竜吉公主と出会ってから十年程の月日が経った。
あれからも俺は世界を巡って宝貝を集めている。
宝貝集めは順調で、後百年もあれば終わるだろう。
今回の旅でも宝貝を手に入れて中華に戻ってきた。
伯父上に宝貝を献上した俺はその帰りに竜吉公主の屋敷に顔を出した。
竜吉公主は俺を招き入れて、また宴を行った。
家僕の料理の腕が上がっていたのは嬉しい誤算だ。
その日も十年前と同じ様に竜吉公主の屋敷で一夜を明かした。
だが、十年前と違う所が1つある。
それは…。
「二郎真君、おはようなのじゃ。」
隣に竜吉公主が寝ているところだな。
「おはよう、竜吉公主。身体の調子はどうだい?」
「下界で暮らす様になってから一番好調なのじゃ。二郎真君に気を巡らせて
整えてもらったおかげじゃのう。」
そう言って竜吉公主が両手を上げて伸びをすると、掛け布団が落ちて竜吉公主の
美しい肢体が露になる。
そう、昨夜の俺は竜吉公主と房中術を行ったのだ。
彼女は生まれながらの仙人であるが故に濃い神秘の中でなければ生きられず、
地上では調息をして『気』を整えても直ぐに乱れてしまう。
なので彼女が少しでも長生き出来る様に房中術で『気』をしっかりと整えたのだ。
「なんじゃ?妾の身体に見惚れたのか?」
竜吉公主はそう言ってふふんっと鼻を鳴らす。
「やれやれ、昨夜は随分としおらしかったんだけどなぁ。」
「し、仕方なかろう。妾は房中術は初めてじゃったのだから。」
そう言って竜吉公主は顔を赤らめて頬を膨らませる。
昨夜、俺は彼女に霊薬や反魂の術で体質を変えたり、地上でも生きられる
新しい身体にしてはどうかと提案をしてみた。
だが、彼女はその提案を拒否した。
竜吉公主曰く…。
『天然自然に生まれていない妾にとって、この身体が父上と母上との絆なのじゃ。
だから例え長生き出来ずともこの身体を変えるつもりはないのじゃ!』
そう彼女は笑顔で言いきった。
その時の笑顔で俺がなんと言おうと決意は変わらないとわかったので、
俺は彼女のその思いを尊重することにした。
そんな竜吉公主に俺が出来るのは少しでも長生き出来る様に、
彼女の『気』を整えてあげることぐらいだ。
「じゃが、これであやつに馬鹿にされずに済むのじゃ!」
「あやつ?」
「女狐じゃ。」
女狐?
「あやつは女媧様の下におる女仙なのじゃが、妾がまだ母上の所で暮らしておった時に、
たまに女禍様の使いとして顔を見せていたのじゃ。」
女媧
下半身が蛇の女神で、伏犠という男神と番であり、中華の地を産んだ三柱のうちの一柱である。
「妾は母上に二郎真君の話をいっぱい聞いていたからその話をあやつに聞かせてやったのじゃ。
そうしたらあやつは、『私は楊ゼン様と房中術をした仲なのよん♡』って
妾に自慢しおったのじゃ!」
その話し方には覚えがある。
「もしかして、俺が房中術の修行をしていた時の相手の1人かい?」
俺の問い掛けに竜吉公主は不満気に頷く。
「そうか、彼女は女媧様の下にいるのか。」
俺は千年以上前の事を昨日の事の様に思い出す。
あの娘も竜吉公主に劣らないもの凄い美人だった。
俺がそう思い出していると、竜吉公主が話し出す。
「あやつはたまに妾の屋敷に遊びに来るのじゃ。今度来たら妾も二郎真君と
気を交わしたと自慢してやるのじゃ!」
竜吉公主はそう言っていたずらをする子供の様な表情をしている。
「竜吉公主、彼女の仙人としての名はなんというんだい?」
「むぅ、二郎真君、目の前に妾がいるのに他の女の事を考えるのは失礼なのじゃ。」
そう言いながら竜吉公主は俺を睨んでくる。
「まぁよい、今はこれで許すのじゃ!」
そう言って竜吉公主はその身体を俺に預けてきた。
俺は竜吉公主の頭をポンポンと軽く叩く。
「子供扱いは止めるのじゃ!」
「はいはい。」
そう言いながらも竜吉公主は俺の手を振り払わない。
「まったく…。二郎真君、あやつの名は『妲己』なのじゃ。」
「『妲己』?」
「うむ、今では九本にまで尾が増えた狐の力を持つ女仙なのじゃ。武においては
二郎真君の足元にも及ばぬが、幻術は仙人の中でも1、2を争う腕前なのじゃ。」
その後、竜吉公主の家僕が朝食の仕度が整ったと呼びにきたので寝台を抜け出す。
そして朝食を食べた俺は竜吉公主に見送られて彼女の屋敷を後にしたのだった。
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