竜吉公主の母は誰なんだい?」
「母上か?母上は三聖母なのじゃ!」
…え?
竜吉公主の答えに俺は思考が止まってしまう。
…この事を母上は知っているのか?
もし知らなかったら伯父上の腹が母上の崩拳で打ち抜かれるぞ。
「妾の事を知ろうとしてくれるのは凄く嬉しいのじゃ!でも、妾は二郎真君の事も
知りたいのじゃ!」
そう言って竜吉公主は俺の杯に酒を注ぎながら、俺の肩にピタリと身体を寄せてきた。
どうしてこうなった…。
俺はため息を1つ吐くと、権能で神酒に変えた酒を一息で飲み干したのだった。
これで本日の投稿は終わりです
また来週お会いしましょう