あれから十日間、妲己は俺に甘え続けてきた。
俺も彼女を受け入れて日々を過ごしていった。
そして…。
「紂王ちゃんに会いに行く前に、竜吉公主ちゃんに自慢しに行くわん♡」
そう言って妲己は俺の廓を去っていった。
妲己が去った後は準備を終えていた士郎の転生を始める。
哮天犬が見守る中で反魂の術を使うと、天に昇った光が士郎の髪を元に作った器に降り注ぐ。
そして…。
「…どうやらこの身体の感覚は霊体ではないようだな。」
一言呟いた士郎がむくりと身体を起こしたのだった。
◆
「くっ!この辛味の奥にある旨味はなんだ?!どうすればこの味を出せる?!」
無事に転生した士郎に料理を振る舞うと、一口食べたところで驚いて手が止まっていた。
「士郎、身体の調子はどうかな?」
「この味は…っ!すまない老師、身体の調子は問題ない。」
匙を置いた士郎が俺を見ながらしっかりと答える。
「だが、色々と聞きたい事があるのだが…構わないだろうか?」
「とりあえず、それを食べてからにしたらどうかな?」
「…どうやら転生したばかりで少々気が昂っていたようだ。」
そう言うと士郎は匙を手に取って食事を再開した。
だけど士郎は一口食べる毎に、何故か敗北をした様な表情をするのだった。
◆
「老師、ご馳走さまでした。」
「口にあったようでよかったよ。」
俺がそう言うと、士郎は拳を握り締めて悔しそうにする。
…夕食は士郎に作ってみてもらおうかな?
そんな事を考えながら俺の隣で寝そべる哮天犬の頭を撫でていると、
気を取り直した士郎が口を開いた。
「老師、色々と聞かせてもらいたいのだが構わないだろうか?」
「あぁ、いいよ。」
俺が返事をすると、士郎は一つ頷いてから話し出す。
「ではまず一つ、前世に比べて私の『魔術回路』が大幅に増えているのだが、
どういうことだろうか?」
「それについて答えるには士郎の魂について話さないといけないね。」
士郎は腕を組んで俺の話を聞く態勢をとった。
「士郎、君は死後に英霊になった。そうだね?」
「あぁ、そうだ。」
「君の器になる身体を君の髪から造ったんだけど、そのままでは英霊になった君の魂を
受け入れるには神秘が薄かったんだ。」
士郎は俺の言葉に首を傾げる。
「神秘が薄かった?」
「そう、英霊になる程の人物とは思えない程に前世の君の身体は神秘が薄かった。
それこそ、神秘が徐々に薄れている今の世でも考えられない程の薄さだったね。」
俺の言葉に心当たりがあるのか、士郎は一度首を縦に振った。
「そんな君の身体に今の君の魂を入れても、『世界の守護者』だった頃の力を半分も
発揮出来ない。そこで、人の範囲で収まる程度に手を加えたのさ。」
エルキドゥの時の様に半神半人としなかったのは、士郎が前世で
純粋な人間だったからだ。
もし神の血を与えようと思ったら士郎の魂の方も手を加えないといけない。
その魂に手を加えるのに時間が掛かれば『世界』に士郎の転生を
邪魔される可能性が高かった。
なので確実に反魂の術を成功させるために、士郎の身体の調整は人の
範囲で収まる程度に抑えたのだ。
まぁ士郎が半神半人の身体になりたいのなら、転生をした後に
改めて反魂の術をすればいいんだけなんだけどね。
そんな感じで俺が説明すると、士郎は片手でコメカミを抑えたのだった。
◆
「余計なことだったかな?」
「いや。老師、感謝する。」
私は世界の守護者として数多の世界や時代を巡って来たが、ここまで魔術師の常識に
正面から喧嘩を売るほどに仙人が非常識だとは思わなかった。
いや、老師が特別なのかもしれない。
なにせ老師は仙人であると同時に武神でもあるのだからな。
私は今一度自身に解析の魔術を使う。
そして魔術回路の本数を確認すると、活性化していないものを含めて百を数えた。
…なんでさ。
前世は少ない魔術回路を何度も焼きつかせながら魔術を行使し続けた。
あの意識が飛びかねない激痛に耐えながらだ。
それが、こうもアッサリと解決してしまうとはな…。
前世の我が師である彼女が知ったらどう思うだろうか?
何故か私に腹いせでガンドを撃ち込んでくる姿を幻視したのは気のせいだと思いたい。
他にも老師には聞きたい事がある。
だが今の私は壊されていく常識に混乱する自身を抑えるのに精一杯なのだった。
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