竜吉公主と初めて会ったあの日から百年程が経った。
今では一年に一度は彼女の屋敷を訪れて、彼女の『気』を整えるようにしている。
伯父上と蓮の身体の一部を使って造られた存在という事もあって、
なんとなく放っておけないのだ。
そしてこの百年で宝貝の数も十分に集める事が出来た。
やっと士郎の転生の準備に移れるな。
そう考えながら中華に戻ってきた俺は伯父上に宝貝を献上すると、
哮天犬に乗って竜吉公主の屋敷に向かったのだった。
◆
「二郎真君、よくぞまい…。」
「楊ゼン様ぁ♡会いたかったわぁ~ん♡」
竜吉公主の屋敷を訪ねると、屋敷の主である竜吉公主を押し退けて
美女が俺に抱きついてきた。
「妲己!何をするのじゃ!二郎真君から離れるのじゃ!」
「もぅ、千年振りの再会を邪魔するなんて無粋よん、竜吉公主ちゃん♡」
竜吉公主が妲己と呼んだ美女に目を向ける。
その美女の顔には見覚えがある。
「久し振りだね。今は妲己と名乗っているんだったかな?」
「そうよん、楊ゼン様。妲己と呼んでねぇ♡」
そう言って妲己は俺の腕にその豊かな双丘を押し付ける様に腕を絡めてくる。
「ええい!妲己!屋敷の主である妾を差し置いて二郎真君と
馴れ馴れしくするのはダメなのじゃ!」
「あらぁ~?なら竜吉公主ちゃんも楊ゼン様と腕を組んだらいいじゃな~い。」
「…妾だって弟子の目が無ければそうしたいのじゃ。」
「あらあら、お師匠様は大変ねぇ~。」
竜吉公主はこの百年で弟子を何人かとっている。
弟子をとった理由は竜吉公主の体質が関係している。
竜吉公主は中華の帝として考えられて邪仙達に造られた存在だ。
その邪仙達は一代で完成する帝を求めて竜吉公主を造った。
一代で完成する。
つまり、次代に繋ぐことなく完成した存在を求めて造られたのだ。
それ故に竜吉公主は子を産む事が出来ない。
そこで竜吉公主は自身が生きた証として何かを残そうと弟子をとったのだ。
生まれながらに仙人である竜吉公主は、数ある仙術の殆どで仙人の中でも上位の腕前を誇る。
そんな竜吉公主に憧れて弟子入りを希望する道士が、毎日の様に竜吉公主の
屋敷を訪れているのだ。
もっとも、憧れられているのは竜吉公主の仙術の腕前だけでなく、
中華でも屈指の容姿も含まれているんだけどね。
「さぁ、楊ゼン様行きましょう。宴の準備が出来ているわぁ♡」
「コラァ!屋敷の主は妾じゃぞ!」
妲己に腕を引かれて案内をされる俺の後を、怒りの声を上げながらも楽しそうな
竜吉公主がついてくるのだった。
◆
竜吉公主の屋敷で一夜を明かした俺は、士郎の転生の準備をするべく
灌江口にある俺の廓へと戻った。
屋敷を去る際に妲己が俺に抱きついて口吸いをしてきたのだが、
それを見た竜吉公主が霧露乾坤網を用いて水球を造り出し、
水球を飛ばして妲己の頭にぶつけた。
それで竜吉公主と妲己の喧嘩になったのだが、お互いに本気ではなく
じゃれあう程度だったので程々にと言ってそのまま去った。
廓に戻った俺は、反魂の術をするための準備をしていく。
そして士郎の転生の準備を始めてから十日程経った頃、
俺は伯父上に宮へと呼ばれたのだった。
◆
「伯父上、二郎真君、ただいま参りました。」
「うむ、よく来た。」
片膝をついて包拳礼をした後、立ち上がって周囲を見渡す。
そこには老師である太上老君と元始天尊様、そして太上道君と仙人の中でも最上位に
位置する『三清』が集まっていた。
「お三方までいる事を考えると、何か大事があったのですか?」
「うむ、その事なのだが…。」
伯父上の歯切れが悪い。
言いにくいことなのか?
「天帝、言いにくければ僕から話そう。」
「すまぬな、太上老君。」
老師は一歩進み出ると、俺に笑顔を向けてきた。
「百年振りだね、二郎。」
「はい、お久し振りです、老師。」
俺と老師はお互いに包拳礼をする。
「さて、二郎。今回君を僕達の所に呼び出したわけなんだけど、崑崙山等の『移動』に
関して問題が発生したからなんだ。」
「問題?宝貝の数が不足していたのですか?」
「二郎が集めてくれた宝貝の数は十分だったよ。でも、宝貝が足りなくなってしまったんだ。」
数は十分なのに足りない?
どういうことだ?
俺が首を傾げていると、伯父上と三清の方々が揃ってため息を吐いた。
「一体、何があったのですか?」
俺の問いに他の方々と顔を見合わせて頷いてから老師が口を開いた。
「二郎、女媧様が天帝の蔵から宝貝を大量に盗みだしたんだ。」
老師が告げた言葉に、俺は驚いて目を見開いたのだった。
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