二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です


第53話

「それで、その封神計画を俺が実行すればよろしいのですか?」

「いや、二郎は封神計画を見守ってもらいたい。」

 

伯父上の返答が意外だったので俺は首を傾げてしまった。

 

「見守るのですか?」

「うむ、二郎が表立っては女媧様の配下の者達は隠れてしまうだろう。

 そうなっては封神計画の真の目的を果たす事はかなわぬからな。」

 

封神計画の表向きの理由は転生出来ない様に魂を封じるといったものだ。

 

しかし真の目的は『移動』の贄とする為に多くの魂を集める必要があるのだが…。

 

「俺が表立つと女媧様の配下の者達は隠れるのですか?」

「ふむ…。元始天尊よ、お主は二郎が敵対したらどうする?」

「すっ飛んで逃げるのぉ。」

 

そう言って元始天尊様が笑うと、俺以外の方々がつられるように笑った。

 

「二郎真君の名は今や武神として隠れる事なく中華に轟いておる。仙人どころか

 神仙であっても二郎真君と戦おうとする者はおるまいよ。」

 

元始天尊様のその言葉に伯父上達が首を何度も縦に振る。

 

俺は照れを誤魔化す様に頭を掻いた。

 

「では、誰に封神計画を任せるのですか?」

「真の目的の性質上、女媧様の配下に勝てる者であり、なおかつ逃げられぬ様な

 無名の道士でなければなるまい。それに加えて殷に深い憎しみを持つ者が望ましいな。

 封神計画の真の目的に気付いても封神計画を続けてもらわねばならぬからな。」

 

伯父上の言葉に俺と三清の方々が頷く。

 

その後、三清の方々がそれぞれの弟子から候補を探すことが決定して、

その場は解散となったのだった。

 

 

 

 

封神計画の準備が終わるまで暇が出来た俺は、士郎の転生の準備を再開した。

 

その準備の途中、伯父上の使いが候補者が決まったと報せてきた。

 

候補者は元始天尊様の弟子で、『姜子牙』という道士らしい。

 

姜子牙は道士としては非常に若く、まだ百年も生きていないそうだ。

 

そんな未熟な姜子牙を鍛えるため、そして封神計画の準備のために

十年は時間を掛けるそうだ。

 

その十年の間に女媧様の配下達に殷を滅ぼす為の準備を整えさせるみたいだな。

 

というわけで十年は暇になったので、細かい事は伯父上達に任せて

俺は士郎の転生の準備をしよう。

 

そんな感じで準備を進めていき後は反魂の術を実行するだけとなったその時、

俺の廓に妲己がやって来たのだった。

 

 

 

 

「楊ゼン様ぁ♡会いたかったわぁ~♡」

 

家僕が俺の廓の中に来客を招き入れると、その来客であった妲己が俺に抱きついてきた。

 

「いらっしゃい、妲己。それで、今日は何の用だい?」

「う~ん、もう少しこ・の・ま・ま♡」

 

そう言って妲己は俺に身体を預けてくる。

 

しばし妲己の思うままにさせていると、妲己は満足したのか俺から離れた。

 

そして、佇まいを正すと常の柔和な表情を引き締めて話し出した。

 

「楊ゼン様、今日はお別れを言いに参りました。」

 

そう言って妲己は俺に頭を下げる。

 

「女媧様の一件かい?」

「はい、その一件で私は殷の紂王の元に行くことが決まりました。」

 

俺は妲己の言葉に頷いて続きを促す。

 

「私は配下の者の手引きで紂王に目通りします。そこで紂王を幻術で誘惑し、

 彼の者の後宮に入り、殷を内から崩していく手筈になっています。」

 

妲己の幻術の腕前は仙人の中でも一、二を争うものだ。

 

紂王の誘惑はまず間違いなく成功するだろう。

 

しかし…。

 

「妲己、君はどこまで知っているんだい?」

「又聞きではありますが、竜吉公主から例の計画の事を聞いています。」

「後宮に入るという事は殷の中心人物として狙われる事になるけどいいのかい?」

「覚悟しております。」

 

そう言って妲己は微笑む。

 

「楊ゼン様、私は以前から考えていました。このまま数多くの仙人の中の一人として、

 中華の人々に名を知られぬまま過ごしていくのかと…。」

 

妲己は虚空を見詰めると、思いを吐露する様に話し出す。

 

「中華の人々が知る仙人はそう多くありません。天帝様を始めとして数える程度でしょう。」

 

一つ間を取ってその豊かな双丘に手を置いてから妲己は言葉を続ける。

 

「私は楊ゼン様を羨んでおりました。身に付けた拳法や仙術を使い、

 自由に生きているそのお姿を…。」

 

顔を上げた妲己は俺にニコリと微笑む。

 

「ですが、私はこれまでに培ってきた力を振るう機会を、中華の歴史に名を残す

 機会を得る事が出来ました。」

「名を残すとしても、おそらくは悪名となる可能性が高いだろうね。」

「望むところです。」

 

嬉しそうに微笑む妲己を見て、俺は彼女の決意は変わらない事を察した。

 

そんな彼女を思い止まらせようとするのは無粋だな…。

 

「そうなると妲己は『傾国の美女』と呼ばれる事になるのかな?」

「傾国の美女…。ふふ、最高の栄誉です。」

 

再び虚空を見詰めた妲己は熱に浮かされた様に頬を赤く染めた。

 

そして一歩俺に近付いた妲己は、正面から俺の背に手を回して抱き付いてきた。

 

「…配下の者達が準備を整えるまで十日程の時間があります。その間、楊ゼン様と

 一緒に過ごしてもよろしいですか?」

「この態勢でそれを聞くのは狡いと思うけど?」

「ふふ、いい女は強かなのよ~ん♡」

 

それまでの真面目な表情を崩した妲己は、茶目っ気たっぷりに片目を瞑ったのだった。




本日は5話投稿します

次の投稿は9:00の予定です

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